39・王子少女と王子の行方
はちゃめちゃに遊んで英気を養った私たち
執事さんの操る馬車に揺られながら、一路『風』の領主様の元へ
すー…すー……
夕暮れの馬車の中…みんな疲れたのだろう、ぐっすりと寝ている
ミソラさんも、ヒルヅキさんもアカツキさんも、ホシヅキさんも…
「あ、セッカさん…起きとる?」
「…あ、はい」
ホシヅキさんは起きていたようだ
彼女は、周りが寝ている事を確認すると、こう質問してきた
「どうして、ずっと王子様のフリを続けてくれてるん?」
危険なこともあるだろうに、どうして…という純粋な疑問なのだろう
確かに、私でも彼女の立場なら不思議に思う
「…自分でも、正直わからないです」
心の内を、思った通りに話す
「ユニークスキル……才能を持たずに生まれた自分にとって
才能を持ってる人たちは憧れで…
その人たちに近づきたいって、思ってるのかもしれません」
持たない私の、持ってる人への憧れ
「でも…欲しくない才能を持っちゃった人も、いるんやない?
必ずしも、才能を持って生まれることが幸せやなくて
その才能に、振り回されてしまう事も、あるんやないかな?」
「…才能が幸せを生むとは限らない…それは、その通りですね」
そうやって、持たない自分を慰めていた時もあった
才能と幸せは別物だって
けど、そういう事ではなくて…
「それでも、やっぱり…才能を持って、みんなのために頑張ってくれている
私は、そういう人に憧れるし
その人が困ってたら、放っておけないかなぁ…って」
自分が幸せかどうかとか、考えてなかった
ミソラさんは、危なっかしくて、でも放っておけなくて…
…私って、かなりのお節介なのかもしれない
「ふふ…ミソラさんのこと、大好きなんやね」
「あ…え?あ、いや…そ、そういうことに…なるのかな?」
指摘されて、顔が熱くなっていく
そう言われると、彼女の事が好き…なのかもしれない
「安心しい、うちとセッカさんだけの秘密にしとくから」
「あ、ありがとう…ございます?」
「……」
「………」
自分でもよくわかってないので、秘密にされても…と思う
…変な空気のまま、しばらく過ごしていたが、そのうち眠くなり、二人とも眠ってしまう
馬車は砂浜を抜け丘を越え、風の吹く街へ進んでいく
「へぇ-…これが『風』の街…」
『風』は、街がかなり整理されていた
人々が住む、住民の区域
学問を学び、古代遺産の研究を行う、学業の区域
便利な製品を生み出す、工業の区域
生活に必要なものや、嗜好品などを売り買いする商売の区域
区域ごとに、中央に大きな風車が一つあって
その場所の象徴のようになっている
お買い物できる場所と、住む場所がきっちり分かれてるのは
逆に不便じゃないかな…?という気がしなくもない
馬車に揺られて『風』の領主の館へ
領主の館も『風』らしく、赤い屋根のてっぺんに大きめの風車がついていた
「あらかじめ、風の領主殿にお話を聞いておきかったのですが
『王子と会えたなら話をする』と一点張りでして…」
執事さんは、少し心配そうにそう話す
今回、馬車に乗っているのは
私、ミソラさん、執事さん、メイドさん三人のお城メンバー
事情を知ってる人間が多めに来てくれているので、ちょっと気が楽だ
「王子様だけに話したいってことなんかな?」
「いや、王子さえ来ていれば、同席はOKらしい」
「よくわからない話ね」
「ですねー…」
馬車を降り、館の中を進む私たち
途中で案内をしようかと、館の使用人さんに聞かれたが、勝手知ったる領主の家
うちの執事さんが案内をしてくれる
廊下には、何かの設計図が収められた額縁が並んでいる
工業都市らしいと言えばらしいのかも
そんな廊下を抜け、応接室に向かう
「こちらです」
領主の待つ部屋の前までたどり着いた一行
私は扉の前に立ち…
『はーっはっはっは!ボク参上だよ!』
王子の流儀を真似して私は、ばーん!と応接室のドアを開ける
ちょっと失礼な気もするけど…
ま、まあ、元がそうなんだからしょうがないよね?!
少し薄暗い部屋の中では、一人の男が待っていた
高価な眼鏡をかけ、背は高いのだが筋肉は無い、中年の男
身なりからして、彼がこの『風』の領主なのだろう
『花』と同じ、疲れた感じの男だったが
私を見るやいなや、急に目の輝きを取り戻す
「お、おお…王子……」
彼は震える声、震える手で私の肩を掴む
「生きて……生きて、おいででしたか……」
涙を流し、心底よかったといった感じで、私に語りかける
私はあまりの感情の吐露っぷりに、ちょっと引いてしまった
「やはり息子の言っていることは嘘だったのですね」
「な、何をおっしゃっているの?」
ミソラさんが、当然の疑問を口にする
…領主さんの行動が、あきらかにおかしい
「息子が、王子を殺したと言っているのです」
「?!」
あまりの急な暴露に、私たちは面を食らってしまう
…いや、薄々感じてはいたこと
だけれど…王子がすでにいないだろう事を、誰も認めたくなかった
この中では、私が一番ショックが少ないはず
私が、しっかりしなければ
『……くわしく、お話願えますか?』
私たちと『風』の領主は、ソファに座り、じっくり話を聞く体勢になった
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