102・王子少女は回顧したい!
「あなたがそうなったのは、冒険者をやってた時
パーティリーダーに手ひどく裏切られたからだと聞いたわ」
「そ、そんなとこまで情報が?!」
「あたしの父さん…『花』の領主が、元冒険者だったのよね、そこからの筋よ」
「くそっ…あのおっさん……!」
そのおっさんにした事を考えれば、詳細に調べられるのも当たり前だと思う
「ああ、そうだよ!昔の『テンカウント』は、かけっぱなしで解除できなかったんだ」
『…なんと』
そんな不便なスキルだったのか
持続型のスキルは、維持に魔力を消耗し続ける…
…一回使うたびに一生をかける覚悟がいる
「大きな財宝が手に入る直前に、リーダーは俺をリストラした
追放したら分け前が増えるし、追放しても俺はスキルを解除できなかったんだからな」
「…分け前でもめて追放や解散というのは、冒険者の間ではよくあるようね
目がくらんだ…というやつかしら」
「その時、怒りのパワーでスキルが覚醒、解除もできるようになったんだ」
強い感情の揺らぎが、ユニークスキルを進化させる事がある
…『ひかやみ』のような本でしか見たことなかったけれど、実際にあるのか…
「俺は隠れながら様子を見て、『テンカウント』をモンスターの目の前で解除してやった」
『……』
「あの時の奴らの恐怖に怯える顔、忘れられないぜ」
くくっ、と笑い声を漏らす
それは、笑ってるようにも、自嘲しているようにも聞こえた
「そして、元の性別を隠して領主の息子になった、と」
『……え?』
い、今、なんかとんでもない発言が、出たような気がしましたけど…?!
「お、おい!それは…それは言うな!!」
「冒険者をやってた頃の…『彼女』は、とてもかわいらしい少女だったと聞いてるわ」
「やめろって言ってるだろ!」
この反応…マジなの……?
『え、な…お、女の子だったのかい…?』
「そ、そうだよ!悪いか?!」
わ、悪くないけど…
今までのって実は、王子のフリした村娘と、領主の跡継ぎのフリをした娘の
男装女子対決だったの?!
『何で男のフリを…?』
「『雪』の血筋の正当後継者は、男って決まりだ
だが、親父には俺の他に子供ができていない
男が生まれるまで、息子のフリして他の分家をけん制する必要があった」
『なるほど…』
「…俺は、都合のいいところで親父を蹴落として、領主の座を乗っ取り
無能の癖に威張りくさってる上の連中を、全部始末するつもりだった」
よくない親や、よくないリーダーを見ちゃうと、そう思っちゃうのか
全部が全部、そうではないのだけれど…
「あ、あの…大丈夫なのです?
アワユキさんを領主にするって話してましたけれど」
「後継者の男は別に用意して
後継者の代わりに政治をやる代理領主、って立場にすればいいだろ
…俺が言うのも変な話だが」
『はは…』
アワユキさんは『雪』の僻地に飛ばされてたから、その事情を知らなかったのかな?
「できるだけ反発が少ないように考えてたけど、そんな穴があったのね」
「…そういう事だ
俺たちの元で戦ってたのは、後継者が男って伝統を
お前たちが破ったように見えたから、って奴らも多い」
む、難しい…『雪』には見えないトラップが多すぎる……
『あ!…ミソラくんの言ってた『女の子の頭を撫でる=スケベ』
ってキミが勘違いしてるって話、あれは…?』
「俺が流したでっちあげだよ!よく考えてみろ!そんな勘違いする訳ないだろ?!」
女の子なんだから、女の子とスケベする気が無くても当たり前
でも、それだと不良男子っぽくないから…変な勘違いしてることにしよう!
