66・王子少女は見つけたい!
「協力はよろしいのですが、一つ問題がありまして…」
アワユキさんは、自分のほっぺたを人差し指で触り、首をひねる
「聖女様は神出鬼没で、どこにいらっしゃるかわからないんですわ」
『…なるほど、それは大変だね
お願いをするにも、会うところから始めないといけないか…』
なかなか、一筋縄ではいかないようだ
「この地図を見せてもらって、よろしいですかな?」
執事さんが、本棚に納められた『雪』の地図を見つける
「そうですわね、それを見て相談する方がよろしいかと」
アワユキさんと執事さんの二人で、机の上に『雪』の地図を広げる
まずは出現ポイントを絞り出す…人探しの基本だ
「去年、作物を納められなかったところはわかるかしら?」
「いえ、それは流石に…叔父上しかわからないですわ」
「あー…そういえばそうね…」
なんか半分、もうアワユキさんが『雪』の代表のような感じで話してたけど
まだこの『ユキミ』の町長でしかないし、当然、誰が納税してないかとか分るはずがない
「じゃ、じゃあ…大体でいいから、特にここ数年不作だった場所は?」
「このユキカゲ村と周辺は、異常気象が続いてまして…」
「では、このあたりに現れる可能性が高いという事ですな」
『雪』の真ん中に近い山の中を指さす
聖女様が不作を救うのならば、彼女は不作の場所に現れる…という逆算だ
「そこから聞き込みを進めていくのがよさそうですな」
『地道な作業だけど、頑張ろうか』
ぐっ、と拳を握って新たに決意をする
捜査の基本は足から…探偵小説でもそう言っているもんね
「…と、ところで、その…」
話が一段落したところで、アワユキさんが別の話題を振ってくる
「王子様、フィアンセはいらっしゃいますの?」
フィアンセ…えーと、婚約者の事だよね?
私たち村人には縁のない言葉だから、一瞬何なのかわからなかった
許嫁ならたまに聞くけど
『ボクにフィアンセ?いないよ』
いないはず…だよね?
執事さんに目配せして確認する
彼が首を振ってるので、いないで間違いない
「こ、こら、ダメよ!王子を狙うなんていけないわ!」
ミソラさんが、また私の左腕に抱きついてくる
あ、えと…ああ、そうか
婚約者がいない…つまり結婚を狙ってもいい、っていう図式かぁ
…王子って、ホントにモテるなぁ……
「い、いや、そういう意味ではないですのよ?!」
「そうでもなきゃ聞かないでしょ?!」
「ちょっといいなって思っただけですわ!」
「思ってるんじゃない?!」
アワユキさんは売り言葉に買い言葉で、ミソラさんとは反対側の腕にしがみつく
温泉の香り漂うお嬢様町長と、えっちな格好の闇の軍師に挟まれる私
…ま、またですか?!またなんですか?!
引っ張り合いをされる私を見て、執事さんが何とも言えない表情をしている
「……」
…あ、これ、娘たちを連れてこなくて良かった、って顔だ
『あ、あの…執事くん、よかったら助けてくれないかな?』
「…娘ならば多少手荒く扱っても平気ですが、よそのお嬢様となるとわたくしには…」
『執事くーん?!』
自力で何とかしろと言われてしまった
それから三十分…
なんとか話題を『ひかやみ』の方にそらし、最後は同士として握手を交わさせることに成功
助かった…ありがとう『ひかやみ』!
………
……
…
山奥で聖女と思しき人物が見つかったのは、十日ほど過ぎてからの事
彼女は隠れながら移動していたらしく
ホシヅキさんの『クノイチマスター』のセンサーに引っかかった
『グループチャット』で場所を教えてもらい
私、ミソラさん、執事さんは、それぞれの探索していた場所から
ホシヅキさんのいる山奥に向かう
(きたわよ)
(お待たせしました)
(あそこです、あの子…!)
茂みの中から、ホシヅキさんが指さす方向を見る
…それは、十歳くらいの幼い少女だった
彼女の紫の髪の毛は、地面についてしまいそうなほど長い
白い修道服に花を飾ったような衣装をしているが
潜伏している期間が長いのか、薄汚れてしまっている
「…はぁ……
アジサイは、いつまでこんなことを…」
ため息をつきながら、木陰でうずくまっている
…希望を見いだせない、疲れ切った顔
聖女にも癒しきれない『雪』の大地
けど、彼女のおかげで助かっている人間もいる
やめるわけにはいかないのだろう
せめて誰か、彼女の傍についていてくれる人は、いなかったんだろうか…
私たちは、お互いの顔を見てこくりと頷き…そして、彼女の前に歩み出る
「…どなた、ですか?」
うずくまったまま、私たちに対して、彼女はそう言った
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