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1.14 ハリボテの王

廊下の中央をぞろぞろと歩く。人の壁を割り、先を進む一行にまだ警戒は解かれていない。


警備は廊下の隅へと追いやられるも鋭く一挙手一投足すら見逃さないような視線を感じる。


だが集まってきた警備達はほんの一部であったことを感じた、それは敵視されていた境界を抜けるとその先は通常業務として立つ警備が多かったからだ、まさに目と鼻の先、騒ぎに気がつかなかったのでは無く、“意図的に近寄らなかった“ということに気づくのにはそう時間はかからなかった。


「なーんだ、案外まともな奴も居るじゃないか」


先頭を歩くアタッシュは大声で後ろの連中へと話しかける。


「声が大きいですよ、それだけあのカウロとやらの掌握が済んでいないのでしょう」


レオの一言は確かに的を得ていた、用心棒とは言えど、一人の人間だ。


命を投げ捨てたい奴など居ない、それ故に雇い主であるタウミルには付き従えても、カウロの優先順位は低いだろう、最優先目標の中でも。


「…そういう事か」


ぼそりとハヤトが呟く。だが、その小さなつぶやきは大人数の足音にかき消され、真隣を歩く自分以外は言葉を吐いたことすら気がついていないだろう。



その広いフロアの中心へと進むと厳重な警備で守られたエレベーターが見える。その前に居た警備に止められるが、後ろから先程の老人がやってきて話を通してくれたようで、すんなりと上階へのエレベーターへ乗ることが出来た。


何回かに分けられ、取り残されたのは俺とテレス、それにこれ以上騒ぎを起こさせまいと先に全員を乗せたハヤトだった。


最後の1組のハヤト達がエレベーターへと乗り込むと老人は立ち止まり、扉の閉まる直前、深々と一礼をした。それと同時にピシャリと扉が閉まる。


エレベーターの昇降が始まるとゆっくりと上へと吊り上げられ、今度は外の景色などは無く、豪華に装飾された室内が目的地へと距離を縮めた。


ふと横を見ると、何かを深刻そうに考えているようなハヤトがそこに居た。


「ハヤトどうしたの?」


「ん?あぁ、いや…」


自分に声をかけられた事に気が付くと言葉を濁す。どこか歯切れの悪そうに。


少しの沈黙


だが、何かに踏ん切りのついたような顔をしてこちらを向き直す。


「D、俺もよくはわからない、だが。何か胸騒ぎがするんだ」


「だが確信は無い、だからこの事はお前達と、隊長格だけにしか言わない、信じてくれるか...?」


「...もちろんだ、もう誰も傷つけさせたりしない」


そう言うと道すがらの思考がよぎる、不甲斐ない自分のせい、臆病なのに強がる自分。


今までずっとそれで通せていた。けれどもそれでは不測の事態にただ手放しで失うだけだと気付かされた。


もし失うものに大切なものを二つ秤にのせられたのなら、片方を決めなければならないのだとしたら...


『あらゆる想定はしておくもんだ』


さっきのグリズリーの言葉が頭の隅に引っかかる。天秤にかけられるはずも無い。あの場にトピだけだったから。


なら


あそこに最初からトピとテレスが居たら...?


戦闘でハイになっていた頭では考えられなかった最悪の事態。


もしそのふたつを選べと言うのなら...俺は...


