29:王子少女は誤魔化したい!
「なんでしょう?」
「この前演説していた王子様が、セッカちゃんそっくりなんだ」
「あ…っ」
そ、そうだ、しまった…!
店長さんがあの演説を見てたのなら、当然怪しく思う…!
「もしかして、セッカちゃん…」
「ううっ…」
「ホントは王子様だったりするのかい?!」
「う…ううん?!」
な、何でみんな、王子様実は女の子説を主張するのかな?!
「実は女の子として生まれたけど、それを隠して王子として育てられてて
でも時々、女の子の格好して、遠くの街に繰り出すとかそういう…!」
素晴らしい想像力です、あなたは推理小説家になれますよ!
でも残念!正解は、『偶然顔がそっくり』な影武者です!
…いや、この正解に自力でたどり着くのは無理ですね!ごめんなさい!
「しーっ」
片目をつぶり、静かに、のポーズをとる
「あなたは何も気づかなかった
ちょっと親しい、ただの本好きな女の子が、時折本を借りに来る
そういう関係じゃ…ダメですか?」
まさか本当のことを言うわけにもいかないので、そうやって誤魔化す
…本音を言うと、店長の語る『お忍びの王女様』シチュに憧れがあったってのもある
「…君がそれでいいなら、そうしようか」
店長は、胸の奥にしまっていてくれるようだ
「ああ、でも、他のみんなが気づいちゃうかもですね
ちょっとほとぼりが覚めるまで、みんなが王子様の顔を忘れるまで
…女の子としては来られないかも」
後ろを向き、わざと顔を見せないようにして、店長にそう語る
うへへ…このシチュたまんないです……
「それで、店長さん…よかったらどうぞ」
「お、花団子じゃないか、ありがたい」
片付けは一旦休憩、店の中からテーブルを出し
店長さんの淹れてくれたお茶と、私のお菓子をいただくことになった
「おひとりでこれ片付けるの、大変じゃないですか?」
店の半分近くが崩壊しているし
一人だと瓦礫だけで一か月はかかるんじゃないだろうか…
「専門の人にもお願いしてるんだけど
他も立て込んでてすぐには来れないって」
そうですよねー…
うちの村も地震があった時、大工さんがてんてこまいでしたし
「来週にゲストを呼んで、イベントやる予定だったから…
このままだと中止にしなくちゃいけない」
「イベント…貸本屋さんがそういうのするって、珍しいですね」
「セッカちゃんの伝手で、片付けが得意な人とか呼べないかな…?なんて」
相当困っているようだ
…なんとか手伝ってあげたい……
「わかりました!ちょっと聞いてきてみます!」
「あ、ありがとう」
ミソラさんに相談してみようかな
「い、一週間は無理じゃない?」
「そうですか……そうですよねぇ…」
で、相談してみたはいいものの、あっさりとダメ出しをされる
さすがに期限が短すぎるかぁ…
「『ひかやみ』の作者さんを呼んで、サイン会をする予定だったんですが…」
「!」
『ひかやみ』の名前を出した途端、がばっと食いつくミソラさん
「え、え…?!う、うそ…!
ほとんど表に出ないあの作者さんが…なんで?!」
「店長さん、昔からの友人さんだそうで、今回特別に…」
ものすごく顔を近づけて、ミソラさんが問いただしてくる
何であの店、『ひかやみ』の品揃えがやたら良かったのか、わかった気がする
「待ってて!なんとかなりそうなユニークスキル持ちを探してみるわ!」
「急にやる気に?!」
ファンが本気になった…
確かに、この状況をなんとかできるのはユニークスキルだろう
けど、そんな都合のいいスキル持ちなんて…いるかな?
「ふっふっふっ」
「?」
「はなしはきかせてもらったよ!」
この舌足らずな話し方は…カグヤちゃん?!
いつの間にいたのか、彼女は応接室の扉にもたれかかって腕を組んでいた
なんか、こういう変なとこ、ミソラさんに似てる気がする
(あ、ま、まずいわ…!)
(どうしました?)
(何って、カグヤはあなたのこと、王子様って思ってるはずじゃない!)
(そ、そうでした!)
「わたしにまかせてもらいましょう!」
なぜか自信たっぷりに自分をアピールしてくるカグヤちゃん
自慢をしたいのが先に来すぎて、細かいところは頭に入ってないらしい
「…あ、そうか…そうね!カグヤのユニークスキルって…あれよね!」
「そうそう!」
あれ?ひょっとしてすごいユニークスキル持ちなの?!
(注意を引いておくから、今のうちにこっそり着替えてきて!)
(は、はい!わかりました!)
慌ててソファーの後ろに隠れ、私は馬車に戻り着替えるのだった
…当分、王子様の格好のままでいよう……
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