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1.13 塔は燃えているか?

「で?トピが来ない言い訳はそれで終わりなの?」


アタッシュに絶賛つめられ中、 俺とテレスを正座させ。腕を組み仁王立ちのアタッシュが目の前に居る。


俺たちは部隊長3人に囲まれ、出発用の大型輸送機の後方、ガバッと開いたハッチの横に座らせ。


完全に呆れ顔で頭を抑えているレオに、あの程度で情けないぞトピとわなわなしているグリズリーに囲まれその中心でぷるぷる震えてた。


「はい…申し開きのしようもないです…」


やらかした直後に次ぐ部隊長の不在、何とか収めてくれたハヤトにも申し訳なくなってくる。あの擁護してくれた意味もう無くしてもたよハヤト~。


心の中のハヤトに手を振る。


「ぶふっw」


「はっーはっはっー!」


突然吹き出すアタッシュ、ばしばしと外腿を叩き笑う、座らされている二人の頭の上にはハテナが浮かぶ。


「はっー、いやぁ、悪い悪い。少しからかっただけだ。最初から怒ってないから。ほら、行こう」


「はぁ…些かアタッシュはDに甘い気がしますね、さて、そろそろ行きますよ。グリズリー」


「あぁ、まったくだ」


レオとグリズリーの2人は踵を返す、グリズリーは足元の人が持つにはあまりにも大き過ぎるケースをひょいっと持ち上げる、ハッチの奥へと消えていく。


「さ、私達も行こう、人員が必要ならいつでも声かけな、余裕は…無いが支援は惜しまない」


アタッシュに手を引かれ、次の戦場へと向かった。




それがあんなことになるとは…。


____________________


エクレール共和国


花の都、芸術の都と様々な呼び名のあるその都市は、活気に溢れる気品のある街並みに包まれていた。


ひとたび街を歩けば、自身が貴族にでもなったかのような気さえしてくる整った外観、他の都市部ではあまりみない舗装された石畳を踏みしめる。


タウミルの手引きによりエクレール国土の制空権を一時的に緩め、入国する事を許された。とは言っても、認知しているのは上層部の信頼された数名のみで、表立った歓迎はされなかった。


半ば密入国ともとれる侵入方法に文句を言える立場や身分で無いことを再確認させられる。そりゃあ…お尋ね者だもんなぁ…とも思いつつ。使われていない郊外の滑走路に輸送機を休ませた末、数時間の移動により、エクレールの都市へとやってきた。


イカロスの一行は警戒されない為にも軍属や戦闘員を醸す装備を避け、一般人の装いの内側に必要最低限の装備を着込む程度だった。


持てる装備は拳銃と防弾ベスト、別に休日のショッピングモールへと買い物に行く訳ではない、正気の沙汰を疑うほどに軽装備。


備えあれば何とやら、まだここの治安維持部隊の方がいい装備してるぞ…?


ぞろぞろと街を歩く一行は観光客に溶け込めているだろうか。…次の作戦は失敗出来ない。結局俺はトピに怪我を負わせてしまった、そうして自責の念に駆られ、あの時の後悔や無力さを思い出す。