とかそういう判断があったのだろう…きっと
『し、信じてたのに……!めちゃめちゃショックだよ…!』
「あたしも…すっかり騙されてたわ」
「お前らなぁ…普段は頭よさそうな癖して…」
頭がいいのはミソラさんだけですよ
「ちなみに、この猫耳のついたフードをかぶり、尻尾をつけ、語尾に『にゃん』をつけて話す
自己陶酔型の冒険者だったって…」
ミソラさんが、白くてかわいいフードを出してくる
十二~三歳が着るような小さなサイズで、今の彼…いや彼女には似つかわしくない感じだ
今の顔をその年齢まで若くして、このフードをかぶった姿を想像してみる
『ぶふっ』
あ、いけないいけない…ついギャップで変な笑いが…
「やめ、やめろおおおおおおおおおおお!!!
ああああああああああああああああ!!!」
「ま、まあまあ、触れられたくない過去ってのは誰にでもあるのですよ…」
恥ずかしさでもんどりうつフレーダ(ちゃん)
アジサイちゃんはそのフードを見て、何を思ったのか自分でかぶった
「にゃんにゃんっ、なのですよー」
ちょっとぶかぶかだけど、それがかえって幼い感じを強調させる
彼女は猫の形にした手を、恐る恐る前に出しては戻すを繰り返している
「か、かわいいわね…」
「…こんな感じだったのかい?」
「言及はやめろって言ってるだろ?!」
まさかフレーダの、こんな照れ姿を見れるとは思わなかった…
「まあ、こんな感じ……いや、昔の俺よりは
今のこいつの方が可愛いんじゃねえの?知らんけど……」
「……!」
ぱあああああ、と急に明るくなるアジサイちゃん
かわいいと言われるのは、いくつになっても嬉しいらしい
「なんか悪い子じゃない気もしてきたのですよ!」
「単純すぎるわ?!」
まあ、毒気も抜けてるし、彼もこれ以上悪さはしない…と思う
「…もはやバレたのなら遠慮する必要も無いか…
ちょっとその事で頼みがあるんだ」
『な、なんだい…ぶふっ』
「笑うなよぉ?!」
『ご、ごめんギャップがすごくてつい…』
なんか、フレーダの猫耳姿を思い浮かべると笑ってしまう
「収容される場所を、個室のままにしてほしいんだ
大部屋に移されると、その…非常に困る
…コガラシ達にバレたくないのもあるし、着替えを見られたくない」
『…というか今までよく、バレずに大丈夫だったね?』
「コツがあんだよ」
私はみんなのサポートがあるけど、一人で隠すとなると、かなり大変だと思う
「…他人がいると威力が上がるスキル持ちだしね
脱走も考慮して、元から個室のままの予定よ」
「そ、そうか!感謝する!」
「い…いや、別に感謝する必要は無いわよ…元からの予定通りなんだし」
フレーダからお礼を言われて、ミソラさんが戸惑っている
「あと、親父なんだが…たぶん大空洞から西に行った国境沿いの隠れ家…
この地図に示したところにいると思う、捕まえてやってくれ」
刑務所内で地図を書いていたらしく、それをミソラさんに渡してくれる
『それは助かる…けど、いいのかい?』
「親父も俺の嫌う、能力がないくせに上でのさばる悪人だからな」
女の子宣言で頭から抜けてたけど、そういえばそれが目的だった…
「負けはしたが、トップがお前のような骨のあるやつだって、わかったのだけはよかったよ」
争ったおかげで、わかったものもある…ということかな
大規模な戦いとかじゃなくて、スポーツとかそういうので分かり合えたら
もっとよかったんだけど…
…いや、そう思うのは贅沢かな……
「しっかりやれよ、俺や親父みたいなやつを、もうのさばらせるんじゃねえぞ」
『それキミが言うかい?!』
そう皮肉交じりに言ったフレーダの激励で、今回の面会は終了したのだった
お読みいただき、ありがとうございます!
よろしければ、広告の下にある☆☆☆☆☆を★★★★★にして
評価してもらえると、たいへん嬉しいです!
さらに面白いと思ってくださった方
同じく広告の下にある『ブックマークに追加』も押して頂けると
とてもとても嬉しいです!