18:王子少女は理解したい!
立派な門構えの、大きなお屋敷に到着する
屋敷はあちこちにツタが伸びすぎなくらい伸びていて、緑色に染まっている
夏場は涼しいだろうけど、これだけ鬱蒼と茂ってると、お手入れが大変だ
ここが『花』の領主さんの住むところであり、ミソラさんの実家である
馬車から降り、ミソラさんが
中肉中背中年くらいの門番の人に話しかける
「ただいま~」
「はっ!お嬢様…お帰りになられたのですね!」
顔見知りの門番さんらしい
本人から、ちょっと気が緩んだ感じがしてくる
「相変わらずの格好、目のやり場に困ります!」
『はっはっはっ、正直なお方だね』
やっぱりミソラさんの格好は、古なじみから見ても変らしい
「…こちらのお方は?」
「カナタ王子様よ、お忍びでここまで来たの」
『ボクだよ!』
「お…王子様?!」
王子様(偽)です、よろしくお願いします
「そう言えば、王子の補佐官に任じられたと…
てっきり冗談かと思っておりました!」
「そんなウソつかないわよ?!」
…かなりフレンドリーな門番さんだ
こういう人がやってける職場というのはいいと思う
「父さんに取り次いでもらえるかしら」
「はっ!わかりました!
…王子様!ちょっと変わった方ですが、どうかよろしくお願いします!」
彼はそう言って私にお辞儀をし、屋敷の中に確認を取りに行った
『ははっ、この美しいボクが任されたよ』
「ちょっと王子も何言ってるの?!」
あ、うん…ミソラさん、受けに回ると楽しい人だな
今の門番さんやメイドさんの気持ちが、少しわかった気がする
「むー」
ミソラさんは、ぷっくりとかわいくふくれていた
そうして、なんやかんやあって屋敷の中に入る
光を上手く取り入れられるように、窓が調節されていて
ツタに覆われているのに、奥の方まで入っても屋敷は明るかった
執事さんは、馬車の中で待つことになったので、今はミソラさんと二人だけ
私たちは応接室に通され、そこのソファで待っている
そして数分の後に…
「なんと…!王子がご無事だったとは…
ようこそおいでくださりました」
「『花』へようこそ、王子様」
気苦労が多そうな、目つきの鋭い痩せた領主
そして、それに寄り添う妙齢の金髪女性がやってきて、正面のソファに座る
それぞれがタキシード、ドレスを着ていて
緑のワンポイントアイテムが彼らの服を彩っている
二人がミソラさんの両親…『花』の領主と、その妻だろう
「…ふん」
ミソラさんは両親を見て、露骨に怒りを表している
「まだ怒っているの?ミソラちゃん」
「いずれわかる時が来る、放っておけ」
…親子喧嘩だろうか?
何かもめている風だけれど…
『はじめまして…『花』の領主殿、奥方殿
お二人の事は、ミソラさんからかねがね聞いているよ』
『ボクたちはしばらくはこの街に滞在し、査察を行う予定だ
ボクのいない間、『雪』が上手く舵取りを行えていたか、判断をする』
「その話、お聞きしていますとも
『雪』の領主様は大変聡明な方で、なんら問題は出てこないと思いますが…」
…しれっと持ち上げるこの感じ…これはかなりやっかいだな…
『誤魔化しは無しだ、本音で話をしたい』
「…ええ、結構ですよ」
肩をすくめる『花』の領主
『領主同士、仲がいいのは結構だが…
戦争派の『雪』の肩を持つのはどういうつもりだ?』
「…王子にはわかりますまい」
目をつぶり、やれやれと首を振る
「もともと、『雪』はとりわけ開拓が難しく、王の国内増産計画に乗れなかった地域
他から争って奪うしかないという考えです」
「『雪』は、『花』のすぐ隣…
幾度となく土地や食料のいざこざがあり、我々は脅かされてきました」
領主は、いがみあいの歴史を淡々と語る
「交流を増やし、娘を嫁に出し、ようやく不可侵の約束が得られたのです」
そこまで言ったところで、ミソラさんが急に話に割り込んできた
「ねえ、嫁に出すのはカグヤじゃなく、あたしじゃダメだったの?!
あの子を嫁に出す必要なんて…」
「『雪』がそう求めたのだ、仕方あるまい」
「……っ」
ミソラさんは、やりきれない思いを顔に出す
…私は、そんな彼女の袖を引っ張る
これは、『グループチャット』を開始して、の合図だ
(ごめんね、熱くなって)
(…詳しく説明してもらえるかな?)
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