49・王子少女と星月夜
「コガラシ様…ど、どうするのです?」
「出かけてくる、こいつらが暴走しないように任せたぞ、ナギ」
「え、えっ?!」
コガラシ含む王子殺害犯の五人が、発電所から外に出る
流石に実行犯たちは騙されてはいなかった
舗装された道を歩きながら、彼らは会議を始める
「しかし…証拠なんて言ってたが、どうするつもりだ?」
諜報団の中でも一二を争う、体格のいい男が、コガラシに聞く
「よほどの物が無いと、もはや納得などしないぞ、あいつら」
「そりゃあ簡単だ」
コガラシはにやりと笑う
「もう一度王子を殺して、首を持っていけばいい」
「…!」
息を飲むコガラシ以外の四人
あの時は上手くいったが、再び同じ事ができるのだろうか…?
「…一度殺されてるんだ、偽物だとしても流石に警戒してるだろう?」
「俺のユニークスキルは、『一石二鴉』(エクセレントシーフ)、盗賊系能力が+2レベルされる
現在の俺は5レベル相当だ、不意打ちで負けることは無い」
「ああ、確かにお前は強い、それは認める…」
ユニークスキルの内容で一番多いものは、『特定の行動が上手になる』である
『鍛冶が上手くなる』『医療行為が得意になる』などなど…
そして、『どれくらい上手か』『上手くなるか』を図るのに、この世界ではレベルが用いられている
レベルは10段階評価で、最高は10
どんな技術でも、4レベルあれば一流と言われる世界
ユニークスキルでの上達は、大体+1レベルであり、+2レベルはなかなか無い才能だ
「王子は寝込みを襲えばいい…
警戒すべきなのは、同じ諜報団だったクソロートル…クロカゼだけだ」
現にあの手紙はマズかった…実にいやらしい一手だ
「だが!奴は腰を痛めていて、まともに活動などできない」
宿屋での一件、腰を痛めていたクロカゼを軽くひねってやった事を思い出す
あのていたらく、王子を守るために動くなど、できようはずもない
「ついでに奴の首も持ってけば、団の皆の目も覚めるだろうさ!」
後悔にのたうち回らせるつもりだったが、逆らうならば生かしておく意味もない
「くくくく、はあっはっはっはっ!!」
眼鏡をくい、と持ち上げ、不気味に、高らかに笑う
この妙な自信に四人は騙され、再びコガラシについていく事を、決意するのだった
………
……
…
場面は一気に飛んで、夜のカミギワ山
中央からの兵士とおぼしき男たちが、あたりを巡回している
…ナギ一人に発電所を任せる訳にはいかないと気づき、二人が戻っていき
コガラシについてきたのは、結局二人だった
今、コガラシ他二人は茂みに隠れ、兵士たちの巡回を見つめている
「……」
体格のいい男の方が、コガラシに話しかける
「…警備がゆるゆるだな
やつら急に呼び寄せられたのか、欠伸までしてるぞ」
「だろう?オレたちのような専門職でなければ、オレたちは防げない
急ごしらえの陣なぞ、オレたちの手にかかれば楽勝だぜ」
自信たっぷりに話すコガラシに、興奮する二人
隠密行動に勇気が与えられるのは、いいことなのか悪いことなのか
「中央の城にこもられてたら、流石に無理だったがな…馬鹿な奴だ」
自然の中に、隙の無い警備態勢を敷くのは至難の業だ
加えてこんなガバガバに穴の開いた警備、すり抜けるのは訳も無い
「あいつが向こうに行ったら、移動するぞ
獣道から少しづつ登っていく」
「わかりました」
巡回の兵を避け、自分たちしか知らない道を進み、上へ、上へと
この山は頂上が少し平たくなっており、王子が休んでいるのはそこだろう
薄暗い林の中、ただ上だけを見つめて進む三人
…だが、そこに落とし穴があった
「……?!」
「???!!!」
音も無く、コガラシ以外の二人が消えた
「お、おい?!どこ行った?!」
コガラシはあたりを見渡す
…そこで初めて、周りに多くのトラップが仕掛けられていることに気づく
後ろを振り返ると、穴がいくつか空いている
どうやらそこに落ちたようだ
「クソロートルめ…!一点集中で罠を仕掛けていたか……」
山全体にトラップを置くのは無理だとしても
登ってくる場所を予測して仕掛けることはできる
「ちっ…まあ、オレしか残らないのは仕方ないか、オレが一番レベルが高いからな」
意識したら、楽に避けれる程度の罠
丁寧に避けながら上へ登っていく
……
…
…そして、頂上に到達する
空気は薄く、少し肌寒い
空に輝く星は綺麗だが、今はそんな事を考える余裕はない
頂上の地面には、大規模な魔法陣が描かれている
コガラシは隕石魔法に詳しくないが、空に近い場所、魔法陣
隕石魔法を扱うのに必要な何かなのだろう…と想像はできる
そんな魔法陣のすぐ横に豪華なテントがある
あれが目的の、王子が眠っている場所だろうか
他に誰かがいそうな所は無い
慎重にゆっくりと、近づいていく
「……」
テントに最接近し、テントの隙間から、中を覗く
中央に大きなベッドがあり、そこに銀髪の人物が眠っているのが見て取れた
…他に人影はいない
起こさないように、足音を立てずに移動し、ベッドに近づき……
(…なっ?!)
その顔が見える位置まで進んだ時、コガラシは驚愕する
(お、王子…?!本当に、生きていたのか……?!)
偽物とは思えない、あの時の王子そのままの顔
隕石魔法、そしてこの顔……もはや信じざるを得ない…
(まあいい…どのみち、ここでまた殺せば一緒……!)
ナイフを構え、再び彼を地獄へと送るために、一撃で仕留められる位置へ
ヒュンッ!!
「…!」
唐突に、死角から何かが飛んでくる音がした
コガラシはとっさに身をひねり、それを回避する
登山の時足場にする、黒いハーケンのような物体が、目の前を通過
慌ててテントから抜け出し、魔法陣の書かれた広い空間に出る
「…何者だ?!」
テントの中にいる、ハーケンを飛ばしてきた何者かに向かって叫ぶ
その何者かは声に応え、正面から出てくる
「うちの名はホシヅキ」
ホシヅキ…そう名乗ったのは少女であった
ライトブルーの髪と瞳、幼い顔立ちながら胸は大きく
胸元の開いた、丈の短い紫の服を着ている
彼女は、先の尖った黒いハーケンを大量に指に挟み、投げつける構えをとる
「クロカゼじゃ、ないのか…?!」
何者だと言いつつ、コガラシは、自分に不意打ちできるとしたら、クロカゼしかいないと思っていた
自分やクロカゼレベルで、隠密が得意な人間が、在野にほいほいいるはずがない
…しかし、現実は違ったようだ
「…あんたにわかりやすく言うなら、クロカゼの娘で…」
月光をバックに立つ彼女は、妖しく輝きながら、コガラシに向かいこう宣言する
「あんたを倒す者や」
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