93・王子少女は逃げ出さない!4
『はーっはっはっはっ!』
いつもの高笑いと共に、勢いよく扉を開く
「王子!目を覚まされたんですか?!」
「やあ、キミたちは大丈夫だったかい?」
城のゲストルームまでやってきた私
中に入ると、ヒルヅキさんとアカツキさんが出迎えてくれた
机の上に広げられた、箱詰めの料理が見える
どうやら彼女たちは、食事を運んでいる最中だったらしい
部屋の中には他に、『花』の領主の奥さんと、お目当ての店長さんがいる
「私たちより、王子ですよ!重傷を負われたと聞いて…」
『はは、心配をかけたね』
「ご無事で何よりです」
皆が心配してくれる中、ヒルヅキさんだけは、私にがばっと抱きついてくる
『こ、こら、何を…』
「うう、しばらく王子の柔肌に触れてないから、禁断症状が…」
『柔肌って言うのやめてくれるかな?!』
そこの奥さんには正体明かしてないのにバレちゃう!
「このへんが斬られたんですよね…」
「よかった…跡は残ってないですね」
メイドさん二人にお腹をまさぐられ、傷の有無を確認される
『アジサイくんが完璧に治してくれたからね、ちょっと痛かっただけだよ』
その痛みで気絶したんですけど、まあそれは置いておいて…
「かわいそうな王子…」
「痛いのなんてすぐに忘れさせてあげますよ」
うん?
「王子はここいじられるの弱いんでしたよね」
『あ、ちょ…やめっ…?!』
久しぶりだから忘れてた…この二人はこういう人たちだった!
まんまと接近を許してしまった私
傷の確認と思わせてお腹に当てた指を、そっと這わせ
私にじれったいような…くすぐったいような感触を与える
感触に思わず身体を震えさせてしまうと、それに気をよくしたのか
耳に息を吹きかけ、甘い声で私に囁いてくる
「大丈夫、後に残るのは気持ちいーい感覚だけで……」
バコン!
「…おほん」
食事を運んできたトレイを、思いっきりヒルヅキさんに叩きつける『花』の奥様
「あいたっ?!」
突然の衝撃と痛さに、思わず床を転がるヒルヅキさん
アカツキさんは自分も殴られないようにと、慌ててソファーの後ろに隠れる
『お、奥様…助かりました』
「そういうのは戦が終わってからにしなさい」
全く持ってその通りです
「…確かに、それはそうですね」
転がっていたヒルヅキさん、意外とあっさり立ち直る
トレイじゃ攻撃力が足りなかったか…
「じゃあ…王子、約束しましょう」
『や、約束…?』
「この戦いが終わったら、私とスケ…気持ちいい事しましょう!!」
『普通ここは、結婚とか、田舎でお店を開くとか、そういう約束じゃないのかい?!』
「一回だけ!一回だけでいいんで!」
一回でアウトですよ?!
「じゃあ、しょうがないから結婚でいいですよ」
『しょうがないで選ぶ選択肢じゃないよ?!』
「むー、わがままですねぇ」
『ボクは悪くないと思うんだけど?!』
ツッコミどころ満載の会話をする私たち
ヒルヅキさんは笑顔でボケ倒してくる
…たぶん、これが彼女なりの励まし方なんだろうな、と思う
「あー…えっと、ひょっとしてぼくに用事かい?」
店長さんがノリツッコミをえんえんしている私たちを見て、話しかけてきてくれた
『わかりますか』
「まあ、今までの傾向からすれば…」
魔法関連で何かあったら、すぐ店長さんに聞いてたからなぁ
そう思われるのもやむなしか
「重要な話なんだ、ちょっと別室で話そう」
奥さんに聞かせる訳にはいかないので、どこか別の場所の…王子の部屋でいいか
彼を連れて王子の部屋へ戻る
………
……
…
「ふんふん、今、そんな事になってるんだね」
うなづく店長さん
メイドさんたちにお茶菓子を出してもらい、それを頂きながら現在の状況を話した
「それで…ですね、こういうことってできるのかなー、と思いまして」
「……」
店長さんに私の考えていることを、そっと耳打ちする
「ふんふん……」
私の考えを聞いた店長さんは…
「…ええええええええ?!
い、いや、理論上は可能だと思う…思う、けど……」
言葉を濁しながら、けれどできないとは言わなかった
あまりにあまりな考えだから、嘘をついてでも否定した方がいいのか一瞬迷い…
けれど、本人の正直さが、それをよしとしなかったのだろう
「正気かい?」
「…はい」
「失敗したら相当危険だけど、それはわかっているかい?」
「わかっています」
「………………」
危ない橋なのはわかっている
こんな事をせずとも、なんとかなるなら、その方がいいのは確か
でも、これができるなら、間違いなくみんなが楽になる…
「…わかった、協力しよう」
「ありがとうございます」
「うちに本を借りに来てた頃は、ちょっと内気な女の子って感じだったのに
…人は変わるもんだね」
「わわっ」
店長さんに頭を撫でられる
なんか店長さんは、親戚のお兄ちゃんって感じがする
昔の私を知ってるのは、ここでは彼だけ
…お父さんは、今、元気でやってるかなぁ…
「お、おー…いけませんよ!セッカちゃんは渡しませんから!」
「え?い、いや、そんなつもりは…」
「無自覚系だね姉さん!王子と同じタイプ!」
会話が一段落したのをみるやいなや、急に引きはがしに来るメイドさん二人
話の邪魔はしないのが、メイドさんとしての誇りだろうか
「もー、撫でられたぐらいで大騒ぎしてたら
残念息子くんと一緒になっちゃいますよ!」
「残念息子…?」
「あ、それはですね…」
この城に初めて来た時の、フレーダの話をする
話をしながら私は、ずいぶん遠くまで来たなぁ…と思ってしまう
彼との決着も、これでつけなければ……!
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