54・王子少女は届けたい!
縛られた手で、なんとかナイフを持つナギさん
「や、やめろ!…お前は唯一、オレの価値をわかっていた女だ!死ぬことは許さん!」
「で、でも……!」
ガクガクと震える手…本当は死にたくなどないのだろう
けれど、自分が動かなければ、コガラシが死ぬ
死の恐怖に、涙が自然と零れ落ちる
スッ……
「………え、っ…?!」
泣き始めた彼女から、ナイフを奪う誰かの手
それは…
「王子…私の命では、いけないでしょうか?」
コガラシの父親、『風』の領主だった
「…構わない、ボクはこの場にいる人間に、問うたつもりだ」
予想はしていた
息子を想う父親ならば、ここで出てくるだろう事を
それとは逆に…
「は…?お、おい…なん、で……?」
父が出てくるなどと、思いもよらなかったコガラシは、目を丸くし茫然としている
「何でも何もない」
「……」
「お前の想いとは違ったが、私は私の考え方で、お前を愛したつもりだった」
息子に向かい笑いかける父
「本来ならば救いようもない罪、減じる機会を与えて頂き、ありがとうございます」
私に向かいなおり、深々と頭を下げる
「ち…違う違う違う!そうじゃないだろう?!オヤジは俺を疎ましく思ってたんだろう?!
そうじゃなきゃ…そうじゃなきゃ……オレは……!」
うろたえ、怯え、慌てる
命を懸けて、息子を救おうという父を目の前にして、彼はようやく自分の間違いに気づいた
本当に父は、自分のためを想ってくれていたのだと
勝手に勘違いして暴走していたのは、自分だったのだと
今さら気づきたくなかった事実に、気づいてしまったのだ
「ナギさんと言ったね」
「は、はい!」
「…厚かましいお願いかもしれないが……どうか、息子の事を頼みます」
戸惑い、どう答えていいかわからないナギさん
『風』の領主は足を広げて座り、両手でナイフを持ち、頭の上まで持ち上げ…
「や、やめ…!」
「やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
その刃を、自らの腹に向け、勢いよく振り下ろした
「………………」
長い静寂
…しかし……
ナイフが突き刺さる音や、血飛沫の飛び散る音は、いつまでたっても聞こえてこない
「??!」
どういう事かと、自分の腹を確認する『風』の領主
彼を突き刺すはずだった刃は、ナイフの柄の中に押し込まれ、すっぽりと納まっていた
『気概は見せてもらった!コガラシの罪を減じ、二十年の服役に処す!』
私は全員に向け、高らかに宣言する
「王子、これは…」
実は、領主が手にしているのは、精巧にできた刃の引っ込むおもちゃである
『本当に死んでほしい訳ではなかったからね
彼のために命を懸けれる人間がいるかどうか、それだけが知りたかった』
「だから、こんなことを…?」
『支えてくれる人間がいるならば、やり直しも……不可能ではないだろう』
実際に刺さなくても、誰かがためらってくれたなら、それでも支えになる
これも賭けではあったけど…こうでもしないと、彼の性根は直らないだろう
「オヤジ…オヤジ……っ
すまない、オレは……オレはぁ……!」
父の背中にしがみつき、泣き崩れるコガラシ
もうすっかり、威張っていた頃の悪意は消え失せていた
「コガラシ様……」
そんな彼に、静かに寄り添うナギさん
「…もう二度と、親子でボタンを掛け違えることの無いようにな」
私は彼らに背を向け、その場を立ち去る
「…オレの完敗だ……本当に、すまなかった」
「…お慈悲を、ありがとうございます、王子」
「王子…なんと心の広いお方だ……」
「やはり中央の…『空』の王子は、我らが仕えるべきお方……!」
王子…仇をとれなくてすみません
けど、皆の平和を、幸せを望んだあなたなら…きっとこうしたと思います
『はーっはっはっはっはっはっはっ!』
大空に向け、高らかに笑う
天国の王子に、届くように
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