67・王子少女は癒したい!
聖女様は疲れ切っているのか、私たちが目の前に来ても顔も上げない
「あたしたちは中央からやってきた王子と、その配下よ」
「…ああ、隕石王子とかいう」
本当は高笑いから入るんだけど、とてもじゃないけどそんな雰囲気ではない
「それで、あたしたち聖女様にお話が…」
…と、ミソラさんが言いかけたところで、聖女様は顔を上げて言葉を割り込ませる
「帰れですよ」
「いきなり?!」
取り付く島もない、氷のように冷たい態度だった
「王家も領主も信用できないのですよ…
上から来て、村人たちから搾取するだけの寄生虫め……!」
…いや、違う……氷じゃなく、これは怒り……
彼女は、ミソラさんの肩を掴み、無理やり目の前に引き寄せ
顔面を睨みつけながら怒号を浴びせる
「お前たちはわかってないのですよ!
どれだけ村人が苦しんで作物を育てているのかを!
それを…何もしない奴らが、武器を持って脅してきて
根こそぎ持っていかれる苦痛を!」
目の前のミソラさんが、何かをやったわけではないのに
貴族の連中だと思うだけで、彼女は怒りがこみ上げてくるらしい
「また私を捕まえて、自分の土地だけ豊作にしよう
とか考えているに決まってるのですよ!」
そうか、彼女が何でこんな、隠れながら移動していたのかというと
昔、『雪』の領主に捕まって、その力を自分のためだけに使うように、強制されたから…!
「は、話を聞いて!」
「うるさいうるさい!お貴族様に使われるくらいなら、いっそ…!」
まずい…
彼女はもう、身も心もボロボロだ……
自棄になって本当に自害する事もありえる…!
「…聞いてください!!!」
最大限の声量で、彼女が驚いて止まるように叫んだ
「お、王子……?」
先ほどまで暴れていた彼女は放心し、目を丸くして私を見ている
「王子じゃありません
私は王子様の影武者…ヒルガオ村の村人、セッカです」
「…何を言ってるんですよ?」
王子様の格好をして出てきた人間が、王子じゃないと言ってきたら、それはまあ混乱するだろう
「私はただの村人です…だからこそ、『雪』の村々の苦しみが痛いほどわかります」
(…セッカちゃん、大丈夫なの?明かしてしまって)
ミソラさんから『グループチャット』が飛んでくる
(すみません、上の方たちも村々の事を真剣に、考えてくれていると思いますけれど…)
(聖女様には『村人のセッカ』が接したほうがいいと思ったのね)
(…はい)
「トチ狂ったのです?いきなり村人のフリなんてして、納得するとでも思ってるのです?」
「…本物の王子は、数か月前に亡くなりました」
「え…?!」
私が王子様だと言った方が、心が安らぐ人たちもいる
けれど心が擦れてしまった彼女には、正直にぶつかっていくべきだ…!
「彼の遺志を継いで、私たちは『雪』の領主の暴走を止め
『雪』の領民たちを助けるために動いているのです」
「そ、そんな…そんなの、信じられないのですよ!
王子の顔は見たことあるのです!全く同じ顔の偽物なんてありえないのですよ!
騙されないのです!」
やっぱり、そう簡単に信じてはもらえないか…
「わかりました…じゃあ……」
いつものように、上着を脱いで胸を見せる
「…わかりますか?私、本当は女の子で、王子じゃないんです」
「そんなのちょっと寄せて上げれば男でもできるのです!
下も脱ぐのですよ!」
う、まさかのカグヤちゃんパターン…!
まさか彼女のように興味本位では無いだろうけど…
仕方なしに、私はズボンに手をかける
「ちょ、ちょっと本気で脱ぐの?!セッカちゃん!」
「二回目ですし…」
「そ、そうだけども…?!」
「そんな…あかん、あかんでセッカちゃんっ」
ホシヅキさん、あかんと言いつつめちゃくちゃ興味津々に見てる?!
「…どうですか?」
パンツも全部脱いで、真っ裸になる私
変に脱ぐのを躊躇ったらいけない…ここは、いさぎよさが大事……!
見えたらいけない部分は手で隠しているから大丈夫
…大丈夫……
…やっぱ大丈夫じゃないよ?!
うう…聖女様の舐めるような視線が気になる…
「お、王子じゃないのはわかったですけれど、元々王女だっただけなのですよ!」
まあ、かなり疑われてるし、そういう流れになるよね
…しかし困ったな……
前の時は村のみんなに証明してもらったけど、彼女の場合そういう訳にもいかない
「地面に手をついて、頭をひたすら下げ、誠心誠意お願いするのですよ!
そうすれば考えてやらなくもないのですよ」
私があっさり脱いで動揺したのか、自分から条件を出してくれた
頭を下げればいいのなら、私はいくらでも下げます…!
「お願いします、聖女様!
『雪』の地を本当に救うために、あなた様のお力が必要なのです!
どうか…どうか、お力を…お貸しいただけないでしょうか…!」
「……!」
まさか自分まで全裸で土下座をする事になるとは…
因果は巡るというやつだろうか
「う、うっ…うぐっ……」
言葉に詰まる聖女様
私は、ただひたすらに、頭を下げ続ける
「うあ、あ、あああああ………」
「な…何を泣いてるの?」
頭を下げ続けているのでわからないが
ミソラさんの言った言葉によると、彼女は泣いているらしい
「もう、顔を上げるのです…認めるのです……
…あなたの言ってる事は本当だって……」
聖女様は、良心の呵責に耐えられなくなって、ようやく私の話を聞いてくれるようだった
私は言われたとおりに顔を上げ、立ち上がる
…ミソラさんの言う通り、彼女の目から涙が零れ落ちていた
「わたしの両親は、不作で作物が納められなくて
今の彼女みたいに土下座して、領主に殺された
そして…その時に、ユニークスキルに目覚めたのです…」
ユニークスキルは、何らかの精神的外傷を負った時に、目覚めることもある
その場合、目覚めるユニークスキルは、その状況に関連したものになりやすい
「…何で自分から、トラウマを掘り返すような真似を……」
「貴族の連中はプライドが山のように高いのです
自分が偉いと思ってるからこそ、領民を平気で虐げることができる
…裸で土下座なんて、絶対できないのですよ」
それが彼女の、貴族判別法
貴族のやつらに、両親と同じことはできないだろうという思い
「ごめん、なさい…あなたに当たり散らして……
わたし、最低なのです…」
アメジストのように綺麗な瞳から、涙がぼろぼろと…堰を切ったように流れ落ちる
「こんな小さな身体で…ずっと一人で、頑張ってきたんですよね
…警戒するのも仕方ありません」
私の胸に、彼女の頭を抱き寄せる
震える彼女は、聖女様とは思えない、普通の女の子で……
「大丈夫です、私たちはあなたにひどい事なんてしませんから」
抱きしめたまま頭を撫でる
一人孤独に耐えてきた彼女を、慰めるように
「う、うぐっ……
うわあああああああああああああああああああああん」
曇り空に、彼女の声が響く
全てを吐き出すかのような…絞り出された、泣き声が
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