43・王子少女と魔女の一撃
その頃執事たちは、『風』の息子が立てこもる発電所の調査を終え、『風』の街へ帰るところだった
日も暮れて遅くなったので、道中の宿に泊まり、明日街へ戻る予定
夕飯を受け取るため、泊っている二階から一階に降りてきた、ヒルヅキとアカツキ
二人は宿に備え付けてある、奇妙なものを発見する
「これは…」
「もしや、古代マジックアイテム史上、最も便利と言われる『せんたくき』では?!」
白く四角い箱のような物体を、熱く見つめる二人のメイド
「便利よね…古代のマジックアイテム」
「洗濯を自分でやらなくていい!素晴らしい!」
自動で洗濯をやってくれるという、洗濯物の多いメイド垂涎の品!
電力施設が『風』にしか無いので、中央の城にも置いて無い一品
施設がなくとも、雷の魔力持ちが使えば動きはするのだが
魔力を使うと疲れるので、普通に洗えばいいんじゃないかな?になってしまうという
「珍しいか?」
宿の主人が、興味深々な二人に話しかける
「あ、いえ、元々は『風』に住んでたんで、知ってはいたんですけど」
『風』の領主の館にはあった…が、触らせてもらえなかったし
こんな小さな宿には置いてなかった
「ここ数年で、修理技術が発達したんだ
今まで、発掘したけど壊れて使えなかった『せんたくき』を活用できるようになった」
「ほほぅ…」
「今じゃ一家に一台のレベルになってるぞ」
「そんなに…」
彼女たちが昔、住んでた家の近所には、『せんたくき』を使った洗濯屋があったけれど
この分だと廃業してそうだ
「あ、それで、夕飯を三人前お願いできますか
二階で食べるので」
「ああ、了解だ」
「もしや、究極の便利マジックアイテム『でんしれんじ』もありますか?!」
「そっちは流石に無いなぁ…値段が高すぎる」
「残念」
そんな、どこにでもあるような会話をして十数分
簡単なスープとパンの料理ができあがる
「ありがとうございます」
それらをお盆にのせて、二階に上がる
「発電所の周りって、何にもなかったね」
「あれじゃない?施設の中にお店とか入ってるの」
「古代のマジックアイテムを使えば、わずかなスペースでも生活できる…ってことかな?」
「そうそう」
「万一壊したら、すっごい怒られそうだよね…」
「そうよねぇ……」
未来を想像して、ちょっと身震いをする
最悪の場合、そういう覚悟をしなければならないのだ
話しながら歩き、一番奥の部屋へ
そこには、父親の執事が泊まっている
「パパー、ご飯持ってきたよ」
「……」
返事が無いので、そのまま中に入る
すると、彼女たちの父親が、ベッドの上で腰を押さえてもだえていた
「ぐっ…こ、腰が……っ」
「パ…パパ大丈夫なの?!」
扉を開けたまま、二人はベッドの上の父親に駆け寄る
「無理するから…」
父親の腰をさするアカツキ
ここのところ、無理をしっぱなしだったのだ
痛みが再発するのも当然と言えた
「ふん…珍しい奴がいるものだな」
開けっぱなしの扉の方から声がする
それは執事にとって聞き覚えのある声で…
「お、お前は……!」
そう、そこに立っていたのは『風』の領主の息子にして、今回の元凶のコガラシ
彼は、青黒の髪、青の瞳、銀縁の眼鏡をしており
袖の無い黒い服を着た、軽装の背の高い男性だった
「話は領主様から聞いたぞ…なんと愚かな事を…!」
「愚か…?オレを認めなかったお前たちに、そのまま返すぞ」
こんな暴挙に出るとは思わなかった
…そういう意味では、領主も執事も愚かなのかもしれない
「左様です!コガラシ殿はすごいのに!」
「…?そっちは誰だ?」
執事クロカゼがいた諜報団の時代にはいなかった、一人の女性
歳は二十代前半だろうか…
緑の短い髪、赤い瞳、身体にフィットした、動きを阻害しない服装の彼女
女性はコガラシにぴったりと付き添っていた
「ナギ、です!諜報団の新人で、コガラシ殿のお付きをしております!」
大体の事情はコガラシから聞いているのだろう
その上で、コガラシを持ち上げている
執事は冷や汗を垂らしながら、突然の来訪者を睨みつける
腰の痛みを我慢しつつ、目の前の人物にも気が抜けない
辛い戦いになりそうだった
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