88・窮地の王子少女
「あいつ…よくもいけしゃあしゃあと……!俺が叩き切ってやる!」
彼が『雪』の工作員だったことは、後から『星』の領主にも伝えてある
騙された『星』の領主は当然、怒りの矛先を向ける訳だが…
『…待て!』
おかしい…!
折角抜け出したのに、わざわざ一人で姿を見せる…?
なら訳があるはずで、それは…
『あれは囮だ!新領主たちを守ってくれ!』
そう叫ぶやいなや、側面から誰かが投げたナイフが、私たちに向けて飛んでくる
ギイン!
それを赤い剣で器用にはじく、『花』の領主さん
「ちっ!」
ウインドフォールは舌打ちをする
注目を集めてからの不意打ち!
自分の影響力を考えた作戦を用意してる
…これは手強い……!
『『雪』の刺客たちだ!外の兵たちは、国民を守りつつ退避せよ!ボクらは城に入り応戦する!』
私のその一言で、場の雰囲気が一気に変わった
政策を発表する王子と、それに物申す一般民…などではなく
王子がテロリストに狙われている状況だという事が、周りに伝わったのだ
「う、うわあああああ?!」
「やけになったのか?!中央に攻めてくるなんて…!」
「落ち着いて!こっちです!」
叫び声を上げながら、集まった民たちは逃げていく
こういった事態のために、訓練されていた兵たちは、うまく国民を誘導してくれている
「くそ、何なんだこいつら!」
先ほどナイフを投げてきた何者か、そしてその仲間がバルコニーに上がろうとしてくる
全員が白いフードをかぶっていて、恐ろしく運動能力が高い
何人かは登って来る途中で、武闘派領主の二人が落としたが
白フードの一人が上がってきてしまう
ガン!ギイン!
振り下ろされる剣、金属が激しくぶつかり合う音
「こいつら素早い…!フレーダの強化を受けていると思われますぞ!」
駆けつけた執事さんが分析をする
確かに、見た目は違うけれど、どいつも『花』の時と同じ動きだ
「ちょっと落ちとけ!」
『星』の領主の一撃を受けて、バルコニーの端に飛ばされた白フード
同じく駆け付けたホシヅキちゃんが、そいつを足で蹴り飛ばして、バルコニーから落下させる
「今やで!中に!」
ホシヅキちゃんの言うとおりに、私たちはバルコニーから退散
「王子の部屋から隠し部屋に行けるわ!見つからないようにそこまで行ければ…!」
全員、廊下を駆けながら、ミソラさんの指示を受ける
『風』の領主は、走るのが遅いアジサイちゃんを背負って、走ってくれている
(ヒルヅキさん!襲撃者はどれくらいの人数か、わかるかしら?!)
実は、ヒルヅキさん、アカツキさんは城の四隅にある監視塔から
双眼鏡で集まってる国民たちの様子を覗いていたのだ
ミソラさんなら、彼女らとユニークスキルで連絡が取り合える
この城に限り、鷹の目がついてるようなものだった
(はい、アカツキと双眼鏡で、襲撃者の様子を確認しました!
その数、およそ…二十五人です!)
(な…?!)
報告された数の多さに、驚愕するミソラさん
「あたしのユニークスキルで連絡を受けたわ
襲撃者の人数は…およそ二十五人だそうよ!」
「強化を受けたと思われる兵が…ざっと二十五人やて?!」
「おかしい…王子並みの魔力量が無いと、それだけのバフは不可能なはずですぞ!」
正直、『花』の時の十人が最大だと思っていたのだけど、その倍を超えるとは…!
「やはり叔父上…食わせ者ですわ
大人しいと思ったら、このための準備をしていたんですのね…!
きっと、何かカラクリがありますわよ!」
悔しそうに唇を噛むアワユキさん
王子の部屋まであと半分のところまで進む
少し大きめの広間、そこには駆け付けた門番さんや兵士たちがいた
「王子!足止めは私たちが!」
もはや見慣れた、城勤めの彼らが、足止めを買ってくれている
本当は止めたいけれど…そうは言っていられない…!
『やつらは運動能力が、相当強化されている!
必ず五人以上で敵に当たれ!侵入者用の罠に、誘導して嵌めるんだ!』
「はっ!」
お願い…みんな無事でいてください…!
「王子!早く先に…!」
ミソラさんが廊下に出て急かしてくる
私が、後ろめたさで足を止めないように
『ああ…!いこ…』
…その時、ミソラさんの背後の窓に見えた
徐々に大きくなっていく白い塊…いや、白いフード…!
『ミソラくん!』
私は慌てて前に出て、ミソラさんに覆いかぶさる
「え?!」
バリイイイイン!!
窓を割って、白フードの男が窓から飛び込んでくる
彼はその手に持った剣を、飛び込んだ勢いのまま、ミソラさんをかばった私に振り下ろす
『ぐあっ?!」
「お、王子…王子っ?!」
二人の領主さんみたく、かっこよく剣で受け止められればよかったんだけど
私にはそれは無理だから…こうやってかばうしかない……!
「くそ…てめえっ!」
「ぐあああああっ?!」
手ごたえを感じ、にやりと笑った白フードは
その油断を『星』の領主につかれ、彼女自慢の剣で一薙ぎされて絶命する
「う、うそでしょ…?!しっかり、しっかりして……!王子……っ!」
いきなりの出来事に茫然とし、私をゆさぶるミソラさん
庇いきれなくて、彼女の足が切られている…
けど、命には別状はない筈…!
『よかった…キミが、無事で……』
この国のために、一番頑張って来たのはミソラさんだ…!
彼女が失われることはあってはならない
…そして、それ以上に……
私が、ミソラさんに、生きていて欲しい
『『星』の領主くん…』
「な、なんだ?!」
『ちょっとだけ現場を、頼む……
落ち着いた後は、ミソラくんの指示で…』
ここを頼めるのは、戦場に慣れている彼女か、『花』の領主さんのどちらかだろう
「お、おい待て!俺との勝負はどうするんだよ?!」
『生きていられたら、また…』
「どくのですよ!」
アジサイちゃんが、『風』の領主さんから飛び降りて、私に近づいてくる
「聖女として、回復魔法だけは覚えてるのです!」
斬られた私の傷に手を当てる彼女
呪文を唱えるアジサイちゃんの、その手のひらが青白く光る
柔らかな感覚が、私の中に広がっていく
これが、回復魔法…初めて見た
「くそっ!死ぬんじゃねえぞ!」
「アジサイ殿はそのまま手を当て続けてくだされ!二人ごと皆で運びましょう!」
意識が遠くなっていく
もう、だめかも…
頭の中に、これまでの出来事が次々と浮かんでくる
…ああ、懐かしいな……
『お、王子助けて!あたし、悪党どもに追われてるの!』
『え、えと…その……あの……ね
きょ、今日はありがとう!楽しかったわ!』
…なんか、ミソラさんの顔ばかり浮かぶな…なんでだろう……
まあ、ミソラさんかわいいから、しょうがないかな…
………
……
…
そうして、私の意識は途絶えた
次に私が目を覚ましたのは、それから二日の後―――
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