99・王子少女は逃げ出さない!10
~セッカside~
『ぐっ…くあああっ』
い、いたい…めちゃくちゃ痛い……っ
でも、フレーダと会話をする時だけは、平然としてないと…
あとちょっとで崩れるな、なんて思わせたら降参なんてさせられない…!
「……落ち着いて…落ち着いて……」
アジサイちゃんが背中をさすってくれる
本当に、自然と少し落ち着いてくる
何度もこういう場面に出くわしたのだろう
彼女は間違いなく二十年もの間、癒し続けた聖女だった
『喋れそうになったら、また会話をつないでくれるかな』
「うっ、うん…うん……」
ミソラさんは、目に涙を浮かべながら、私の右手を握ってくれている
その反対側…私の左腕には、チューブのようなものが巻き付いており
発電装置からここに魔力が送られている
あの時は中にまで入らなかったけれど
ここは前に騒動を起こした『風』の発電所
今、この場にいるのは、アジサイちゃん、ミソラさん、コガラシくんと店長さん
私が店長さんたちと壊した壁は、現在修理中だ
古代技術を再現した面白そうなアイテムがいっぱいで
こんな状況じゃなかったらぜひ見学したいと思うほどだった
私に送られる魔力は一定ではなく、コガラシくんが
チューブの先にある『魔力充電器』を細かく操作し
負担の少ないように調節してくれている
「…オレのせいで…王子は膨大な魔力を失った……
一発目も『魔力充電器』無しには撃てなかった
…くそっ……すまねえ……」
…なんとか上手く誤魔化そうとしたんだけど
結局、『盛られた毒のせいで魔力が人並みになってしまった』
という設定で行くしかなかった
…彼には絶対、私が王子の偽物だという事はバラせない
王子を殺したという罪悪感で、彼がつぶれてれしまうかもしれないから
『いや、そもそもキミがボクたちに、彼らの内情を教えてくれなかったら
そのまま負けていたよ』
この戦法を実現できるのも、彼のおかげだ
『ここに落とした隕石は、あの時のボクの精いっぱいだった
平和的に解決するには、ハッタリを利かせる方がいいと思ったんだ
…騙してしまってすまなかったね』
「そ、そんな事!おかげで目が覚めたんだ、感謝しきれないぜ…」
――自分たちにとってよい存在だったなら、許してしまうものなのです――
そう言っていた、アジサイちゃんの言葉を思い出す
今ちょっとだけ、それを実感できたような、そんな気がした
『まあ、向こうはまだ諦めきれないみたいだからね…
一発分ぐらい誤差ってものさ…!』
でも、できれば早く折れてください…
(「ホシヅキちゃん!そっちはどう?」)
ミソラさんが、『グループチャット』でみんなの状況を確認する
(「木の上から遠眼鏡で確認しとるけれど…隕石、恐ろしい威力やな……」)
低いトーンで、現場の報告をしてくれるホシヅキさん
彼女の唾をのむ音が、聞こえたような気がする
(「人間の被害者はいなさそうや
ただ、このへんに住みついてた動物たちには気の毒やけど…)
この魔法を使う以上、それはもうどうしようもない
人間以外を避難させるには、時間が足りなさすぎる
(「『星』の領主さん!そっちは大丈夫かしら?!」)
(「こっちは大変だ!残ってたやつらが一斉攻撃してきやがったぞ!」)
(「予想してた通りね…あいつらも、私ほどじゃないけれど、通信手段はある」)
狼煙か伝書鳩か…古代マジックアイテムで電波を送って通信する、なんてのもあるらしい
(『ボクの首をとろうとしてくるはずだ!
ボクの部屋に誘い込んで、トラップを作動させてくれ!』)
(「了解っ!」)
力が十倍になっても、十倍発見できる見張りになれる訳じゃない
そこは人数がいた方がやはり強い
隠し通路から城を脱出するのも容易かった
いざとなれば、城に残った皆も脱出するように言ってある
フレーダを先に降参させれば、城が取られてもなんとかなる
とはいえ、脱出の際にピンチが発生するかもしれない
…ここは無意味だと忠告しておくか……
『ミソラくん、フレーダに通信を』
「大丈夫?王子」
『大丈夫、魔法を撃つ訳じゃないから、ボロは出ないと思う』
(『中央に出向いていた兵たちで、城に総攻撃を仕掛けてきたようだね』)
(「厄介な魔法を使う相手は詠唱中に始末しろ…冒険者の間では常識だぜ?」)
冒険者のような個人戦と大規模戦闘は違う…と言いかけたが
個人のユニークスキルが要となってる以上、あながち間違いでもないな、と考え直す
(『いやいや、よく考えたまえ』)
(「ん?」)
(『ボクが城にいる訳無いだろう?ボクはどこかの発電所だ
頑張って探してくれたまえ』)
(「ああああああ!そ、そうだ…同じものを使ってるなら、当然そうなる…!
始末しようにも場所すらわからねえ…!」)
必死になっても私を倒せないとわかれば、城の攻撃も力が入らないだろう
情報戦では、コガラシくんの分も含め、こちらの方が圧倒的有利
(『諦めてくれないならしょうがない…『三発目』だ』)
(「?!」)
『次、いくよ』
「…やるんだね」
『ああ、補助を頼む』
店長さんが私に確認をし、次の魔法の準備を開始する
コガラシくんが『魔力充電器』を操作し、私に魔力が注入される
『…っ、ぐうううううっ……!』
い、いたいいたいいたい…!
泣き出したいくらい痛い!
この注入される間が特に痛い!
あまりの痛さに思考がおぼつかない
魔法の詠唱、しなきゃいけないのに…
「『五歳豊穣』(グロースチェンジ)…!」
アジサイちゃんの高濃度の魔力による、強力な回復魔法
それが私の身体を癒していき…少し痛みを和らげてくれる
「はーっ…はーっ……」
演技もできず、痛みで止まっていた呼吸をして、身体に空気を取り込む
「大丈夫なのです?」
『…すまない……力を使わせてしまって……』
私がもっと我慢できれば、スキルを使わない回復でも大丈夫なのに…!
「わたしはもう、王子に賭けたのです
今さら成長が多少遅れようと、気にしないのですよ」
『…ありがとう』
「…いけるかい?」
店長さんは苦い顔をしながらも、私の意を汲んで魔法を手伝ってくれている
本当に、みんなには感謝しかない
『ああ、いこう…!』
店長さんは古びた木の杖を差し出す
魔力を宿した事のある木は、魔力を通す管のようなものができていて
それを人間が使うことによって、魔法を使う際の補助になる
私と店長さんは、二人でその木の杖を持ち、隕石魔法の呪文を唱える
店長さんは魔法を使う訳ではないが、こうやって二人で呪文を唱えると
私が呪文を間違ったり痛みで詰まっても、店長さんが正解の呪文を唱えている限り
魔法の発動ができるらしい
「『生命の源たる魔力よ』」
「『はるか空の彼方、星々の世界へ至れ』」
「『遊星を流星とし、大地に導け』」
「『星の輝きを炎に変えよ』」
「『激突し、砕け散り、全てを打ち破らん』」
―――『隕石召喚』(メテオストライク)!―――
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