84・王子少女は学園したい!
歩くこともできないくらい満腹になった二人
店長さんが近くに宿をとっているそうなので、その部屋でちょっと休憩させてもらう事に
「だいじょうぶー…?」
熱くなってソファーに倒れている二人を、チラシで扇ぐ
「ううん…胃の小さい自分が残念なのです……」
もっと食べたかったらしい
「まあ、お城に戻るのは、もうちょっとしてからだね」
「うへー…」
カグヤちゃんもぐったりしている
「…ちょうどよかったのです
お城の人たちから離れてる今のうちに…
おねえちゃんに聞いておきたいことがあったのですよ」
「何かな?」
アジサイちゃんはソファーにきちんと座り直し、低い声で問いかけてきた
「いくら王子とそっくりだと言っても、いずれバレる時は来ると思うのですよ
その時…偽者にみんなの怒りが向いた時、あなたはどうするのです?」
…聖女様らしい、問いかけだと思った
危機の時にどういう行動をとるのか、それが知りたいと
「…そうですね」
私は、思ったままを伝える
「できるだけ、みなさんの怒りが私一人に向くようにして、処分されようと思います」
「え…?」
意外だったのか、彼女はぽかんと口を開けている
「嘘をつくのはいけない事です
今はもっと大事な、平和のために仕方なく演技してますけれど…」
みなさんが怒るのも、最もだと思います」
「……」
ただの村娘が、本来してはいけないこと
それを追及されたなら、しょうがないと思う
けど…できるならそれは、平和が戻ってから
私を手伝ってくれたみなさんに、危害が及ばないように…!
「…自分が聖女って言われてるのが、ちょっと恥ずかしくなってきたのですよ」
「?」
ため息をつくアジサイちゃん
…どうやら、自分でもあまり言いたくなかった話のようだ
覚悟はあるか?なんて、誰かに言うの、確かに嫌だよねぇ…
「不安になるようなことを言って、ごめんなのですよ
おねえちゃんにその覚悟があるなら、きっと大丈夫なのです」
その幼い両手で、私の顔をそっと触る
「きっと、色んな人を助けてきたのですよね」
私を見ながら、遠くを見るような、不思議な目をする彼女
その目に映るのは、私じゃなくて…たぶん、彼女が今まで助けてきた人たちの顔
「ふふ…人って現金なもので、たとえ偽者だとしても
自分たちにとってよい存在だったなら、許してしまうものなのです」
「…そういうものでしょうか?」
「聖女歴二十年のアジサイが言うのですから、間違いないのですよ」
たまに大人の顔を見せる彼女
悟った顔と、子供のような顔、どちらが本当の彼女なのだろうか
「…ぼくたち、聞いていい話だった?」
「おとなー…」
店長さんとカグヤちゃんが、邪魔しちゃ悪いと思ってたのか
一段落してから話しかけてきた
「あ、え、その…全然かまわないのです!
