41・王子少女は捏造したい!
一旦、風の街を離れて半日ぐらいの草原に、馬車を止める
諜報団のいる街中で相談する事は、はばかられた
万が一にも聞かれる訳にはいかない
夕暮れ時の草原、馬車の中は、重い雰囲気に沈んでいた
「ぐっ…王子……」
「わたくしが目を離さなければ…」
「な、なあ、嘘やろ?そんなん都合のいい嘘ついとるだけちゃうん?」
「…ごめんなさい、王子」
「どうすれば、よかったのかしら……」
馬車にいる私以外の五人が皆、王子を悔やんでいる
挨拶は変人だけど、実際はかなりの人徳者だった事がわかる
「……」
慰める言葉は出ない…私に言える資格は無い
ただ、私は皆が落ち着くまで、静かにミソラさんの手を握っていた
「…落ち着きましょう」
一時間ほど経った頃、ミソラさんが馬車の席から立ち上がる
「まず、どういう状況なのか、整理するわよ」
私の手は握ったまま、もう片方の手で、自分の頭を叩くジェスチャーをする
皆は黙って、彼女の言う事を聞いている
「パターンその1、王子が留守の間を狙った詐欺行為で、『風』の領主は騙されている
領主に見せた、王子の首は偽物
王子が行方不明になるのを知っていて
その間に『風』の領主を、引き返せないところにまで連れて行こうという策略
疑問点は…なぜ王子がいなくなるのを知っていたのか
王子が戻ってきたら計画は破綻するはず
パターンその2、『風』の領主が言ってる事に一部嘘、もしくは勘違いが含まれる
パターンその3、全部本当、王子はすでに亡き者にされている」
ミソラさんは可能性を列挙していく
頭を冷やし、冷静に対処できるように…
「王子が生きている事に可能性を見出したい…と思うけれど
パターンその3…王子はすでに亡くなっていることを前提にして、話を進めるしかないわ」
「……」
「もし王子がひょっこり帰って来れたら、作戦を考え直せばいいだけだし、ね」
「そう、ですな……」
可能性は限りなくゼロに近づいた
信じていたい…けど、待っている時間が無いのだ
「『風』の領主には、正体を明かすことはできないわね…
冗談抜きで、ショックで死んでしまうかもしれないわ」
あの…私を見た時の、救われたような顔
確かに、正体をばらして、これ以上彼を責めるのは酷に思えるし
絶望をして息子と共に『雪』の側についてしまうかもしれない
「偽王子作戦は、領主には効いたけど、『風』の息子には無理ね…」
「無理…ですかね?こんなにそっくりなのに」
アカツキさんが私の顔をなでながら、ミソラさんに聞く
…ちょっとくすぐったい
「王子を殺した『風』の息子は、当たり前だけど、こっちが偽物だと強く疑うわよね
流石にそんな相手を騙しとおせる訳がないわ…」
「生きていてほしい、と願っている『風』の領主は信じやすいけれど
死んでいるはずだ、と思っている『風』の息子は疑いやすい…ってことやな」
「そういう事ね」
「そっかぁ……」
アカツキさんが名残惜しそうに、私の顔を撫でるのをやめる
「何か違う作戦でもって、施設に引きこもる風の息子を捕まえなければ」
「せやな」
「話が本当なら、風の息子を捕まえれば、手掛かりが掴めるはずよ
低い可能性だけれど、生きている可能性だって…」
ミソラさんは、だんだんと喋るのに熱がこもってきて、握りこぶしを作り…
「…いや、やめておきましょう」
盛り上がりそうになった自分を抑えた
生きている保証は殆どないのだ、焦らずじっくり事を進めなければ…
そんな気持ちが見て取れる
「やつら引きこもるのが好きですな…見張り塔といい電力施設といい」
「問題なのは、今回の保護対象は盗み出せないくらい大きいって事ね」
誰か一人が火薬の一つでも爆発させれば、それで御終いになってしまう
逆に人命と違い、最悪の場合は、施設を犠牲にすることも考えられるだろう
ただそうした場合、百年単位で損失を取り返せるかどうかという話になる
「あの…王子が生きてるってことがわかれば
諜報団の中にも味方になってくれる方、いるんじゃないですか?」
私は、自分の考えを話してみる
『風』の領主さんも嫌々という感じだったし…
「内部分裂を誘うって事?」
ミソラさんは、内情に詳しいであろう執事さんに「どう?」という感じで顔を向ける
「本当に王子が生きてると思わせれれば…
実行犯の数名以外は、味方になってくれるでしょうな」
元団長の、頼りがいのあるお言葉
「ただ、こちらが本物の王子であると示すことが、難しいですな…
『風』の息子は当然、今の王子は偽物だと言っているでしょうし
じっくり調べさせる訳にも参りませぬ」
うーむ、と首をひねる執事さん
「王家の証も、この状況では意味がありますまい
王子であるという確実な証拠でもなければ……」
「証拠を、『捏造』しましょう」
私は低く、静かにそう述べた
「彼女にお願いして、協力してもらえれば…
できるかもしれません、圧倒的な捏造が」
「彼女…?」
ミソラさんは、すぐに私が言っている『彼女』を想像し、そして…
「……あ、まさか……そういうこと……?!」
「…?」
答えを出した
「でも…いや、そうね……セッカちゃんにここまで頼っているんだもの……」
私も、できうるなら巻き込まない方がいい、と思っているけれど
こっそりとなら…
「わかった!二人でお願いしに行きましょう!
許可が得られたら、作戦を開始するわ!」
「はいっ」
「執事さんは『風』の領主さんが言ってることが本当か、裏どりをお願いするわ!」
「何か妙案があるのですな…了解しました」
そうして、私たちは二手に分かれることに
お願いをしに行くのは、私、ミソラさん、つきそいにホシヅキさん
裏どりをするのは、執事さん、ヒルヅキさん、アカツキさん
…上手くいけば、ほとんど戦わずに済むかもしれない…
彼女の協力と『捏造』が上手くいけば……!
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