20:王子少女は怒りたい!
私たちは乗って来た馬車が止めてある馬小屋に移り
ミソラさんたちと今後の相談をする
「ミソラさんのユニークスキルなんですけど…
よければ、詳しい使い方を教えてもらえますか?」
「そうね、いいわよ」
「よ、よろしいのですか?」
躊躇いなく言ったミソラさんに、執事さんが驚く
ユニークスキルの詳細を、秘匿しておく人間は多い
良くも悪くも、ユニークスキルは人生を左右するものであり
プライバシーにも関わってくるからだ
「味方に手札を隠して戦える状況じゃないもの
あたしの頭だけで考えるより、みんなに知ってもらった方がいいわ
妹を取り戻すためにも…」
「ありがとうございます、ミソラさん」
「うまい使い方が思いついたら、バシバシ提案して!」
彼女から明かされる、『グループチャット』の具体的な使い方は、以下の通りだった
1:スキル使用者は、十人までメンバーを登録できる
登録には視認が必要で、登録される期間は百日間
2:スキル使用者は、登録した相手の意識の一部を、脳内会議場に呼び出す事ができる
3:脳内会議場に呼び出された人は、脳内発言をすることができる
4:脳内発言は、脳内会議場にいる全員に伝わり、外部の人間には伝わらない
「こんな感じね」
「なるほど…そんな仕組みだったんですね」
なんとなくで説明するのは簡単だけど、具体的な説明となると
とたんに難しくなるタイプのユニークスキルだ
「それで…本題なんですが
『グループチャット』で、カグヤちゃんと会話できないでしょうか?」
彼女と話す事が、きっと状況打開の鍵になる
だからこそ、細かい使い方を聞いておきたかったのだ
「本人の顔が見れないと、登録できないわ
前の登録は、もう解除されているし……」
百日ルールがやっかいな感じだ
でも…突破口はある……!
「彼女…時折、塔の窓から顔を覗かせているようです
こちらに来るときに、姿を見かけました」
「…おお!」
「地下室に閉じ込められてる訳じゃないのね!
…それならいけるかも…!」
「あの塔、地下室もあるのですか?」
「ええ、交代要員の見張り達は、そこで寝泊まりしてるんだけど…
そっちじゃなくて助かったわ」
彼女のユニークスキルまで想定されてたらアウトだった
「それで、カグヤ殿から『雪』の息子らの行動を把握し、奇襲をかけるのですな!」
「それもあるけど…それだけじゃないです」
「?」
大事な確認が、一つある
「とりあえず、あたしの裸眼じゃ見えなかったし、双眼鏡がいるわね…
父さん持ってたかしら…?」
「そういう普段使わないものは、倉庫にしまっておくものですが」
「よし、ちょっと探してみましょう」
勝手知ったる実親の家
私たちはミソラさんに導かれ、屋敷の倉庫へと双眼鏡を探しに向かうのだった
………
……
…
裏庭の倉庫がある場所まで来た私たち
その大きな倉庫にはやはり、緑の蔦が這っており
屋敷のデザインに統一されたものを感じる
…しかし、それをじっくり観察している余裕はなく
倉庫の前に、何か会話をしている数人の影が見えた
私たちは慌てて、すぐ側にあった木箱の裏側に隠れる
そこにいた人物は…
「おう、今週ももらってくぜ」
…ドラ息子のフェーダ…!
「もっと美味いもん寄越せよ、酒もな」
彼は、皮鎧を着た数人の男と共に、倉庫の食料を荷車に運んでいる
塔に籠るための補充といったところか…
そして、それを黙って見ている『花』の領主
「『花』のいいところは、食いもんが美味いってとこだよな」
荷物の一つからリンゴを取り出し、無造作にかじりつく
「先週持ってったあの酒は美味かったな、もっと寄越せよ!」
「この前の酒は…数年に一度しか作れぬ貴重品でして…」
「はぁ?なんだ、俺に出す酒はねえって事かぁ?!
嘘ついてんじゃねえぞこらぁ!」
「ほ、本当です…」
私…王子に対しては、なんだかんだ強気だった『花』の領主だが
ドラ息子には、驚くほど弱腰の対応だった
「あの…いつまで塔におられるんですか?」
「ああ?!
親父の命令が無かったら、俺もあんな塔になんか籠らねえよ!」
滞在期間を聞かれただけで逆ギレしている
彼からすれば、外に遊びにも行けないし不満なのだろう
「それもこれも、お前らが裏切るかもって、心配してるからじゃねえか!
疑われるような奴がわりぃんだろう?!」
「そんな…」
嫌がらせに耐え、娘を差し出し、裏で同盟まで結んでいても…信用できないらしい
「…娘は元気に暮らしておりますでしょうか?」
「ひゃはははは!元気だぜ?元気に毎日喘がせてやってるからな!」
「……」
(あっ…そうか……)
(…そういうことよ)
王城で会った時、残念息子フェーダの勘違いを、そのままにしたかったのは
ミソラさんの妹が、こいつの嫁に出されてるから…!
「万が一にも、おかしな真似するんじゃねえぞ
もし、裏切りが分かったら、目の前で娘を殺してやる」
「……っ」
(…城で横暴を繰り返していた時から、全く変わっておりませんな……)
(最低ね…)
「また来るからな!そん時までにはあの酒補充しとけよ!」
そんな無茶を言って、フェーダは数人の仲間と共に去っていく
残された『花』の領主は、しばらく悔しさに唇をかんでいたが
やがて肩をがっくりと落とし、彼も倉庫から立ち去った
「……」
「…目的のものを探しましょう」
双眼鏡はすぐに見つかった
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