28:王子少女に姉妹のサンドイッチ
『つい先日、この地で『花』と『雪』のいざこざがあったと聞いた』
本当は私がけしかけたんだけど、そんな事は知らないフリで…
『皆、すまない…これは王子としての失態だ』
『『花』の領主は長い間、『雪』との関係に悩んでいた
ボクが早い時期から色々と動いていれば
上手く仲を取り持つ方法も、あったかもしれない』
勝手に謝っちゃってますけど…い、いいですよね?王子
『もちろん、『雪』のしたことは、許されないことではある
しかし、もっと内政が上手くいっていれば、『雪』も凶行に走らなかっただろう』
目をつぶり、下を向く…後悔している、という感じを出す
『勝手な話ではあるが
どうか…彼らのすべてを嫌う事の無いように、お願いしたい』
『いずれ、確執は残ろうとも…手を取り合っていけるように、ボクは励みたいと思う』
集まったみんながうんうん、と頷いている
ちなみに、今言ってること全て、私の言葉ではなくミソラさんの原稿どおりである
さすがプロ…違うわぁ…
『領主殿、これからもよろしくお願いするよ』
「こちらこそ」
領主と固い握手を交わす
庭の領民たちからは、大きな歓声が上がる
戦争派の一角が崩れた瞬間だった
バルコニーから離れ、領主と共に屋敷の中へ
先ほど、庭を見ていた部屋に戻ると
奥さんとカグヤちゃん、執事さんにミソラさんが待っていた
「ありがとうございます、王子」
「ありがとうございます」
領主と奥さんが、私に向かってお礼を言う
『…あのような無礼を働き、本当にすまなかった』
頭を下げる私
あの時はあれしか思いつかなかったとはいえ、思い出すと吐きそうになる
あんな偉そうに言える立場じゃなでしょ私?!
胃が…胃がきりきりする……
「いえ、おかげで思い出しました…今と向き合い、戦う心を」
「今まで辛い思いをさせて、ごめんね」
「おとうさんかっこよかったよ!」
「私たちのために、みんなのために頑張ってくれた
ありがとう…父さん、母さん」
結果的に、親子仲は戻ったようで、それは何よりだった
私の犠牲になった胃も、報われるというもの…!
「おとうさんにがんばれー、って言ってくれたの、おうじさまでしょ?」
『え…?い、いやその……』
「ありがとう、おうじさま」
カグヤちゃんに、ぎゅーっと抱きつかれる
子供はカンが鋭いな…
「あ、だ、ダメよカグヤ…!王子様はあたしのよっ」
ミソラさんがカグヤちゃんの反対側から、ぎゅーっとしてくる
ちょ、ちょっとちょっと…
『こ、こら二人とも』
「ははは、顔が赤いですぞ、王子」
「いっそのこと、二人とも嫁にもらってくれてもいいですわよ」
領主さまと奥方様は、この状況を楽しんでおいでのようだ
『もーっ!』
牛のような声を上げながら、しばらくの間私は、『花』の一家にいじられるのだった
………
……
…
私は、例の貸本屋さんに向かって歩いていた
お世話になったから、お礼に糖分…お菓子の詰め合わせでも渡そう
ついでに『俺のモノになれ』の新刊も借りちゃおう!
…なんて思っていたのだが
「あ…」
この前、ミソラさんと東の塔を観察した、貸本屋の屋根
そこには砲弾が撃ち込まれ、建物ごと大きく崩れていた
その中で店長さんは、一人で瓦礫を懸命に片づけている
「ああ、セッカちゃんかい?」
私の姿に気づいた店長さんが、声をかけてくれる
当たり前だろうけど、声にあまり元気がない
「これは……先日、街で戦いがあったんだ…」
「知ってます…大変だったんですね……」
「怪我した人はいるけど、奇跡的にほとんど皆大丈夫だったんだ」
亡くなったのは、息子が連れてきていた『雪』の兵士のみ
大勝利ではあるんだけど…
「ただ、うちは建物がちょっと…流れ弾が飛んできちゃってね」
東の塔はもちろん崩れているし、間接被害を受けてる建物もちらほら
領主さんから保証は出るらしいけど、それで建物が瞬間的に元に戻る訳ではない
「…ところで、セッカちゃん」
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