76・王子少女は友情したい!
大通りでは、「花風雪星空」を表す、五色の旗が飾られ風に揺られていた
多くの人々が練り歩くそこは、かなりの賑わいを見せており、喜びと興奮が感じ取れる
楽団が音楽を奏で、その周りを踊り子たちが踊るパレードが通過していく
道沿いには露店が並んでいて、美味しそうな香りが漂ってくる
焼き菓子の匂いを嗅いでいると、久しぶりに甘いクッキーを作りたくなってきた
噴水のある広場では、催し物が行われている
大道芸人が手品でお客さんを楽しませているのを見かけるが
あの手に持った玉が消えるトリックは、どこかで見たような…?
…ああ、そっか
あの人、お城でお客さんを呼んだ時に、芸をしてくれてた人だ
彼もこちらに気づいたようで、白粉を塗りたくった顔で、軽く会釈をしてくれた
私も手を振って挨拶を返す
王子様ってほんと、色んな人とつながりができるなぁ
私は、ヒルヅキさん、アカツキさんとお祭りに出て来ている
ミソラさんがスピーチの大詰めを書いていて、城を抜け出せないので
屋台の食べ物を買って持ち帰る予定だ
「王子様じゃないですか…今日はどちらに?」
早速、よさそうな屋台から声をかけられる
小麦粉の焼き物を扱っているお店のようで、香ばしい匂いが食欲を刺激してくる
『はっはっはっ、たまにはこう、屋台の食べ物を食べてみたいと思ってね
キミのお店、ちょっと拝見させてもらうよ』
「…?!そ、そんな恐れ多い…」
あれ?客引きじゃなかったのか…
純粋に声をかけただけのようで、ピンクエプロンのお姉さんはちょっとびっくりしている
王子様って、庶民の食べ物はあまり口にしないのかな…?
一緒に来ていたヒルヅキさんが、屋台のメニューの中のあるものに気づく
「おや、この『隕石焼き』って、何でしょうね?」
「お、王子様にあやかって、小麦粉を丸い隕石の形に焼き上げたものです」
屋台で並んでいるものを見るに…変わった形の鉄板の上で、鉄の櫛を使って
小麦粉を丸い形に焼き上げていくようだ
『ふぅん…面白そうだね、一つもらおうか?』
「え?!」
むむむ、この反応…
やはり王子様は屋台で食べ歩きなんてしないのか
こういうジャンクでフード的な物も、美味しいと思うんだけど
「王子様は庶民派だって聞きましたけど、本当だったとは…」
「王子こう見えて、甘いもの好きなんですよ♪」
『はっはっは、ボクの秘密を暴露するのはやめたまえ』
甘いもの好きは私であって、王子ではないんですけどね
…いや、ひょっとして本物も甘いもの好きの可能性、なくはないけど…
エプロンお姉さんは真剣な顔で、隕石焼きを焼き始める
それをじっと見つめるヒルヅキさんとアカツキさん
レシピが気になるのだろうか?
…そして、注文してから五分ほど経過し……
「は、はい、できあがりました!あついのでお気をつけを!」
エプロンお姉さんが、できたての隕石焼きを、お皿に盛りつけて渡してくれた
茶色い見た目の丸い玉が十二個ほど並んでおり
そこにソースがかけられ、見た目はかなり美味しそうだ
「あ、ひとつもーらいっ♪」
そのうちの一つを、ヒルヅキさんがひょいと手で取って食べてしまう
「こ、こら姉さん!
…すみません王子、うちの姉さんが」
姉の行儀の悪さを謝るアカツキさん
あ…そっか、これは……
私はヒルヅキさんの意図に気づき、私もその流れに乗ることにした
『後で一個分、給料から引いておくね』
「えー、そんな細かいっ?!」
『食べ物の恨みは恐ろしいんだ』
実際、屋台の食べ物一個分だけ引いてくれって言われたら
お城の会計士さんが泣くと思うけど
「…ふふっ」
『ど、どうしたんだい?』
「あ、す、すみません…皆さん、思ったより楽しい方たちなんだなぁ、って」
よし!エプロンお姉さんにはウケたようだ
王子がウケ取ってどうするの、っていうのは置いておいて
「あ…あつっ?!これ、中があつあつで柔らかいです!
