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1.15 要塞の塔

場には独特な静寂が走る、その静けさは個々が思考を巡らせている時間であった。


疑問と困惑が渦巻く、元軍属や元執行機関の層には上の命令には絶対服従、その根本的な教えをひっくり返された思いだった。


それ故に主の命令を無視し私益の為に動く事が自身の辞書に無く戸惑う。


義理を、怒りを、正義を、秩序を、各々が胸に抱くものは様々だが。その考えもただひとつの規則に基づく。それこそが


『絶対服従』


機械的に淡々と下される命令、そこに正しいか、間違いかなどは関係ない無い、ただこなすだけの殺人マシンが求められる。


もっともハヤトは“それを嫌う“が俺達に染み付いた習慣はなかなか抜けない。


各々の沈黙の意味を察したのか、ハヤトが口を開く。


「不測の事態が起きた場合は個々の判断に委ねる、自分の思う正しい事をしろ」


話が一段落した所で立ち上がろうとするがその直前で声がかかる


「それとD、テレス。お前達は屋上の警備だ」


「へ?なんで?」


「なんでもなにも、“まだ前回のけじめが済んでないだろ“ほら、行った行った」


「う゛っ!?」


しっしっと手で追い払うような仕草をされる、渋々立ち上がり部屋を出る、扉を閉めるとだだっ広い廊下が広がる。


「警備なんて言われたって、こんなの1丁でどうしろと...」


おもむろに服の中に仕込まれたホルスターを服の上から触りながら愚痴をこぼした。


「...その方が都合は良い」


テレスはそう囁くとスタスタと歩いて行ってしまう


「あ、おい!はぁ...」


テレスの背中を追ってとぼとぼと長い廊下を歩きながら屋上への道を探す。


そして何重にも閉ざされた扉の向こうに屋上へと続く階段があり、その階段を駆け上がる。


ヒュオオオオと強風に晒される、出たのは屋上の中央付近、振り返り見上げるとこの高層ビルの頂上にヘリポートがある事が分かった。


キョロキョロとあたりに視線を落とす、ただどこかがおかしい...。


屋上には空調機が所々に置かれ金属の管が伸びる、それを隠す様に通路を跨ぐ管には目隠しのように蓋されその上に作業用の通路として格子状の足場が組まれていた。


その死角をカバーするよう至る所に自動機銃が配備され、防空システムとしての役割と侵入者の掃討を目的とされている配置だった。


「これは確かに空からの侵入は厳しいな...」


先に着いているであろうテレスを探しに室外機やダクトの間をすり抜ける、そうすると奥まったところにテレスを見つけた。


「おい...先に行くなよ...」


その言葉の答えはなくこちらに気がついたテレスがズカズカと距離を詰めてくるが何も言わない。


「もっと近寄って」


言われるがままに近寄るとテレスがサスペンダーに銃を刺した逆側をまさぐる、そこは無線機を付けていた所だった。


カチリと音がすると電源が切られた事がわかった。


「え?え?」


多少困惑したがそれはすぐに消え去った。


「大事な話がある」


神妙な面持ちでにじり寄られ、拒否することは出来なかった。


「...なんだよ改まって」


応じることがわかるとそのままテレスは近場の機銃に腰掛けた。


「アフガスタンでの事」


そう口を開くとテレスは斧使いの話をした、もちろんよく知っている。俺とトピが相対した強敵忘れるわけが無い。


「実はそれとは別の話」


「別?」


「うん、斧使い...つまりカマキリと戦ったその後の話」


「へ?」


知らない事があったその結末だ。


よく考えてみれば俺は知らされていない。てっきりカマキリを仕留めたのかと思っていた。


ハヤトも特にそこには触れてはいなかった。それに、気がついたら次から次へと話が進みしっかりと聞くタイミングを逃していた事を思い出す。


「何が...あったんだ?」


「結論から言えば、あの斧使いはどこかの組織に属している」


「まぁ...、だろうな。あの装備からして個人の装備品の域を超えている」


「それとあとひとつ、別の覚醒者があの場に居たこと」


「...」


「トピとDがダウンした後、奴は致命傷を負った、だが立ち上がったんだ」


「その後は生気はなく傀儡のようだった、戦っていた時の闘争心すら無くなっていた」


「敵を目の前にしたら猛獣のように襲ってきた奴が、ありえる?あの様子は普通じゃない」


「それで、奴は...?」


「ヘリで逃げられたよ、どこかの誰かが開けた大穴を使ってね」


「その時だ、礼拝堂の周りが砂嵐に包まれた。戦闘中は外で待機していたけどその時はそんな兆候無かった。つまり、奴らが逃げる時に発生したってことだ、礼拝堂の上空をだけ綺麗に残したまま」


「偶然にしては出来すぎていると思わない? その後は砂嵐なんて元々無かったかのように止んだ」


「それはつまり、政府の後ろ盾がある能力者部隊があの場に居たんだ」


「このことを他には?」


「話してない、この話はいつか元の場所に戻る時の手土産になる、イカロスの隊員が死のうが俺には関係ない事だ。それに...『“俺達“の獲物』なんだろ?」


「ははは...忘れてたよ、俺達の中で執着心が誰よりも強い奴のことを...だがお前の目的わかった」


「それで...?そのヘリってのに特徴はあったのか?」


テレスに問いかけると辺りを見渡し一望する、このエクレールの首都パレスを...



「そうだな...ベースは黒のブラックホークだった、けどかなり魔改造されていて一目見ただけじゃ...」


テレスの言葉が途切れる、脳の引き出しを片っ端から開けている途中だったことでそれに気がつく事に遅れる。


ふと覗いたテレスの顔はある一点を見つめ固まっていた。


「どうしたんだよ、なにか見えたか?」


その言葉を無視するように腰掛けていた機銃を降りて小走りでビルの鉄柵へと向かった。


「おい、どうしたんだって」


テレスの背中からビルの風景を覗き込む、見つめる視線の先には黒いヘリがバラバラと飛んでいた。


テレスの顔を覗き込む、だが依然として険しい顔をしている。


その先に言葉は要らなかった。


「あれだよ...あれ」


「あれが...?間違い無いのか...?」


はるか遠くに見える黒い粒、狙撃手としての目の良さが言っていることは事実であると裏付けるには十分だった。


「間違うもんか、だが今回は干渉してくるとは限らない」


身体の芯からぞわぞわとする不快感、奥底から沸き立つ苦い感情。


「あぁ、そうだ。通信機!」


胸元を探りカチッと通信機の電源を入れる。




ザザザッとノイズが酷い、だが何かが聞こえる。話しかけられているのか...?そうしたら電源を切っていた事をどう言い訳しようかと思考を巡らせた。


「さ......!」 「...ぞ!」 「し...を...!」


時間が経つにつれてノイズがだんだんと弱まってくる。


「さっさと止血しろ!ビショップが死ぬぞ!」

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