75・王子少女は再会したい!
領主たちに使いを出して三日後の事
お祭りももう始まっていて、城下は大変賑やかになっている
ざわめく人の声、吟遊詩人の奏でる楽器と歌声、何か美味しいものが焼ける音
聞くだけで心がそわそわしてくる
私もそろそろ見に行きたいな、とうずうずしていた
「は…『花』の領主様、到着しました!」
ミソラさんの部屋、ドアの前でノックをしようとした私に向かって
門番さんが話しかけてきた
…早い!
馬を全力で飛ばしてきたくらい早い!
「え、父さん来てるの?!」
中のミソラさんにも聞こえていたらしく、慌ててドアを開けて出てくる
『そ、そうか…すごい速さだね…
それで、今どちらでお待ちいただいてるのかな?』
「…もう来ております」
『うん?』
「久しぶりですな、王子」
兵士の後ろには、すでに『花』の領主の姿が
「父さ…え?!」
ミソラさんが驚きの声を上げる
あまりにも迅速すぎる…のはともかく、彼の格好が異様だったからだ
『ははっ…変わったお召し物だね』
『花』の領主は、金の模様が描かれた真っ赤な鎧を着ていた
まるでこれから戦場にでも行くかのような出で立ち
「昔、冒険者をやっていた頃に着ていた物でしてな
王子のおかげで常在戦場の心を思い出しました」
「……」
私のせいなの?!
い、いや、殺る気に満ち溢れちゃったのは私のせいでも
そのめっちゃ目立つ赤鎧のセンスは、いかがなものかと…
『…間違いなくミソラくんのお父さんだね』
「あ、あたしはそんな派手派手な鎧は着ないもん…」
『似たようなものだと思うよ…』
赤鎧はまあ、色が派手な事以外は役に立つけれど
黒水着はほんと、えっちい事にしか利点が無いし
…そう考えると、むしろミソラさんの方が問題では……
「ほわぁ…あなたカッコいいわ」
「母さん?!」
いつの間にか、領主の奥さんもその後ろに来ていた
彼女は赤鎧を着た領主を、うっとりとした瞳で見つめている
「やっぱりあなたは、私をさらって家を飛び出したあの頃が、一番輝いてるわ…」
『何かやばい事呟いてる気がするけど、聞かなかったことにするよ!』
「や、やめて!娘の前で青春を取り戻さないで!」
人に歴史あり、だなぁ
ミソラさんは恥ずかしくて悶絶してるけど
「しかし、実際『雪』の領主たちが暴れるかもしれんのでしょう?戦の準備は怠れませぬ」
『…確かに、その通りだね』
しっかり準備をしててえらい
…王子よりも派手なのは、どうかという気はしなくもない
「それで、元冒険者の仲間から知ったのですが…
『雪』の息子フレーダも、元冒険者だったという話が」
『…へぇ』
「高ランクパーティに所属していたらしいのですが、ある日、彼を除いて全滅したとか…」
『何かありそうな話だね』
探っていけば、彼を攻略できる糸口になるかも…?
「あたし、冒険者の事情はわからないんだけれど…貴族でも冒険者ってのは多いの?」
「さほど珍しい事ではないぞ、継承権のない三男が一発逆転を求めてとか
戦闘の経験を積んで、次代としての箔をつけるとか」
なるほど…貴族でもない平民にとっては、立身出世の一番の近道だけど
貴族にとっても、逆転の要素があるんだなぁ
と、ちょっと冒険者の話に聞き入っていたところに…
「おねーちゃん、そろそろおまつりいかない?」
カグヤちゃんが、姉の部屋までやって来た
…そしてその視界に、父と母の姿も目に入る
「ほあっ?!おとうさん、そのかっこ…」
「カグヤ?!ち、違うのよこれは!」
ミソラさんは両親の醜態を隠そうと、彼女と両親の間に入って隠そうとするが
「かっこいいね!」
「?!」
どうやら、カグヤちゃんのセンスは母親寄りだったようだ
「そうだろうそうだろう、父さんは昔『赤き稲光』と呼ばれていてな…」
「ほ、ほうほう」
「あーーーーーーーーーっ!」
父の盛りに盛られたカッコいい武勇伝を聞かされ
食い入るように聞くカグヤちゃんに、恥ずかしさに悶えて床を転がるミソラさん
『し、しっかりするんだミソラくん』
「なんで赤なの…せめて黒ならよかったのに…!」
『そういう問題かな?!』
闇の軍師と赤き稲光は、相性がよろしくないようだった
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