89・王子少女は、
「…はっ?!」
目が覚める
夢も何も見ず、ただひたすら眠っていたような感じがする
周りを見回してみると、ここはいつもの王子の部屋
私はいつもの豪華なベッドに寝かされていて
そして、そのそばに…
「よかった…もう目を覚まさないかと思った……」
「怪我は治ってたのです、後は目覚めるかどうかだったのですよ」
アジサイさんと、ミソラさんが座っていた
ミソラさんは、泣いていたのだろうか…目が赤かった
「ミソラさんは、大丈夫だったんですか?!」
「…ちょっとショックで、左足がまだ動かないわ」
「しばらくリハビリが必要だと思うのです」
言われて、彼女の左足を見ようとして気づく
ミソラさんが座っているのはただの椅子ではなく、車輪のついた…車椅子だった
でも、ともかくミソラさんが無事だったことに、ほっと胸を撫でおろす
「ありがとうございます、アジサイさん…」
「そ、そんな泣かなくてもいいのですよ!聖女として当然なのです!」
「セッカちゃんは、どこか動かないとか無い?大丈夫?」
「大丈夫です!おかげさまでピンピンしてますよ!」
アジサイちゃんは、治療でも優秀な聖女様だった
「あ…実はちょーっと、王様の容体を見ている、治療班の人たちにも
おねーちゃんの治療を手伝ってもらったのですけど、その時に裸を見られちゃって」
「えっ」
「『王子が実は女の子だった?!』って、班の人たちで話題に…」
「こんな時に、大変なことになってますね…」
「一応口止めはしたから大丈夫…だといいわね」
執事さんの時の対応を、またしないといけないかな…
…と、それは後回しで
「…今、どうなっています?」
現状を把握しておかないと
「領主たちがなんとか、白フードの第一波は撃退したわ
今は城の外で兵士たちと共に、第三波の白フードを相手をしてくれている」
窓の外を見ようと思ったが、窓には複数の板が打ち込まれていて
敵が入って来れないようにされていた
「…正直、撃退はしているけど、苦戦が続いてるわ
『テンカウント』のかかった敵兵たちが、波状攻撃を繰り返してくる
その運用方法自体は、アワユキさんと予想していた通りだけれど、数の桁が違うの」
あのユニークスキルの、謎のパワーアップ
こういうのは、バフをかけている本人を見つけて、しばいてしまうのが一番早いんだけど
きっと隠れているだろうし、見つけるのは大変そうだ…
「ねえ、セッカちゃん
今、こんな事言うのはずるいと思うけど…」
言いたくないけど、言わなきゃ…
そんな感じでミソラさんは
「あなたは逃げて」
…そう、私に向かって言った
「…え?」
「この状況になったら、もうあなたができる事は無いわ」
い、いや、確かに、事前準備とハッタリで乗り切れる事態では、もう無いけれど
「今なら、王子は戦死したって事にできる
ここから行ける隠し部屋、いざという時の隠し通路にも繋がってるわ」
「そんな…私だけ逃げるなんて……」
「あなたが、ここで死ぬ意味は無いわ
あたしは王子の補佐官となった身、責任は取らなきゃだけど」
「……」
「…あなたに死んでほしくないの、お願い……」
そう、私に訴えながら涙ぐむミソラさん
…私が倒れたことが、相当な負担だったのだろう
すっかり弱気になってしまっていた
「…ちょっと、考えさせてください」
その姿を見て、どう答えていいかわからず、戸惑ってしまう私
「あんまり時間は無いのですよ
…悩むのもいいけれど、それは忘れないようになのです」
「すみません」
アジサイちゃんは、何も聞かずに車椅子を押して
ミソラさんと一緒に王子の部屋を出た
窓の外からかすかに、金属のぶつかり合う音が聞こえる
私は何とは無しに、この数か月間お世話になった部屋を見渡す
王子の影武者…王子少女として、今まで頑張ってきた
それは、王子としての外せない役割があって、その役割のために一生懸命になれたからだった
それが今もう、必要ないと言われたのだ
…いや、まるっきり必要ないって事ではないだろう
兵士たちを応援する事だって、戦後処理だっていた方がいい
しかし、今までと違って、いなくてもなんとかなるのだ
道筋はもう立っている
王子が亡くなったとあれば、かえって皆やる気になるかもしれない
今の状況さえ、なんとかできれば
すでに私がやれることは、微力に等しい
ここにいても役に立たない
できない人間は、できないなりに
幸せは、見えないところにも花開く……
……違う
そうじゃない……
私は、引き出しの奥にしまっていた、汚れた包帯を取り出す
―――そこで、こう包帯巻いておけば
『ああ、怪我してるから所作がちょっとぎこちないのかな?』って
相手が勝手に思ってくれるって寸法なのよ―――
私は、知ってしまった
できないものを、できないなりに、それでもどうにかする事を
仲間ができ、みんなと一緒に、難しい事に挑戦する喜びを
たとえ、花が開かなくとも…
何かを諦めて暮らしていた、元の自分に戻りたくない…!
私は、あの時の包帯を、再び自分の腕に巻き付ける
判断の基準は、『できるかできないか』じゃない…
『やりたいか、やりたくないか』だ!
私は、ユニークスキルなんて無くても
たとえ何もできなくても、みんなを助けたい!
王子少女は……
王子少女は、逃げ出さない!!
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