「おいおい、そんなに思い詰めるなって、まだ何かが起こると決まった訳じゃないぞ。俺の考えすぎだったな、すまん」


段々と険しくなる自分の顔をみてハヤトが冗談のように軽く笑う。


「って、テレスもだ、お前達さっきから顔怖いぞ」


咄嗟に振り返ると壁にもたれかかるテレスもさっきから考え事をしているような様子だった。


だが話は聞いていたようでコクリと頷く。


沈黙は肯定、人見知りでもないと思うが何故か部隊の人間とはあまり喋りたがらないテレス。


部隊の人間からは寡黙な人間と認知されているのでコミュニケーションは簡素なものだ。

チンとベルが鳴る、それは到着の合図だった。


「さぁ!引き締めていこうか!」


ハヤトの掛け声と共にエレベーターは扉を開ける。降り口には隊員達がハヤトの到着を待ちわびていた。


扉を抜けるとそこは居住区、この高層ビルの最上階に位置する上流階級の楽園。


下の階よりも豪華な装飾、床一面に敷かれた長いカーペットは踏むにもモコモコしていて高級ホテルすらも凌駕するほどだ。


照明も高い天井に吊るされるシャンデリアが無数に吊り下がっている、それはもはや高級と言う言葉を超えていた。


「おぉ~、見るからにすごい暮らししてそうだなぁ~」


近場に置いてある花瓶に生けられた花の葉をつんつんと突く。


「その田舎者のような反応はやめなさいD、上の者の品位を損ねる行為ですよ」


「まあまあ、良いじゃないか」


口うるさい奴に間に割って入るハヤト、そこへ一人の青年がやって来た。


「ようこそお越し下さいました、ハヤト様ですね」


明るく嫌味のない口ぶりと態度に快活という言葉を体現した様は気持ち良さを通り越し感心する者の方が多かった。


レオがその青年と自分を交互に見る。


「どこで道を違えたのでしょうか」


「おいそれどう意味だ」


ハヤトの目の前の青年は真っ直ぐと見つめながら説明を始めた。


「私、オークスと申します。旦那様から客間を使うようにと仰せつかっております、どうぞこちらへ」


通された部屋は一室だと言うのに15名全員がすっぽりと収められ、それでいてまだ余裕があるほど広かった。




部屋の中で各部隊が分かれそれぞれくつろぎ始める、だがハヤトは隊長格の3名と自分とテレスを呼び出した。


部屋の片隅に設けられた応接間のソファーに腰掛けると、最後の一人が集まった。幸い部屋の規模が規模なだけに普通に話しても周囲に内容を聞かれる事は無いだろう。


「これで全員だな」


机を囲むように置かれたソファーに座る6人、ドカっと機嫌の悪そうに座るアタッシュ、イレギュラーが発生したのかと思考を巡らし前にのめり込むレオ、威風堂々と腕を組むグリズリー、そしてエレベーターでの話の続きだと疑問のしこりを残したままに発する言葉に集中する俺とテレスがその場に集まる


「早速本題だ、今日トラブルが起きる可能性が高い」


その一言は、お茶を飲みに行くだけと言われた状況から一転して緊迫していることが分かる。


「は?どういう事?状況が見えてこないんだけど?」


「そこに関してはタウミルに直接聞くしかない、だが呼ばれた理由はハッキリした」




「カウロの保護だ」




一瞬にしてその場が凍りつく、突拍子も無い一言に理解が追いつかないというのが正しいだろう。多少悪態をついていたアタッシュすらそのままの姿で固まる


「もっと詳しく言ってくれないと」


固唾を飲み次の言葉を待つ


「そうだな...、仮に脅威が目の前に居たとする、護衛はもちろん目標を守るだろう。なら、その守られる対象ってのは誰だと思う?」


「...タウミル?」


理由や道理をそのまま考えれば一択しかない問だ、だがここに来る前に言われた『若いのが優先、老人は後』その教示に反する解に戸惑う。


「でもタウミル直属の私兵ならその事は必ず聞いているだろ?矛盾していないか?その要求に反するなんてこと」


「だからなんだ、俺達が呼ばれた理由はそこにある」


ハヤトは続けて話し始める、俺達はその言葉に耳を傾けるしか無かった。


「結局教えだどうだと説いたところで護衛達に必要なのはタウミルだ、カウロではない、それをカウロ本人が自覚しているからこそ焦っているんだろうな」


「頭さえあれば兵士は飯で困ることなんて無い、死に物狂いで守り、命令違反するだろう。それはそうだよな?命令違反すれば生活は安泰なのだから」


残酷な現実と効率的な思考、そんなことは無いと喉まで出かける綺麗事、だが。下の階でのカウロの人望はその言葉すら許さない。


腑に落ちる、納得させられる、それほどあの兵士の忠誠心が二極化している状況が引っかかってしまった。


本来なら銃口を向けられればあの場は引くだろう、それだけに表層を抜ければ実はハリボテの王だった事に気づきもしなかった。


卓に並ぶ皆が口を噤む、その口は未だ開かない。

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