81・王子少女は信じたい!
メイドさんたちは、急な来客を知り大慌てで部屋の準備をしたけれど、結局間に合わず
『星』の領主は、城の近くの高級ホテルに泊まることになった
立場が上になると、事前連絡が大事になるんだなぁ…
そこから時間は進み、次の日のお昼
王子の部屋で、私はミソラさんと一緒に、スピーチの練習をしていた
「え、手を前に突き出すポーズするんですか?
…恥ずかしくないです?」
「ここは行動で惹きつけることが重要なのよ」
そこへ…
コンコンッ
「よろしいですかな?」
ドアをノックする音と、執事さんの声
「どうぞ入って~」
ミソラさんが気軽な感じで返事をする
だいぶゆるゆるになってきたなぁ…ミソラさんも
執事さんは、軽くお辞儀をして、部屋に入ってくる
「昨日おっしゃっていた『ウインドフォール』ですが…
捕まえてみたところ、刑務所からの脱出計画を企てていた事がわかりました」
「…あぶないわね……確保できてよかったわ」
重要人物を危うく逃がす所だった
「どうやら、両親が『雪』から逃げてきた村人らしく
『風』では耕す土地が少なく、肩身は狭かったようです」
「…『雪』ほどではないけれど、『風』も土地は豊かじゃないものね
古代遺産とその研究のおかげで、職人が多いから食べるのに困らない訳で」
食料生産量は、やはり『花』が一番多い
だからこそ、農家が逃げる時は『花』に来るのが普通なんだけども…
「それでも諜報団に入って、なんとか暮らしていけるようにはなったが
金の誘惑には勝てず、『雪』の手先となって動く道を選んだ
…というのが本人の弁ですが」
執事さんが渋い顔で報告している
あまり彼の言ってる事を、信じていない様子だ
「相当な数の陰謀に加担してそうね
コガラシを王子殺害の方向に持っていったのも、そいつの仕業かも…」
刑務所では、随分と穏やかな顔になっていた彼を見るに
それはありうるかもしれない
「執事さんならわかると思うけれど、信用しちゃいけないタイプよ
両親の話も、嘘の可能性が高いわ
『雪』の領主を追放できるまで、ずっと拘束しておきましょう」
「…そうですな」
元身内が、反省もせず逃げ出そうとしていた…
その事実のせいか、執事さんの返事には覇気が感じられなかった
「自分が情けなくなりますな
…諜報団の歪みに、もっと早く気づいておれば」
「後悔…してるんですね」
今まで、忙しくて振り返る間もなかったけれど…
自分の仕えていた人間を、自分の古巣が殺してしまった
彼の心は、どれだけ傷ついているだろう
「執事さんは、その時それが最善だと思ってやったんです
残念ですけれど、結果が上手くいかない事だってあります」
彼の手をそっと握る
しわの入ったその手は、彼がずっと王子に尽くし、努力してきた証だった
「それでも諦めなければ、きっといずれ、道は開けます
たとえ歩けなくなっても、自分の開いた道を…開こうとした道を通って
誰かが進んでいってくれます」
「……」
「青臭い若者の言う事ですけど
でも、そうやって続いていくと、信じたいんです」
「……王子…」
私に、彼の憧れた王子の姿を、垣間見たのだろうか
目の前の私ではなく、王子に語りかけるように、彼は口を開く
「…先に行くことができず、申し訳ありません
王子の歩もうとした、平和への道…わたくしも微力ながら開いてまいります」
私に頭を下げ、そう誓う
…そして、私の手をほどき、顔を上げたら、いつもの執事さんの顔に戻っていた
「セッカ殿、ありがとうございます
わたくしもまだまだ引退できませぬな」
肩に再び力が入る執事さん
そんな様子を見ていたミソラさんが、何か感心したように呟く
「…不思議な子よね、セッカちゃんって」
「そう、ですか?」
「上手く言えないんだけど、なんかこう…ほっとすると言うか……」
ふわっとした何かを伝えようとしたミソラさんだったが
そこにまたドアのノックの音がする
コンコン
「あ、あのー…王子様、いらっしゃいますか?」
懐かしいこの声は…店長さんだ!
ドアを開けるとすぐ目の前に、ちょっとおどおどしながら店長さんが立っていた
「来てくれたんですね、よかった!」
「魔法学校の事で話がある、って聞いたけど…
他に話せる人いなかったの……?」
「やっぱり店長さんが一番話しやすいかなー…と思いまして」
魔法学校につながりのある人間が、ホント見つからなくて
「まあ、臨時収入が入るから、僕は嬉しいけどね
それで新しい本も買えるし」
相変わらずの本好き、店長さんらしい
…っと、廊下で話してると誰か来たら困るな
「店長さん、とりあえず中に…」
入ってもらおうとしたところで、廊下に小さな人影が二人やってくる
「あ、てんちゃんだ!やはー!」
「カグヤちゃん?!そして、えーと…」
「アジサイなのですよ、『雪』で聖女やってるのです」
ちびっこ二人が、店長さんに声をかける
…とりあえず兵士さんとかじゃなくてよかった
「この子が、セッカちゃんが手紙に書いてた、聖女さん?」
「そうそう、そうなんです」
「?」
店長さんを呼んだのは、他でもないアジサイちゃんのためなのだ
来てすぐ会えるとは、話が早くてありがたい
…とはいえ、いきなりあの提案されても、困るかもだし……
「そうですね…せっかくだし
まずはみなさん一緒に、お祭り行きませんか?」
まずは交流を深めましょう!うん!
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