表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

63/108

63・王女少女はいただきたい!

必要以上に温まってしまった気がするお風呂から上がる私たち

執事さんとも合流し、次は旅館のお料理だ

『雪』の美味しい料理が出ると聞いて、非常に楽しみ

…糖分はもちろん好きだけど、それが全てでもないのだ


女将さんに案内されて、私たちは木製の柱に支えられた、広々とした空間に入る

奥の窓際に紫陽花とよくわからない絵画が飾られていて、いいお宿の雰囲気を感じた

小さなテーブルが人数分並べられており、その上に今日のお料理が置かれている

ツツジの描かれた座布団に座り、その内容を確認する


お魚をスライスし、お椀に浮かべたスープ

じゃがいもと玉ねぎと鶏肉を煮込んだ肉ジャガイモ

ひよこ豆を混ぜたサラダと、白くやわらかいパン

それらからは湯気が立ち上り、とても美味しそうな匂いが漂よってくる


…ごくり


自然と出てきたつばを飲み込む


「では、いただきましょうか」

「そうね」

「「「いただきます」」」


まず口を潤すため、スープを口にする


「?!」

その濃厚さに驚きの声を上げる

新鮮な魚と、旨味たっぷりの野菜から作られたスープ

予想以上の美味しさだった


「すごい!なんですこれ?!

 メニュー自体はよくある感じなのに…」

「美味しいお味がずががががーんってきて、どきゅーんってなって」

カグヤちゃん、あまりの美味しさに変な擬音で喋りだした


他のメニュー…肉じゃがもひよこ豆サラダも、白いパンも

どれもこれも、思わず声が出る程美味しかった


「むむむっ…やりますね……」

「う、うちらが作ったのよりいけるんちゃうかな?」

メイドさんの存在意義がゆらぎそうになる程らしい


「『風』の海岸に比較的近いとはいえ…魚の鮮度がいいわね」

感心するミソラさんに、傍で控えていた女将さんが答える


「『雪』はその名の通り、雪が沢山降りますから…冷やすものにだけは困らないんです」

獲った魚は冷やしておけば、くさりにくい

雪や氷があれば、確かに新鮮なまま運ぶこともできなくはないだろうけど…

かなり組織的に上手くやらないといけない

この宿だけではなく、きっと街全体でやっているのだろう

町長さんの手腕に関心が及ぶ


「いや、それ以外にも、秘密があるのでは?

 野菜は特に、『雪』で採れたものとは思えませんからな」

「『花』の村人として言いますけど、『花』でもそうそう作れないですよこれ」

村に一人、こういうお宿に卸すための高級食材を作ってる人がいたけど、ここまで美味しくなかった


私たちが絶賛する中、女将さんは喜ぶでもなく、真剣な表情をする


「…?」

数秒の沈黙の後、女将さんは意を決したように喋り始めた


「…みなさまは、『雪』の大地を癒す聖女、アジサイ様をご存じでしょうか?」

「アジサイ、さん…?」

聞いたこともない人の名前だった

周りに顔を向けるけれど、全員首を振った


「『雪』は、寒い時期が長く大地が弱く、『花』のようになかなか作物が育ちません

 さりとて、『風』のように古代遺産の技術もない、『星』のように希少な鉱物が取れる訳でもない」

開拓も開発も採掘も、上手くいかなかった『雪』

…食料が不足している場所も多いと聞く


「アジサイ様は、そんな『雪』に現れた希望…聖女でした」

「聖女…?」

「彼女のユニークスキルは、人だけでなく、大地も癒すことができます

 不作にあえぐ『雪』の村々を、彼女は回り、作物が育つ地に変えてくれるのです」

「?!」

ミソラさんが驚いた顔をする

そんなユニークスキルは聞いたことが無い

しかし、それができるのならば、村人たちにとって間違いなく聖女だろう


「そのスキルに癒された大地は数年に渡り、豊作が約束されます

 特に最初の一年に取れる作物は絶品です

『花』の最高級品に、勝るとも劣りません」



「その作物を使って、料理しているのね」

「…はい、できる限り高値で買い取り、生活の足しになるようにと、街の方針で」

できる人だ…

この食事一つで、町長さんの株がどんどん上がっていく


「しかしながら、彼女一人で『雪』をすべて癒すなど、できようはずもありません

 どうか、中央の方たちのお力添えを……お願いいたします」

足を折り曲げ指を着き、丁寧に頭を下げる女将さん

…さきほどの決意をしたような顔は、このお願いをするためだったんだ

いかに聖女がいようとも、町長さんが優秀だろうとも

これは『雪』だけでどうにかできる問題ではなくて…


「その話は、しなきゃいけないと思ってたのよ」

ミソラさんは、頭を下げる彼女の肩を叩く


「ユキミの町長と会って、上手くやれないか話し合ってくるわ」

「どうか、お願いします」

軽々しく『任せなさい』とは言わない

事態の重さは承知しているし、そう簡単になんとかなる話でもない

けれど、なんとかしようと努力する事を、やめてはいけない

そんな決意をミソラさんから感じる


「ミソラさん…」

「『雪』の領主が戦を仕掛けようとしたのも、自分の土地だけでは満足できないから」

「……」

「でも、もし彼が『花』の領主だったら、領民から税を吸い上げるだけで終わっていたかもしれない」

『雪』の領主は悪人ではあるけれど、問題が大きくなったのは、この領地の貧しさゆえ…


「次の町長との話し合いは、『雪』の…いや、この国の未来を決める事にもなるわ

 気合を入れていきましょう!」

「…はい!」

思わぬところから、『雪』の内情の一端を知ったけれど、身につまされる話だった

ヒルガオ村が不作だった時、みんなで助け合ってなんとか乗り越えたけれど

それが『雪』では毎年だと考えると…


「まあ、やる事はきちんとやるとして、今は美味しく頂きましょう!」

「せやせや~」

しんみりしたところに、メイドさんたちが明るい声で呼びかけてくれる

たしかに、これを残すのはもったいない


「はい、あーんして~」

「あ、あーん?」

唐突にヒルヅキさんから、スプーンに乗ったじゃがいもを食べさせられる

…おいしい


「い、いやあの、別に普通に食べられますよ?怪我とかしてないし…」

「あーんで食べさせるのは女の子のロマンでしょ?!」

「そ、そうですかね?」

「セッカちゃん、あたしのも食べて」

「いや、対抗しなくていいんですよミソラさん?!」

なんか食べさせられるのって、抱きつかれたりとか、耳に息とは違う方向で恥ずかしい


「おかわりもありますからね、自分の分が無くなったらどうぞ」

「自分の分が無くなったらって、その分私が食べさせられてるって事じゃないですか?!」

女将さんは、スプーンを四方からつきつけられる私を見て、笑いながらそんな冗談を言った

お読みいただき、ありがとうございます!

よろしければ、広告の下にある☆☆☆☆☆を★★★★★にして

評価してもらえると、たいへん嬉しいです!

さらに面白いと思ってくださった方

同じく広告の下にある『ブックマークに追加』も押して頂けると

とてもとても嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