70・アジサイちゃんは数えたくない!
私は、彼女の自己犠牲に、言い様の無い衝撃を受けていた
『…そんな……』
子供が、自分の成長という、未来への希望を捨てる
彼女はそれほどの覚悟でもって、聖女を続けたのだ
「…そういうことだったのですね
わたくし、大変失礼なことを申してしまいましたわ…」
深く深く、頭を下げて謝るアワユキさん
成長しないという事は、老化もしないのかもしれない
…もしかすると、永遠に『雪』で苦しむ人たちを救い続けていたのかもしれない
終わりのない救済…
あの時、彼女がどれだけ落ち込んでいたのか…その一端を垣間見た気がした
「気にしなくていいのですよ
わたしが無理に力を使わなくても大丈夫な『雪』を、作っていくのですよね?
たぶん、無理をしなくなったらまた成長できると思うのです」
そう言って、彼女は笑う
辛さも苦しさも、未来があると信じられれば戦える
出会った時とは違う、信念の強さのようなものを、感じた
『そうだね…頑張ろう!』
「わたくしも頑張りますわ!」
「そうね…わたしも気合入れなきゃいけないわね」
「うむ、やりましょうぞ!」
決意を新たにする私たち
彼女を救済のループから救い出し、未来に向かって歩みはじめよう!
私たちの戦いはこれからだ!
「……」
………
……
…
そうして、初の顔合わせは無事に終了
細かく詰めるところはいっぱいあるけど、大体は上手くいきそうでよかった
私たちは町長の館を出て、カグヤちゃんとヒルヅキさんアカツキさんの待つ旅館に戻る
「わー、セッカお姉ちゃんー♪」
聖女様は、町長の視線が無くなる場所まできたら、また腕に掴まってきた
できるだけベタベタしたいらしい
「あの…ちょっとええかな?」
そこにホシヅキさんがおずおずと話してくる
「なんかいい雰囲気やから、言われへんかったんやけど……」
そういえば、さっき決意表明をしてた時から、ホシヅキさん一人だけ考え事してた
…何かあるのかな?
「力に目覚めたのって、何歳ぐらいの時やったん?」
「えっと…たしか十歳の時なのですよ」
「そこから二十年…って計算すると、聖女様のお歳って…」
「……」
指折り数えて、だんだん青くなっていく聖女様
「…さ、三十歳、なのですね……」
「さん…えええええええええ?!」
こ、この私にしがみついているかわいい幼女が、三十歳……?!
「初対面の少女に抱きしめられて幼児退行して、おっぱいを求めだす三十歳…」
「幼児のフリをしてベタベタに甘えてきて、お姉ちゃん♪とか年下に言っちゃう三十歳…」
「ふああああああああ、やめ、やめるのですよ!事実を指摘するのは!」
ミソラさんとホシヅキさんに指摘され、赤くなった顔を手で覆いながら
聖女様は地面をのたうち回る
「なのですよ、とか言っちゃうのも子供っぽくない?」
「ううううう…だ、だってずっと『雪』の奥地で癒し続けてたのです…!
何年経ってるかも、さっきまでわかってなかったのです!」
叫びながらなおも地面に転がり、じたばた暴れる聖女様
この子が三十歳かぁ……
…でもまあ、彼女に三十歳の振る舞いをそのまま求めるのも、違う気はする
「ま、まあ…ちょっとくらい甘えさせてあげても、いいんじゃないでしょうか」
子供でいられなかった彼女に、与えられなかった時間が、少しでも戻るなら
「それはいいけどー…三十歳と分かったら、遠慮はしないわ♪」
ミソラさんがまた、私の腕に抱きついてくる
今まで一応、聖女様…アジサイちゃんに遠慮していたけど
三十歳にそれはしないらしい
「ひゃっ…も、もう、ミソラさんー…」
「うちもベタベタするーっ」
「ホシヅキさんまでー?!」
「はうっ、ずるいのです!わたしも混ぜるのですよ!」
また揉みくちゃにされる私
私にも、ちょっと遠慮してくれてもいいんじゃないかな?!
湯煙の漂う帰り道、赤くなりながらそんな事を思うのだった
お読みいただき、ありがとうございます!
よろしければ、広告の下にある☆☆☆☆☆を★★★★★にして
評価してもらえると、たいへん嬉しいです!
さらに面白いと思ってくださった方
同じく広告の下にある『ブックマークに追加』も押して頂けると
とてもとても嬉しいです!