「もう誰も…欠けさせはしない…」


ボソリと吐く独り言は弱音と怒りが混じる。


一抹の不安を抱いて歩く俺に二人の男が話しかけてきた。


「おいD、浮かない顔してるな、大丈夫か?」


「そうだそうだぁ!姉御に随分と心配かけてるみたいじゃんか、くぅー!羨ましいねぇ!」


こいつらはルークとビショップ、ルークは第三部隊の副官で一番アタッシュとは付き合いが長いらしい、ビショップは機転のよく利くムードメーカー。


二人とも第三部隊所属、つまりアタッシュの部隊の人間だ。部隊の人間同士で談笑しながら間隔をあけて固まって歩いているイカロス一行。


その俺達の目の前を歩いていたのは第三部隊。


そこを抜け出してひとつ後ろのここまでやってきたようだった。


「あ、あぁ。少し考え事してさ…」


「んー?もしかして姉御の事かぁ?良い女だよなぁ…うんうん」


「ビショップ、それ以上はやめとけ、アタッシュが凄い形相でこっちを見てる、あいつかなりの地獄耳なんだ」


「全然考えてないわ!」


「そうか?なら何かあったら言ってくれ、力になる。ビショップ、リミットだ、姫様の機嫌損ねる前に戻るぞ、あと」


「(気負いすぎるなよ)」


「あ、姉御ぉ~!違うんすよ!」


凄い形相のアタッシュの元へと二人が戻っていく、あ、引っぱたかれた。


そんなやり取りをしていると、自分の悩みがちっぽけなものだと感じる、あいつらなりの励ましだったのかな…。


あの二人には頭が上がらない、1年前のあの事がきっかけでイカロスに世話になる事が分かってから、すぐに受け入れてくれたのはあの二人、いや、第三部隊だった。当時は素性の分からない三人の世話係を引き受けてくれた。


あの頃からルークは良き兄貴分で、ビショップは第五部隊を除けば良き悪友と言った所だ。


あの時、カマキリの威圧感に気圧され、少しの判断が遅れた、その数コンマが仲間の命の生死を分ける、俺の恐怖心のせいで、トピは…。。


「(よし、感情を、恐怖を、全て捨てろ!じゃなきゃ仲間が死ぬぞ!しっかりしろ!)」


パンと顔を叩き目を覚ます、自己暗示にも似た催眠で、自らを奮い立たせる。


一部始終を見ていたテレスの視線に気づく、だが、いつもの素っ気ない態度でスタスタと先へ歩いて行ってしまった。


そうこうしている間に目的地、もといタウミルの所有するビルの前へとやってきた。


ビル街へと来ると先程までの街並みとはうって変わり、この国が世界でも有数の大国の一つである事を感じる、高層ビルが何棟も建ち並ぶ、一つだけでも驚くべき建築物は、まるで森林のようで乱立して建てられていた、その様子はその国の権威を指し示していると言っても過言では無い。その高層ビルのひとつトゥードゥピシェ、罪の塔と呼ばれるこのビルに、俺達は呼ばれていた。


そのビルの根元、入口から見上げても頂上の見えない大迫力な情景だった。


「ほら、行くぞ」


ハヤトの号令にビルのエントランスへと入る。ぞろぞろと入ってくる一団に受付の奥から身なりの整った老人が飛び出てきてハヤトを呼び止めた。ひそひそと耳打ちをして本人と確認すると全員の方へ向き直す。


「ようこそいらっしゃいました、旦那様は現在来客の応対中でございます。一度上階の旦那様の私室でお待ちください」


その間他のみんなは首を動かさず、視線だけで周囲を見回す。


「多いな」


ボソリと聞こえたグリズリーの独り言。


そのまま老人に案内されるがまま三分割され別々のエレベーターへと乗り込む、床を除く全面がガラス張りにされたその機内には太陽光が差し込む、隣のエレベーターに乗る仲間を確認できる作りになっていてほぼ同時に真上へと吊り上げられる。


ある程度の高さになるとこのエクレールの都市を象徴する塔が姿を現した。


「うおおぉぉぉ!」


その光景に感動のあまり声がつい出てしまった。今までに見たことの無い絶景、自然の神秘が紡がれた絶景とは違う、人類の叡智、その集大成とも言える光景が目の前にはあった。


「はは、凄い景色だよな!ここまでのは俺も初めてみたよ!」


「ビショップ、恥ずかしいぞ。でも2度は拝めないだろうな」


「はぁ…ルークもビショップも…本当に恥ずかしいから…。他の部隊と相乗りじゃなくて本当に良かった…」


窓ガラスにへばりつく俺の後ろでアタッシュがルークとビショップに恥ずかしがっているのが聞いてとれる。依然テレスはムスッと何かを考えている様子であともう1人の第三部隊、ナイトはあまり口数が無いことから2人は静かにたどり着くのを待っていた。


ガシャンと吊り上がるのが止まるとゆっくりと扉が開いた。外を見るとかなりの高さであることがわかる、それは隣の高層ビルの屋上すら見下ろせる階層に俺達は今居るからだった。


