85・王子少女はすべりこみたい!
「終わったー!」
ミソラさんの大きな声が城中に響き渡った
…いや、響き渡ったは言いすぎかな?
部屋が近くだから、ミソラさんの声が聞こえてきたというべきか
「これでもう完全!入稿完了よ!」
「ミソラさん!」
普段はこんなことしないんだけど、時間がない
ミソラさんの部屋のドアを開けてその中に侵入する
「せ…セッカちゃん?!」
「聞こえてましたよ!行きましょう、お祭り!」
「あ、そうね、お祭り…
祭りが終わるのがあと…二時間しかない?!」
部屋の隅にかけられた木製の時計は午後の7時を指していた
「…これじゃ無理かしらね…
こんなに原稿増えるとは思わなかったのよね…」
「いいから、いきましょう!」
「え、ちょ…セッカちゃん……?!」
ミソラさんは頑張ったんだし、しっかり楽しんでもらわないと
私は半ば強引に、彼女の手を取り走り出したのだった
赤い、今にも沈みそうな夕日に、照らされた屋台たち
祭りに参加していた人たちも、そろそろ帰宅の路につく者が増えてくる頃だった
屋台の並びに入ってすぐ、この前立ち寄った例の店がある
『王子も絶賛?!隕石焼きはこちら』って看板が掲げられたところだ
「隕石焼き…あ、ここだったんだ…結構おいしかったわよ♪」
「ありがとございますー」
ピンクエプロンのお姉さんが、ミソラさんに気さくに答える
すっかり人気店の仲間入りをしていた屋台だったが
さすがにもう時間が時間なだけに、お客さんはいないようだ
「いやー、しかし王子すごいですね…
毎日一緒に歩く女の子が違いましたよ
ずいぶんおモテになって……」
おばちゃんポーズで片手の手のひらをぶんぶんと振るお姉さん
『はっはっは、ボク一人の時に言うならともかく、
彼女がいる時に言うのはあんまりよろしくないよ?
折角、祭りの最後を楽しもうとしてるんだ』
「むー…」
ぷっくりとふくれているミソラさん
みんなで行ければよかったんですけどね…
「あ、そ、そうですね!これはまた失礼を!」
お姉さんは頭を大きく下げて謝る
あ、いや、別にそこまでしてもらわなくても…
「お詫びと言っては何ですけど、これ差し上げます!」
『そ、そういう訳には』
お姉さんが差し出してきたのは、例の隕石焼きだ
あつあつ焼きたてじゃなくて、ちょっと冷めるてるかな?
「お客さんがいっぱい来た時の作り置きが余ってるんですけど
そろそろお店閉めようと思ってたんで!」
「ならいただきましょうか」
「はい!」
あまった隕石焼きをいただき、屋台を後にする
「ほふほひぃはへ」
『ほふ、ほれほやはひほひゃいほひひゃあ』
食べ歩きをしながら喋ろうと思ったら、意外と中が熱くて思うように口が動かせない
舌が冷めるまで待とうと思っていたら、ミソラさんから『グループチャット』が飛んできた
(これで話せるわね!)
(これ、舌がどうとか関係ないんだね)
(テレパシーみたいなものね)
喋れない人との会話とかにも応用できそうだな…
(あそこは、この前やった輪投げですね)
あ…指さした直後に、この前のおじさんが片付けを始めだした
今からじゃ輪投げはもう無理だな…
(輪投げかぁ…『花』のお祭りって、そういうの少ないわよね?
大体食べ物ばっかりで)
(そうですね、中央は『花』と違って色んなものがありますね)
同じ領地出身という事で、意外とつながる話もある
(食べ物は『花』の方が豊富よね!
中央は『花だんご』売ってないって知った時はショックだったわ)
(え、こっち無いんですか?!)
(『花』ローカルらしいのよあれ)
(絶対売れるのに…)
むむむ、話してたら食べたくなってきた
あのだんご、ピンクの部分が美味しいんだこれが
(あ、となりの射的まだやってますね!今度はこっちやりましょう!)
(輪投げはやったの?)
(カグヤちゃんが何度も台を吹き飛ばしてました!)
(あ、あの子はほんと…)
ちなみに射的とは、『長銃』という狩猟用の古代マジックアイテム…の偽物を使い
的にコルクの玉を当てて、的を倒したらその商品がもらえるというものだ
景品として並んでいるのは…お菓子の箱に、王子の人形、お財布に、なんかきらきらしたボール
腕輪型の魔力コンバーターまである?!
めちゃめちゃ高いのに…
「ふふ、あれは客寄せの見せ品、取れないようになってるのよね」
『そうなのかい?』
自信満々に言うミソラさん
「ははは、人聞き悪いなぁ…まあ、撃ってみればわかりますよ」
「やめとくわ、弾がもったいないもの」
ちょっと皮肉めいた顔で、肩をすくめるおじさん屋台主
当たり前だけど、屋台も結構色んなタイプいるな…
………
……
…
ミソラさんが果敢に挑んだ結果は……何も取れませんでした
「んんんんん?!」
「口は達者だけど、腕前は大したことないですな」
「にゃにおう?!」
お客さんをちょこっと挑発して、お金を使わせるタイプ…かな?
あんまり長く続けられなさそうなスタイルだ
『ボクもやってみよう』
「…はーい」
ミソラさんから交代して私の番へ
こういうのは相手のやってた行動を見てから動けるから
二番手がちょっとだけ有利なんですよね
………
……
…
「お、人形が落ちましたよ!やりますねぇ!」
『…自分の人形もらってどうしろと……』
私そんなナルシストじゃない!
…でも、王子なら無いわけでもないのかな…?!
『じゃあこれは、ミソラさんにあげるね』
「い、いいの?」
『思い出の品、ひとつくらいあってもいいんじゃないかな?」
「ありがとー、王子ぃ」
人形を抱きしめて、笑顔になるミソラさん
夕日に照らされたそれは、なんだかとっても愛おしくて
それが見れただけでも、来てよかったなと思う
「お、青春してるねぇ」
なぜか、さわやかな笑顔をこちらに向ける屋台主
「よし!おまけでこの、なんかきらきらしたボールもあげよう!」
『なんで?!』
「ちょっと余っててさぁ」
『処分品押し付けられてる…?』
「じゃあ、いただくわねー」
ミソラさんは何を思ったのか、わざわざ人形の手を使い、そのきらきらボールを受け取った
…まあ、人形を気に入ってくれたという事で、よかったと思おう、うん
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