50・王子少女を守りたい!
「は!クロカゼ本人じゃないのか、なら楽勝だな!」
シャッ!
コガラシはナイフを取り出し、ホシヅキの足元に投げつける
相手が右か左に避けたら、次のナイフを取り出し、また投げる
敵の行動を制限しつつ自分の攻撃ターンを増やす
コガラシのよくやる戦闘の初手パターンだった
…だが
「はっ!」
ホシヅキは、飛んできたナイフを足で踏みつけ
それとほぼ同時に、黒ハーケンを一本、コガラシに投げ返した
「ぬわっ?!」
驚きつつも、すんでのところで、ハーケンを躱す
まさかの最小動作で返されるとは思っていなかった
「い、意外とやるじゃ…」
しかし、避けたところに、次々とホシヅキのハーケンが飛んでくる
カカカカカッ!!
「うおおおおお?!」
全力で体を動かし、なんとか避けきる
狙いとは完全に逆となるコガラシ
初手から回避に体力を大きく消費してしまう
「ば、馬鹿な…?!オレは『一石二鴉』(エクセレントシーフ)持ちだぞ?!+2レベルの…!」
彼女の手に持ったハーケンが尽きたところで、コガラシはようやく体勢を立て直した
「……ユニークスキルを自慢しとるんか…アホやなぁ……」
「なんだと?!優秀なスキルだろが!!」
呆れる…というよりは悲しげな瞳で、ホシヅキは見つめる
「このスキルがある俺こそ、団の長にふさわしい!
クロカゼは馬鹿だ!お前たちのような、端役のスキル持ちに団長なぞ務まるものか!」
…確かに、自分の目指す職とピッタリ合ったユニークスキルで、それが+2レベルスキル
かなり優秀なのは違いないが……
「うちのユニークスキルは『九花繚乱』(クノイチマスター)…盗賊系能力が+5レベルされるで」
あまりにもあんまりな事実を、ホシヅキが告げる
「……は?」
まるで子供が言い返したような『うちの方が強い』な発言に、クロカゼは目を丸くする
「ば、ばかばかばか!ありえんだろうそんなの!
+5レベルなんぞ、百万人に一人のスキルだ!おまえのような小娘が持ってる筈が…!」
「あるんやなぁ、これが」
ホシヅキは指で挟んだハーケン二本を、同時に投げる
一本は足元、もう一本はクロカゼの手元に
足元のハーケンは避けたが、もう一方の手元に飛んできたハーケンは、ナイフで受けざるを得なかった
ナイフは落ち、また懐から出すか、拾うかしないといけない
「ぐっ…」
一動作でできる幅が、明らかに違う
彼女の方が上手なのは、認めざるを得ないようだった
「ならなぜ、クロカゼはお前を後釜に据えなかったんだ!」
そんな奴がいたなら、流石にオレだって諦める…と彼は思う
才能主義に傾倒したコガラシは、才能を持つ者がトップにつかないのを認められない
それが自分であれ、他人であれ
「だってなぁ…諜報員って、悪い仕事やろ?」
「…ああ?!」
ものすごくガラの悪い声が出た
いきなり諜報員の否定から入られるとは、思わなかったからだ
「他人の話を盗み聞きしたり、書類を盗んだり、嘘を流したり…ずるいやっちゃなぁ、と」
「……」
「気ぃ悪したらごめんな…昔のウチはそう思っててん、いわゆる潔癖症や」
…クロカゼの娘が、そんなお堅い騎士のような考え方をするとは
母親の影響か、それとも…と、コガラシは考えを巡らせる
「自分のユニークスキルも大嫌いやった…だって『盗賊系』スキルやで?!」
「…才能があるものが上に立つ、そのスキルが善か悪かなど、些細な問題だ!」
「うん、だからそれが些細だと思える人が、やった方がええやん」
この娘は、才能があろうとも積極性に欠けている
…ああ、そういう事か
コガラシは、クロカゼと父に「団長になるには繊細さに欠ける」と
判断された事を思い出していた
性格が、才能を殺すこともあるのだ
「パパの後釜になる気もなかったし、全部封印して生きるつもりやった」
レベルに+をするユニークスキルは
対象のスキルを1レベルも習得していない場合、効果を発揮できない
「パパも同意してくれてな、うちはメイドとして静かに生きるつもりやった」
クロカゼはなぜ、団に残って後進の育成をしなかったのか…
王子に惚れ込んだのもあるが、娘との摩擦を解消したかったのだろう
「けど…あんとき、トラップでピンチになったうちを、王子様が身を挺して助けてくれた」
ホシヅキは、シャンデリアが落ちてきた、あの時のことを思い出す
何のスキルもなしに、ただ助けたいというだけで動けた少女の事を
「めちゃめちゃ後悔したわ…できる事をやってなかった自分を…!」
そのスキルが善か悪かなど、些細な問題…奇しくもそこは、コガラシの言った通り
「パパは、自分の大切な人を守るために、できる事を頑張ってた
そうしたら、いつの間にか団長になってた…それだけやったんや」
父のやってきたことを、ようやく気付き、飲み込むことができた
それは、少女が精神的に大人になった瞬間であった
「何が言いたい?!」
イライラするコガラシ
自分より強力なスキルを持った人間の身の上話など、腹の立つことこの上ない
「やりたい事とできる事と向いてる事は、全部別、ってだけや」
ホシヅキが話している間、とっくにコガラシはナイフを構えなおしている
「あんたはスキルに振り回されて、自分のやりたい事が曲がってへんか?」
「……そんな、事は……」
才能を持つ者が上に、そう信じて進んできたが
それは、振り回されているのだろうか
コガラシにはその区別がつかない
「うちはスキルに振り回されず、うちの守りたい人のために、スキルを使いこなしてみせる…!」
決意を表明するホシヅキ
…これは、誰に言っているのか…コガラシか、それとも…
「うるさい!説教など聞き飽きたわ!」
我慢ならなくなったコガラシは、ホシヅキの顔に向けてナイフを投げる
「せやろなぁ!」
ホシヅキは、右手の指に挟んだ三本のハーケンでそれをはじき
同時に左手のハーケンを投げる
「すまんな!こんなん話せる人おらへんかってん!
半分はうちの愚痴や!付き合ってもろてありがとな!」
「勝手にオレで人生相談をするな!」
ハーケンを避けながら、新しいナイフを取り出すコガラシ
会話の挑発は終わり、いよいよ実力によって雌雄が決せられる…!
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