「ここからは上層部、プライベートフロアになります、旦那様の私室は更に上にございます」


明らかに内装の変わり豪華になったフロア、それと目に見えて変わった事がもうひとつ。明らかに隠す気のない武装をした兵士が至る所に待機している。


「へぇ、ここから更にエレベーターに乗るのか?」


「左様でございます、このフロアは言わばプライベートフロアのエントランス、ここを通らなければこの上の階層にはたどり着けないのです」


「なかなか面白い警備体制だな、なぁグリズリー」


このビルの警備体制がどの程度か、品定めをするようにハヤトが老人へとやんわり聞き込む。声をかけられたグリズリーは少し考えた後に老人に質問する。


「エレベーターを抑えられたら増援は期待できない、常駐している兵士の人数は?それと屋上からの侵入対策は何がある?」


「はい、プライベートフロア以外にも各階に常駐している兵士は居ます、全体ならおおよそ300名は。その内の八割がプライベートフロアの警護に、屋上には対空システムがあり許可無く着陸しようとすればここが市内であっても許可がでております」


「エレベーターの件に関してはフロアやエレベーターの管理をしている部屋があります、その部屋と連帯すれば難なく取り返せるかと、このそびえ立つ城の要は管理システムの援護にあります」


「あらゆる想定はするもんだ、管理システムを奪われればすぐ落ちるということだろう?」


「それは不可能な話ですな、制御室に入室出来るのは私を含め片手に収まる数人だけです、その数人も何十年、いや生まれた時まで遡り親、親族まで審査をかけられ、問題が無いとされ忠誠を誓った者のみです。ありえませんな」


更にヒートアップする前に二人にハヤトが止めに入ろうと口を開く。


「そこまでにして頂きたい」


ハヤトが声を発する直前、誰かが割って入る、奥からスタイルの良い若人がこちらに歩いてくる。


「私が直接お迎えにあがるべきでした、この使用人には後できつく言っておきます」


一行の前へ立ち、礼儀正しくピンと背筋を伸ばした男は老人とグリズリーの間を割って入る。


「…相変わらず元気そうだな、カウロ」


グリズリーの背に隠れたハヤトはひょこっと顔を覗かせる。


「あぁ、お前達か、約束の時間より大分早いようだが?相手にも準備の時間があると習わなかったのか?」


カウロはハヤトの顔を見るとあからさまに怪訝な顔を表す、先程の業務的な応対は何処へいったのか。カチッとした表情は気だるげに変わり、腫れ物を見るような顔へと変わる。


「一応は護衛の名目で来てるんだ、施設の構造や警備体制を知っておこうと思ってな、まあタウミルが護衛と言っても体裁上だと思うが…」


「…っ!!気安く父上の名を呼ぶな!!」


バチン!


カウロはハヤトに平手打ちを浴びせる、それと同時に第一、第二、第三部隊の隊長格以外が全員臨戦態勢へと移る。


「いや、いいんだ」


ハヤトが今にも飛び出そうとする全員に対し手を挙げ抑制する、エントランスの奥からぞろぞろと騒ぎを聞き付けた警備達が集まってくる、装備を着込み武器は小銃を携えていた。


誰がどう見ても装備の差が開いていた。


「この装備差、人数差。威嚇するにも自分達の状況をしっかり判断した方がいい。馬鹿な手足を持つと大変ですね、ハヤト」


「随分手荒い歓迎だな、お前の父上に呼ばれて来ただけだカウロ。要件を済ませたらすぐ帰るさ」


「私はお前のこと認めて無いぞ!!」


軽く流された事に激昂するカウロ、お互いの戦力と戦力の間には鋭い緊張が走る、一触即発、きっかけが些細なことであっても、この空間においてはここが火の海へと変わる事は明白だった。


その中、先に硬直を解いたのはイカロスの隊長達だった、部隊長三人が前へと出る。


「はーぁ、あほらし」


「ええ、全くです」


「俺あいつ嫌いだ」


カウロの横を素通りして警備達のど真ん中を通り抜ける、銃口を向けながらも後ずさりする警備達、そうしてできた道を歩くアタッシュ達はまるで、海を割るモーセの様だった。


「いつか認めてもらえる日を待ってるよ」


そう言い残しハヤトが部隊長達を追うように先へと進んだ。


その挙動に他の隊員も武器を収め、追従する。


カウロは突っぱねられる訳でも、否定される訳でもなく、そもそも相手にすらされていない屈辱に顔を歪め立ち尽くしていた。


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