そんで…さらに奥に何か入ってる……?!」
「隕石の中は溶岩のように熱く、中央にはタコ型の宇宙人が入ってる…
という設定で、タコを入れております!」
『意外と細かく作りこんでるね?!』
ただの便乗商売屋台ではないようだ
私も一口食べて確認してみる
『ふむふむ…うん、おいしい!』
外はカリッとしつつ、中はとろっとしていて、二つの食感が絶妙なハーモニーを奏で
アクセントとして入っているタコの切り身が、噛み応えも与え、さらなる味わいを演出している
…これは…いける!
「やった!」
飛び跳ねる勢いで喜ぶお姉さん
王室の味に慣れた王子に認められたとあれば、そうなってもおかしくない
「あの…王子が食べたお店として、看板かかげてもよろしいでしょうか?!」
『な、なかなか商魂たくましいね?!美味しいからいいけど!』
「ありがとうございます!」
単なる便乗商売なら断ってたけど、ちゃんと作ってるし…いいよね?
「じゃあ、あと…これとこれと…十皿づつもらえますか?」
「そ、そんなに?!」
「元々、いくつか城に持ち帰る予定だったんだ、ここで頼もうと思ってね」
「わかりました!がんばって焼きます!」
お姉さんが気合を入れて焼き始めたので、その間に私たちは他の屋台を見て回る
削った氷にシロップをかけたものや、肉を焼いて串刺しにしたもの…色々並んでいる
どれもこれも食べたい…お腹が二つに増えないかな……
…あ、『ひかやみ』のお面売ってる?!
人気の主人公やみーさんは売り切れたらしく、渋い敵役のおっさん面ばかりが残っている
か、悲しい…こういうの、作者さんに許可取ってないんだろうなー…
しばらく屋台を堪能し、私たちは城に戻った
とりあえずキッチンに、屋台で買ったものを持っていく
「…買いすぎた…絶対こんなに食べないですよね」
お城のキッチンに誰もいなかったので、王子はやめてセッカに戻る私
調理場のテーブルの上には、先ほど買った食べ物たちが山のように並んでいた
「全部ミソラさんに突っ込みましょう」
「ミソラさんが大変なことになっちゃう?!」
あの黒水着の格好で太ったら、一瞬でバレちゃう!
「……」
周りに人がいないことを改めて確認、そして…
「ヒルヅキさん、ありがとうございます」
私は彼女にお礼を言った
「あの、先につまみ食いしたのって…毒見ですよね?」
「…わかっちゃいましたか」
王子が毒殺されたとなれば、警戒するのも当然だった
「まあ、ほぼ大丈夫だとは思ったんですけれど…念のために
お店の人に不快感を与えず、先に口へ運ぶには、あの流れが一番だと思ったんですよね」
おちゃらけているように見えて、しっかり考えている
彼女はそういう人間だと、だんだんわかってきていた
「そうだったんだ…姉さん、ごめんね
てっきり、王子の物は自分の物な、いやしんぼ姉さんかと」
「アカツキは気づいてると思ってたのに?!」
…アカツキさんは、逆にちょいちょい抜けているところがある
「セッカさんには感謝してるんですよ
妹の命を救ってもらって、結果、あの子の悩みも吹っ切れた」
「…そうだね、ホシヅキは『風』の一件の後、かなり変わった感じ」
「お姉ちゃんも心配だったけど、どうにもできなかったから…」
結局、彼女が何に悩んでたのか…私にはわからなかった
けど、もしその助けになったのなら、それはよかったと思う
「全部終わって田舎に帰っても、あなたは妹の恩人で、私たちの友達ですよ」
「…はいっ……」
ちょっと涙がこぼれそうになった
私は影武者で、私がやったと公言できるものは、何も残らないけれど
真実を知り、支えてくれた人たちとの絆は残るんだと…そう思えたから
「……」
「?」
涙を拭う私を見て、ヒルヅキさんがぷるぷると震えている
ど、どうしたの…?
「あー!でもやっぱ惜しい!セッカさん、私たちの末妹にならない?!
もっと照れ顔堪能したいの!」
うわー!いつものかわいがりモードに入ってたー?!
「お、お断りします!」
「ふふふ…ならば、はいと言いたくなるようにしてあげます…!」
ガシッ、とアカツキさんに後ろから羽交い絞めにされる
「ま、また…?!もうやめ……んひゃんっ?!」
耳から順に、弱いところをいじられ、一瞬で顔が赤くなる
絶体絶命の私!
…だったけれど、この後偶然、眠気覚ましのコーヒーを淹れに
ミソラさんがやってきて、二人はしこたま怒られるのだった
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