31:王子少女はお迎えしたい!
一週間はあっという間に過ぎ、なんとか人を呼べるくらいにはお店を復旧できた
数か所はまだ入れない所はあるけど、それはもうしょうがないということで
良く晴れた休日の午前中、いよいよ作者さんがやってくる
とりあえず一人で出迎えるという事で、店長さんだけお店の外に
私とミソラさん、カグヤちゃんはその様子を、入口の陰から見守っていた
「やあ、久しぶりだね」
太陽を背に、店長さんに話しかける男の人
黒髪赤眼、鋭い目つき、白いよれたシャツ
彼が『ひかやみ』の作者さんのようだ
物書きでありながら、かなりの美形で驚いている
「相変わらず、本の山に埋もれてるんだね、キミは」
「この前は危うく、埋もれたまま永眠しかけたよ」
「ふうん…大変だったみたいだね」
目を細めて笑い、店長さんと肩を組む
なんかやけに距離感の近い人だ
「まあ、僕は呼ばれた分の仕事をするだけだよ」
「ああ、よろしく頼むよ」
「今日だけキミの店を、いっぱいの人で埋めてあげよう!」
喋るたびに、いちいち店長さんに顔を近づける作者さん
…なんか怪しいなー……
「ほ、ほ…ほおおおお……あれが『カチョウフウゲツ』先生…!」
「めちゃめちゃ興奮してる?!」
ミソラさんがプルプル震えて、謎の奇声を上げている
ただでさえ変な格好してるのに、このまま彼女を先生の前にお出しして大丈夫かな…?
ちなみに、『カチョウフウゲツ』は彼のペンネームで、本名はわかっていない
「サイン会はいつから?」
「十時からだね」
「じゃあ、それまで露店行ってていいかい?あそこの干し肉、買いだめしときたい」
「うん、いいけど…自分が言うのもなんだけど、あんまり部屋にこもりすぎるなよ」
「忠告はありがたく受け取っておくよ、締め切りさえなければ」
苦笑する店長さん
二人は一旦分かれて、店長さんは店の中に戻ってくる
「見てたのかい?」
「うん!」
「見ちゃいました」
『はは…まあ、ちょっと』
この日のためにお手伝いしてたんだし、それはまあ気になりますよ
『彼とは、何か特別な関係なのかい?』
「そうだねー…彼は魔法学校時代の同期でさ
なんかよく、つっかかってこられたんだ」
『店長さん、魔法学校に行っていたのかい?!』
魔法を学べるという事は、店長さんの実家は相当なお金持ち
まあ、若くしてお店構えてるし、そこも援助があったのかな
「ライバルって言うのかな…?でも、呼んだら遊びに来てくれるんだよ?不思議だね」
なんかそれは…燃える関係性ですね!
青春の匂いが感じられるというか…裏にあるものを色々想像したくなる
…あ、ミソラさんが興奮しすぎて、鼻血を出した
「おねえちゃん、はいこれ」
「カグヤはいい子ねぇ」
妹にちり紙をもらって鼻血を吹くミソラさん
…この姉妹、案外世話されてるのは、ミソラさんの方だったりする?
『それはそうと、ボクはちょっと隠れてるよ』
「え…な、何で?!」
『いや、今気づいたんだけど…
よく考えたら、作家さんが主役のイベントに
王子がいたらまずいんじゃないかな?』
「…はっ?!」
「た、確かにそうだね」
「カグヤは気にしないよ!」
『カグヤちゃんは偉いね、でも、そうじゃない人も来るからね』
「そっかぁ」
「え、じゃ、じゃあ先生に会えないの…?!」
『会えないのはボクだけだから、ミソラさんは気にせずに楽しんで』
セッカに戻ってもいいけど、あの演説見てる人が他にもいたら、何か変なことになりそうだし
「そんな…」
私が先生に会えないのを、すごいがっかりするミソラさん
い、いや、私そこまでファンじゃないですし、気にしなくていいんですよ?!
「サイン会終わってから、彼が帰るまでの間に時間を作ってもらうよ
その時に三人は個別で会う感じにしよう」
「あああああ、ありがとうございます!ありがとうございます!」
お礼を言いつつ店長さんの手を握り、ブンブン上下させる
今日は特にミソラさんのテンションがおかしい
『そういう事なら、ありがたく甘えさせてもらうよ』
「かたじけのーございます!」
「いやいや」
にこり笑って謙遜する店長さん
…やっぱりいい人だなぁ
「あー…それはそうと」
「?」
店長さん、ミソラさんの方を向いて一言
「…彼女に接客やってもらうのはありだったかも…?」
「……」
確かに…登場人物の格好してますもんねぇ……
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