92・王子少女は逃げ出さない!3
「やはり、『雪』の一番大きな川…ヨメ川ですわね」
「この川沿いに作られている可能性が非常に高い、ですな」
「調べに行ってもらうのがよさそうですわ」
『風』と新『雪』の領主により、ポイントが割り出される
発電には大規模な、流れる水か流れる風が必要
風で発電できるほどの風量は、それこそ『風』の領地だけなので
必然的に水の流れ…川を追っていく事になる
『…この川、途中で途切れてるけど、どうしてだい?』
「地下に、海へとつながる大空洞があって、そこに流れて行ってるんですの」
『地下か……』
その時、私の感覚にピンと来るものがあった
私が彼だとして、相手の手札がこうあると考えていたら…
「偵察なら、うちらに任しとき!」
「だよ!」
『ホシヅキさん…とカグヤちゃん?!』
地図を見てうんうんうなっている私たちに、ホシヅキさんたちが声をかけてくる
ホシヅキさんはカグヤちゃんを背負い、二人で手を水平にする謎のポーズを決めている
『マスタークノイチ』のホシヅキさんはともかく、なんでカグヤちゃんも…?
「ふふふ、ぎもんのようだね、おうじさま
じつはすっごいがったいわざをおもいついたんだよ!」
「やつらをなんとか撃退できたのも、実はこの子の功績が大きいんや」
『…なんだって?!』
まさか、また石でも落とした…?!
「こうやって、いろんなひとをかるくするんだよ」
ホシヅキさんの肩を掴むカグヤちゃん
その身体が、鈍く輝く
ユニークスキル『パーセントグラビティ』の効果が、ホシヅキさんに発揮される
「…そうしたらね」
「うちが持ってる物、うち自身の体重、なんでかカグヤちゃんまで軽くなって…
剣を振る、ハーケンを投げる、走る…全てが恐ろしく速いスピードになるんや…!」
天井に向かって、近くにあった大剣を投げるホシヅキちゃん
それが、恐ろしいほどのスピードで、天井に突き刺さる
『こ、こんな事が…』
「効果延長、なのですよ」
アジサイちゃんが、したり顔でうんうんとうなづいている
「手をつなぐ二人の夫婦の、奥さんの方に、治癒魔法をかけたことがあるのですけれど
なぜか夫の方まで傷が治った事があったのですよ
正式に何て言うかはわからないのですけれど
スキルや魔法は、接触しているものを一つの物体として見る事も、あるようなのです」
『な、なるほど…?』
実体験で語られるので、非常にふわっとした説明になっている
…後で店長さんにでも聞いた方がいいかもしれない
「スピードと重さが、破壊力を決める
お嬢ちゃんのユニークスキルは、自分が動かす時は軽く、相手に当たる時は重くできるんだ
こんな恐ろしいスキルはないぜ」
今のホシヅキちゃんには、全てがまさに「羽のように軽い」のだろう
二人のユニークが合わされば、『テンカウント』の兵士数人でも相手にできるかもしれない
「わかってるね、ほしのりょうしゅさん!あなたもきんとれがとくいとみた!」
「お、嬢ちゃんもやってるのか、意外だな」
「えっへん!きんにくはいちにちにしてならずだよ!」
やばい…脳筋コンビが誕生してしまう……!
もし、将来カグヤちゃんが『花』を継ぐことになったら…
二人で領民に筋トレを義務化する!とか言い出しそう
…健康にはいいかもしれないけど
「じつは、ひとときのいやしに、ほしづきおねーちゃんのうちゅうをみようとしたの」
『こらっ』
宇宙って言ってるけど、つまりアレでしょ
おっぱい揉もうとしたって事でしょ…
私だって気になるけど、それはやらないのが大人ってもんでしょ?!
…カグヤちゃん子供だったわ!ずるいなぁ!
「そのとき、ついうっかり、スキルをつかっちゃったんだけど
そしたらほしづきおねーちゃん、おどろきのはやさで、くうちゅうにとびだしちゃったの」
「まさか、飛び上がっただけで天井に頭ぶつけることになるとは…」
その時を思い出し、頭をさするホシヅキさん
『なるほど、つまり…移動に何日もかかる偵察も
二人のユニークスキルでコンボを組めば、二・三日で終わらせられる、と…』
「そういうこと!」
親指を立て、にっこりと笑うカグヤちゃん
『すまない…本当はボクがもっとしっかりしていれば
子供のキミに無理させる必要なんてないのに』
「いいってことよー」
私にも、ユニークスキルがあれば…
…いや、もう無いものはねだらない
あるものでなんとかするしかないし、そうやって生きていくって、決めたんだ
「おうじさまにたすけられたから、わたしもたすける!おあいこだよ!」
『…ありがとう』
もう二回も助けてもらったので、こっちの方が借りを作ってる気がするけども…
『たぶんこの地下空洞、アジトの可能性が高い
できるなら、こっちから調べた方がいいと思うよ』
「それは、王子としてのカンなんかな?」
『うん、勘だ』
王子じゃないけど…まあ、そこは王子になったつもりでひとつ
「じゃあ、帰って来るまでは持ちこたえないとな…」
「気をつけるんだぞ、カグヤ」
『うん!』
「ホシヅキ…頼んだ」
「うちに任しとき!」
二人のお父さんが、それぞれ肩を叩いたり頭を撫でたりして見送る
どうか、二人が無事でいられますように…
「さて、それまでは迎撃が忙しくなるな…」
『星』の領主が、なぜかにんまりと微笑む
切り札的エースが不在になるのだ、ここから苦戦するのは必至
しかしながら、その状況をどこか楽しんでいるようにも見える
…そして次に、私のできる事は……
「あ、王子…どちらに?」
『城の中に、彼がいるだろう…ボクが特別に呼んだ、貸本屋の店長さん』
「はい…彼は今、ゲストルームにおられるかと」
『彼に尋ねたい事がある、すまないけれど、ちょっと席を外す』
「はっ!」
頼って申し訳ないけれど、魔法の事でまた質問させてもらおう
もしかしたら、もしかしたらだけど…使える手札が、増えるかもしれない
「なら引き続き、迎撃の準備は任せてもらうぜ!」
『ああ、頼む!』
どのみち、戦闘では囮以外で役に立たないのだ
手札が増える方に賭けてみよう
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