あの補佐官のミソラさんに聞かれたら、なんか体よく誤魔化されそうだったから…その……」
自分が引き込んだ責任感じちゃうだろうから…
今のは彼女に聞かれなくてよかったと思う
「じゃあ、今度はこちらからアジサイちゃんに」
「お、話すんだね」
店長さんと相談していた、アジサイちゃんに関する事…それは
「落ち着いたらでいいんだけど…魔法学校に入る気はないかな?」
さっきよりも大きく開かれた目の玉が、彼女の驚きを示していた
「学校?!い、今さらなのです?!」
二十年頑張ってきた彼女にとっては、確かに今さらに聞こえるかもしれない
けど…
「そもそも、魔法って言うのはね…個人に生まれたユニークスキル
それを誰でも再現できるようにならないか、ってところから始まってるんだ」
店長さんの解説が始まる
…こういう時、彼の説明はわかりやすいので助かる
「研究の結果…火の玉や飛行、色んなユニークスキルが魔法へと昇華されていった」
王子の隕石魔法もそのひとつ
「アジサイちゃんの成長と魔力を変換するスキル…『グロースチェンジ』は特別だ
きみが学校に入学し、それを魔法で再現できるようになれば
『雪』どころか世界の大地が豊かになり、多くの人間が救われる」
オーバーかもしれないけれど、夢のある話
店長さんのおかげで魔法に少し詳しくなった私が
こんな事できないかな?と彼に相談して…
なら、彼女が入学するのがいいんじゃないかな?となった訳だ
「で、でも、それは…別の子供が
わたしのような立場に追い込まれかねないのでは…?」
…子供の成長力を使って、自分の畑を豊かに…
それは確かに、やってはいけない事だと思う
「魔法は、呪文で制限をかけることができる」
呪文を唱えるという手順で、ユニークスキルは魔法で再現する
その唱える文章に、色々な制限を追加できる…らしい
「火の玉なんて、最初は火の魔力が暴走して、本人もやけどを負うような代物だったんだ
暴走しないように、呪文に改良を重ねて、今、冒険者が使うような安全な形になった
やってみる価値は、あると思うんだ」
「そ、そうなのですね…」
「学費やら生活費やらは、国が出してくれるから考える必要は無いよ」
「……」
黙ってしまった彼女
…ど、どうだろう…?
私は、本人のためにいいかなと思ったんだけど
余計なお世話だったかも…
「学校…」
ぽつりと呟く
「みんなと一緒に、勉強して、遊んで、ご飯を食べて…
わたしには縁の無いものだと、諦めてたのに……」
子供の教育は、どの領地でもやっている
ただ…『雪』では、子供を学校に行かせるよりも、働かせないと食べていけない
そんな場所が多いと聞く
「う…うぐっ……ぐすっ…」
「わ、ないちゃった?!」
抱きしめて頭を撫でる
彼女に救われた人たちは、それでも自分の事に精いっぱいで
彼女を気遣う余裕なんてなかったのだろう
「学校に行ける子たちが、羨ましかったんですね…」
聖女なんてものじゃなく、ただ普通が欲しかった女の子
「…わたしも……
わたしもそういや、がっこういってない!」
カグヤちゃんが、はっとした顔で驚いている
残念息子に嫁に出されてたから、途中退学とかさせられたかな…?
でも、今の領主さんなら、復学の手続き進めてるんじゃないかと思う
「わたしもいっていい?アジサイちゃんといっしょに!」
「うん、大丈夫だと思うよ…お金は問題ないだろうし…
ちょっと勉強ができないと大変だけど」
「きんとれじゃだめ?!」
「それじゃだめかなー…」
交換はできないんですよ、それ
「わたしおべんきょうがんばるから!いっしょにがっこう、いこう!」
カグヤちゃんがすっ、とアジサイちゃんに手を差し伸べる
最初はそれを、呆けた顔で見ていたけれど、徐々に落ち着いていき…
「…はいっ……」
涙ぐみながら、その手を取った
「うう、また人前で泣かされてしまったのです…セッカさんはずるいのですよ」
もじもじしながら私に文句(?)を言うアジサイちゃん
…泣かせるつもりじゃなかったんだけどね
「ちょっと疲れました…おねえちゃんのそばで休ませてほしいのです」
「わたしはげんきだけど、つかれたフリをするのだー」
私を抱き込んで、二人してソファーに寝転がる
またもやサンドイッチ状態な私
でもまあ、メイドさんたちに挟まれると恥ずかしいけど
子供たちだとしょうがないなー、って気分になってくる
「…おっぱい狙わない?」
「狙わないですよ?!今日は正気です!」
おっぱいさえ狙わなければ、いい子だから…
今日はいい子のままでいてください…!
「え、おっ…?!ど、どういう事なのセッカちゃん?!」
…しまった、店長さんもいるんだった……!
自分からおっぱいとか言っちゃったよ!
「いやあの、実は…」
仕方がないのであらましを話そうとしたら
「だ、だめです、黙っててください、お願いするのですー!」
アジサイちゃんが泣いて謝ってきた
ほんとよく表情の変わる子だなぁ…と、私はちょっと笑顔になるのだった
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