68・王子少女に甘えたい!
「あの…そろそろ服を着た方がいいんちゃう?」
「…はっ?!」
彼女が泣き止むまで…二十分かな?
ずっと裸のまま抱きしめていた
さっきまでは大丈夫だったけど…だんだん寒くなって来たし
それに恥ずかしくなってきた
そっと彼女から離れる
「あっ…」
聖女様は寂しげな声を上げ、一言呟く
「おっぱい…」
…いや、ちょっと聖女様?
「聖女様、幼児退行してもうとるやん?!」
「うちのカグヤでも、おっぱいは要求しなかったわよ?!」
「さ、流石に出ませんよぉ…」
「むー…」
むーと言われても困ります…
彼女の目線を尻目に、いそいそと王子服に着替えなおす
このままだと風邪ひいてしまうし
「パパ、もうこっち向いてええよ」
「…すみません、失礼と思い山の方を向いておりました」
「いえ、助かります」
執事さんはちゃんと目線を外してくれていたようだった
…娘のホシヅキちゃんはガン見してたけど…
「…申し訳ないのです、我を忘れていたのですよ」
しばらく放心状態だった聖女様が、我に返ってくれたようだ
…よかった…あのまま幼女だったらどうしようかと
「わたしの名は『アジサイ』…
大地を癒すユニークスキルを持った女なのです」
背をしっかり伸ばし、改めて挨拶をしてくれる聖女様
こうしてみると、多少汚れてても聖女の雰囲気が出てくる
「大変お恥ずかしいところを見せてしまったのですよ」
「…辛い時は、誰にでもありますよ」
目線をそらし、赤くなって指をいじる
…聖女の雰囲気は一瞬だった
「見られてしまった以上、『雪』を救ってくれると信じて
セッカお姉ちゃんに従うのです」
ぴたっ
彼女は私をお姉ちゃんと言って、腰のあたりにしがみついてきた
「…懐かれましたな」
「あはは…」
朗らかに笑う執事さん
村にいた時から、小さな子にはなぜか、よく懐かれてたんだよね
「むむむ…」
「いつもなら張り合うけど、子供相手にそれは大人げないかなーって思っとる?」
「よくわかったわね、その通りよ?!」
「安心してええで、うちもや」
「ホシヅキちゃん…」
「ミソラさん…」
「「むむむむむ」」
なんか私の後ろの方で友情が育まれてる
「えへへっ、おねーちゃん♪」
そんなことはおかまいなしに、彼女はまるで猫のように
顔と身体を私にこすりつけてくる
人恋しかったのはわかるんだけど…
「し、視線が…後ろからの視線がすごい事に……」
我慢が限界にきてまた襲われたりとか、しませんように…!
………
……
…
それから私たちは、集まるときに乗ってきた馬車で移動
二日ほどでユキミの街に帰ってきた
「ここは…?」
きょろきょろと辺りを見回す聖女様
湯気の漂う街並みにおどろいているようだ
「温泉街のユキミよ、『雪』の端っこにある街」
「こんなに『雪』で発展してるところがあるなんて……」
彼女は特に、ところどころにある古代マジックアイテム『せんたくき』に、興味津々の様子
指を突っ込もうとして、洗濯をしているおばちゃんに怒られたりしている
「ここの町長の商才と、あなたが培ってきた名声と、私たちの支援で
『雪』を立て直そうって計画よ」
「…どうでしょう?」
「いいですね…希望が持てるのですよ」
興奮状態でそう話す聖女様
とりあえず、彼女のお眼鏡には適ったようだった
「とりあえず、先に町長に顔合わせしようと思うのだけれど…」
「町長さんには私が影武者だって言ってないんですよね」
「そうなのです?」
「ですので、できれば内密に…」
「秘密なのですね、ちょっとドキドキするのですよ」
年相応の、いたずらっ子のような笑顔を見せる
…かわいい
やっぱり小さな子には笑顔でいてほしい
「じゃあ、着く前にもうちょっと、甘えさせてほしいのです」
「も、もう、しょうがないですね」
「♪」
しがみついてくる彼女の頭を、私はまた撫でる
寂しがりで甘えたがり
まあ、それはしょうがないとして…
「「むむむむむむむ」」
またミソラさんとホシヅキさんが、言葉にできないもぞもぞを抱えだしてる
このままで大丈夫かな…?
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