64・王子少女は引き込みたい!
温泉旅館でしっかり休んだ、その翌日
私たちは温泉街ユキミの町長に会うために、街から少し外れた古い温泉宿までやってきた
あまり大勢で押しかけるのもあれなので、今回のメンバーは私とミソラさん、執事さんの三人だけだ
何で古い宿かというと、彼女がそれを買い取って、自宅のようにしているのだという
あまり手入れがされてない感じの階段を上って二階へ
『町長執務室』と書かれた札がぶら下がっている、大きめの個室に入る
『はーっはっはっはっはっ!』
勢いよくドアを開け、まず高笑いを一声
…どう考えても失礼だと思うんだけど、これやらないと王子じゃないからなぁ…
「ひっ…!」
中にいた女の子が、びっくりして悲鳴を上げる
「も、申し訳ございませんですわ!
わたくし、中央に逆らう気など、一片たりともございませんわ!」
『……』
まさか二日連続して土下座を見ることになるとは…
深々と頭を下げる女の子は、茶髪のセミロングで
動きやすく改造されたドレスのような服を着ている
「全ては叔父上の勝手な振る舞いでして…どうか命ばかりはお助けを」
土下座のままガタガタ震える少女
この場に彼女しかいないということは…話に聞いた町長なんだろうけど
えらい若い…たぶん十七か十八だし、それにめちゃくちゃ低姿勢だ
…どうしようかと思い、部屋の中を見回してみる
この部屋は本棚に埋め尽くされており、窓際にちょこんと小さな机があった
本棚には、経済、会計、軍事、人心掌握術…様々な分野の書物が並んでいる
彼女は相当な勉強家であると思われる
(ん…?)
…その中に、ちょっと毛色の違うものが混ざっている
(これは…)
私が注意を引かれる中、ミソラさんが彼女に弁解をしてくれた
「…い、いや…ごめんね、威嚇をしに来たわけじゃないの
高笑いは王子の癖で」
「そ、そうなんですの?」
『ああ、すまないね、驚かせてしまって』
それを聞いて、ようやく頭を上げる少女
黒に近い茶色の瞳が、まだ少し怯えているように見える
「わ、わたくしはこの温泉街『ユキミ』を預かる町長、アワユキと申しますわ」
「カナタ王子と、執事のクロカゼさん、そしてあたしは王子の補佐官、ミソラよ
よろしくねアワユキさん」
両者、軽く挨拶を済ませる
「アワユキさんは『雪』の中では唯一と言っていいほど、上手く街を治めている
その手腕に感心しているのよ、あたし達」
「え、えへへ…いや~、それほどでもありますわ」
ミソラさんが褒めそやして、ようやく怯えの表情が無くなる
扱い難しそうだな…この子
「今回、ここにやってきたのはね」
「は、はいですわっ」
「あなたの叔父上様…現『雪』の領主に代わって
あなたが『雪』を治めてもらえないかと、相談に来た訳よ」
ミソラさんがいきなり本題をぶつける
「ぶふーーーっ?!」
ぶつけられた方は、受け取ることもできずに、町長らしからぬ叫びを上げる
「む、無茶言わないでくださらない?!
『雪』のはしっこで、のほほんと暮らしていたわたくしとは全然違いますのよ?!」
『…キミは、のほほんと暮らしているようには見えないけれど』
「食べるのも厳しい『雪』の中心では、厳しい統制…もしくは、よほどのカリスマが必要ですわ」
…彼女も結構な人気らしいけど、それでは足りないのか…
「旧雪王家の家系として、上に立つ条件はギリありますけれど
わたくしに厳しい統制などできませんし、『雪』の中心に通用するカリスマはありませんわ」
厳しい統制は…確かに無理そうだなぁ
「さらに、叔父上が贅沢三昧したせいで、『雪』はじり貧で、財産も残ってませんし
『花』に逃げ出す領民も現れるほど…」
近所のヨルガオ村には、『雪』から逃げてきた村人がいたっけ
逃げ出す人が増えたら、いずれ私たちの村にも…
「再開発の資金もない、人もいない、カリスマもない…
どう考えても、ここから巻き返すのは不可能ですわー?!」
頭を手で押さえ、ぶんぶんと首を振るアワユキさん
「叔父上が戦争で一発逆転したいのも、理解できてしまうんですのよ…
いや、そもそも贅沢するなって話なのですけれど」
「……」
その年で経済を理解するのは、並大抵の苦労ではなかっただろう
そして、理解した結果が、どうにもならない、というのはあまりにも悲しい…
…けど、それは『雪』だけで頑張った場合の話
『なるほど…じゃあ、それが全部解決出来るなら
ボクたちの申し出を受けてくれるって事だね』
「……へ?」
何としても彼女を引きずり出す
平和への最後の一押しには、彼女の力が必要なんだ…!
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