表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

32/108

32:王子少女は励ましたい!

そんなこんなで、私たちは倉庫の中から、サイン会の様子を見守っている


「はい、どうぞ」

「ありがとうございます!」

貴族の少年が、サイン本を手渡されて、キラキラした目でお礼を言っている

次に並ぶ貴族の少女は、顔を赤くして本を持ったまま俯いている

先生に呼びかけられて、慌てて返事をする姿が、とてもかわいい


本はまともに買うと、そこそこ高い

店長さんは、みんなに本を読んでもらいたいという理由で、貸本屋を始めたらしい

ただまあ、貸本屋の利益率は高くないので、たまにこうしてイベントを開催して

伝手を使っていっぱい仕入れた本を売って、儲けを出しているそうだ


そういう訳で、列に並んでいるお客さんも、それなりに身なりのいいお子様が多い

貴族の内気な少女は、サインを描いてもらう間、こんな質問をした


「そう言えば、『みーさん』ってどうしてあんな格好なんですか?

 それまでの先生の作品では、いなかったタイプのキャラですよね?」

かなり前からのファンのようだった

先生の出世作『ひかやみ』以前から読んでるとは、その見た目から考えられないかなりの古参

対して、先生の答えはと言うと…


「編集の人にどうしてもと頼まれてね」

…火の玉ストレートだった


「本当はもっと地味で暗めの人物だったんだけど

 露出度を限界まで高めた、表紙が映えるキャラにしてくれー!って」

身もふたもないです先生?!

いたいけな子供に話していいのそれ?!


「挿絵の人にも頼まれちゃったし…それで仕方なくね」

本は共同作業であり、一人で作ってるわけではない

出版のためには妥協も必要だ、という現実

子供たちよ、かように現実は厳しいけど、強く生きておくれ

…という、先生のメッセージ的なものと思っておこう…


「………………………………」

し、しまった!

ここに子供の数十倍ショックを受けてる『みーさん』ファンが!


「あ、ああああああああああああああああっ…」

がっくりと膝をつき、土下座のような体勢で、うめき声をあげる


「あ、あたし…あたしは…っ」

『え、えとその…』

なんて言っていいかわからない

ミソラさんの憧れの人が、まさか妥協の産物だっただなんて…


彼女の頭を両手で抱え、よしよしと頭を撫でる


「うう…ぐすっ……」

「おねえちゃん、しっかり」

カグヤちゃんも姉の頭を撫でてなぐさめる


「つらいときはね、筋トレをするとなにもかも忘れられるよ」

「いや、それは遠慮しとくわ…」

急に筋トレ道に引きずり込もうとするのは、いけない子だと思います


先生の横にいる店長さんも、めちゃくちゃ気まずそうな顔をしている

その客寄せファッションに憧れた変態さんがいるんですよ!

もうちょっとファンの事を考えてください!

…いや、まさか憧れる人間が現れるとは、思ってなかったでしょうけども…!


『大丈夫かい…?着替えてくる?』

今の話を聞いてしまうと、『みーさん』の格好で会うのは辛いだろう


「いや、大丈夫よ」

心配する私に、静かに首を振る


「今さら後には引けないわ…!

 例え何がどうだろうと、あたしが憧れたのはあの『みーさん』なんだから…!」

「おお…!」

くじけずに何度でも立ち上がる主人公マインド…!


「あ、でも…あんまり見ないでね…」

恥ずかしそうに、露出多めの胸元を手で隠す

ショックのあまり、恥の概念が復活してる…?!


………

……


好評のうちにサイン会は無事終了

お客さんも無事帰宅し、先生と私たちとの、顔合わせの時間になる


「……あ、あの………」

先生に向かって、恥ずかしそうにもじもじしているミソラさん

あの、いつでも黒水着のミソラさんが…!

恥ずかし!がってる!

…私は、すごく貴重な光景を目にしているのではないだろうか


「えと、この人『花』の領主の長女、ミソラさん

 『みーさん』の大ファンで…その……」

言いにくそうにしている店長さん

そりゃあそうですよね…


「はは、さてはさっき話してたの聞いちゃってたか」

「す、すみません…」

もじもじしてるミソラさんを見てると、なんだかムラムラしてくる

…ちょっとあのメイドさんたちが、うつっちゃったかな…


「そうだね…言い訳…って訳でもないけど

 ちょっと、その後の話もさせてもらえるかな?」

「い、いやその…先生が言い訳なんてする必要は…」

先生は優しい顔で微笑み、昔語りを始める


「あの時は正直、憤りもあったんだ

 編集の人は、どうして僕の思い通りにさせてくれないのか

 このデザインの方が面白いシナリオになるのに…!ってね」

「…」


「だけれど、彼女が表紙の二巻は爆発的に売れた

 そこから『ひかやみ』は長期シリーズになり

 逆に彼女が表紙でなくても売れるようになった

 中身を読んでもらえるようになった」

「……」


「内側を大事にするあまり、外側を疎かにしていた僕にとって、それは大事な気づきだった

 彼女のこの姿が、僕を気づかせ、僕を救ったんだ」

「………」


「だから、今はこう言える」

「…………」


「僕の女神さまを、好きになってくれて、ありがとう」

「……………!」

流石、作家さん

おどろくほど口がうまい…

そこまで評価逆転させられないよ普通!


ミソラさんは彼の語る言葉に瞳を輝かせ、涙を流し始めた


「せ…王子ぃ……あたしっ…よかった……よかったよぉ……」

『よしよし』

抱きしめて背中をさすってあげる

…純粋すぎる……

この子将来、詐欺にあうんじゃなかろうか…心配になる

いや、それだけ好きって事なんだろう


「カナタ王子様」

『な、なんだい?』

「彼女を任せられるのは、あなたしかいません…

 どうか今後とも、僕のファンを…彼女をよろしくお願いします」

投げられたー?!

先生もチョロすぎて心配になってるー?!


「は、はいっ…あたし、王子と幸せになりますっ」

み、ミソラさんー?!

正気に戻って!私は王子様じゃなくて、そっくりさんですよ?!

ミソラさんは、私をぎゅーと掴んで離さない

だ、だから…その水着でひっつかれると、肌が直接当たって…ドキドキするんですって!


「おうじさま…わたしはおめかけさんでいいからね!」

カグヤちゃんもまた、べたーっとひっついてくる


「……」

あ、ちょっと店長さん!苦笑いしてないで助けてくださいよ?!



…結局、それから一時間の間、ミソラさんは私から離れることは無く

またしても、姉妹サンドイッチにドギマギさせられたのだった

お読みいただき、ありがとうございます!

よろしければ、広告の下にある☆☆☆☆☆を★★★★★にして

評価してもらえると、たいへん嬉しいです!

さらに面白いと思ってくださった方

同じく広告の下にある『ブックマークに追加』も押して頂けると

とてもとても嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