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7話


「……どうして俺を知っている?」

「私の事はマリィでいいわ! だから可及的速やかに急いで迅速に無駄無く今この瞬間に私を助けて!」

「そこまで動詞を連発しなくても君が切実に助けを求めているのは理解した。だから俺の質問に答えてくれ。君は何者だ?」


 俺は冒険者としては無名だ。どこにでもいる赤銅級の冒険者の一人に過ぎない。初対面の少女に助けを求められる実績が無い。ラファエロ達が差し向けた工作員の類なのかと警戒して当然だった。


「何故俺に助けを求める? 俺は今──」

「あなた、『適性武器』じゃない武器を使えるようにしてくれるユニークスキルを持った錬金術師なんでしょ!? えっとえっと──『最終限凸』ってヤツ!」

「…………」

「それでねそれでね! この『クィーンデッド』をね! 『私にも使える剣』にして欲しいの! お願い!」


 手を掴まれて振り回される。とんでもない握力で手の骨がミシミシと悲鳴を上げた。これは相当鍛えているな。

 眼前の少女をどう諌めるべきか苦慮していると、オーヴァルが慌てた様子で口を挟んできた。


「エイジさんのユニークスキルって信用できる人以外には絶対内緒でしたよね……!? この方、一体どこで……?」

「時々、ラファエロ達が俺を置いて遠征に出る時があった。その時に漏らしたのかもしれん」


 この世界の人間には『適性武器』という概念が備わっている。これは『特定の武器を使いこなす才能』だ。

 剣の適性値が高ければ、剣を装備した時に腕力値にボーナスが加算され、熟練者ともなれば銅の剣で鋼鉄を両断する。

 杖の適性値が高ければ、魔術の増幅倍率の計算式が変わり、同じ魔術でも破壊力が大きく変わる。高速詠唱の類も可能になる。

 ここで問題なのは、『適正武器が判明した後は、適性武器以外の武器を使えなくなる』事だ。

 馬鹿馬鹿しいほどに不便である。冒険者教習所時代に世話になったエヴァンシェリン教会の祭司は「女神エヴァンシェリンから賜るギフトだ」と言っていた。呪いの間違いじゃないのか?

 ちなみにエヴァンシェリン教とは、女神エヴァンシェリンを信奉するこの世界の一大宗教である。冒険者ギルドセンターはエヴァ教によって設立・運営されている。


「その特大剣……クィーンデッドと言っていたな。見るからに強力そうな武器だが、そもそもの君の適正武器はなんだ?」


 武器適性は妙に細かい。剣だけで短剣、小剣、剣、刀、細剣、大剣、特大剣と七種類もある。変わり種で蛇腹剣なんてマニアックな武器もあるらしい。あれは剣扱いでいいか悪いか判断が分かれると思うが。


「私の、適性武器は──……」

「適正武器は?」


 もじもじと肩を揺らして。視線も彷徨わせて、マリィは大罪を懺悔する罪人のような顔で言った。


「──手斧よ」

「素晴らしい取り回しと破壊力を両立した手斧は剣闘士等の前衛職にとって最良かつ理想の武器だ閉塞的な空間で同時に大量の魔獣との戦闘を強いられる迷宮探索では強度面からも信頼できる肉厚な刃が盾にもなるし仮に刃が潰れてしまっても打撃武器として使用可能だ元々は生活用具だから武器として扱うのは難しいが適性値が高ければ問題は無い投擲武器としても優れている適性武器が手斧は冒険者稼業を営む上で非常に大きなアドバンテージと言えるだろう」

「無表情で瞳孔を開いて死んだ魚の眼なのにめっちゃ興奮した感じで早口で迫らないで怖い!!! 褒めてくれるならもっと喜んでよ~!!!」

「す、すまない。短剣や手斧は自衛武器にもなるし、スキルに頼らなくても雑魚ならば倒せる。後方職からすると、ああいうのが適性武器の人間が心底羨ましいんだ……」


 年甲斐も無く興奮してしまった。これは猛省だ。

 俺が引き下がった事でマリィは落ち着いたらしく、腕を組んでウンウンと肯く。どうやら取り回しの武器の有用さについて理解を示してくれたようだ。


「ジョブと適性武器の相性問題って難しいよね。聖導師が刀とかギャップがあってすっごく格好いいと思うけど! ロマンの体現って感じね!」

「どれほどダメージを負おうとも自己回復しながら敵を両断して血路を斬り開く聖導師、か……うむ、合理的な自己完結型の素晴らしい組み合わせだ」

「……エイジさんとマリィさんのお話、噛み合ってそうで全然噛み合ってませんよ……?」


 頬を引き攣らせるオーヴァルを無視して、マリィは続ける。


「ちなみにあなたの適性武器は何なの?」

「試験管だ。ビーカーの類を投擲する」

「錬金術師らしくていいじゃない! 頑張ってエイジ!」

「ありがとう。しかし君は手斧が適正武器である事に不満を覚えているようだが、何が気に食わないんだ?」

「格好悪いじゃない!」

「…………」

「格好悪いじゃない!」

「大事な事ではないから二度言わなくていい」

「大事な事よ!? すぅぅぅぅぅぅっごく大事な事! あなただってダサダサの杖や子供の落書きだらけの魔術書なんて使いたくないでしょ!?」

「生き残る為ならば、例え適性武器が女性の下着であろうと喜んで使おう」

「受付嬢さん、この人とっても危ない犯罪者よ! きっと夜な夜な『俺の適性武器でお前の熟練度を上げてやろうギョヘヘヘ』って女の子を最終限凸してるに違いないわ……!」

「そ、そんな。女の子の最終限凸をエイジさんの適正武器でしていただけるなんて……えへへ♪」

「え?」

「え?」


 合わせ鏡のように顔を突き合わせて眼を瞬かせるマリィとオーヴァル。

 俺は咳払いをすると、口調を改めて言った。


「マリィ。君が武器に対して並々ならぬ拘りを持っている事は理解した」

「あなたもね、エイジ!」

「だが、冒険者として駆け出しである君に、適性の無い武器を使おうとする余裕があるのか?」


 マリィの胸元で揺れる冒険者バッジを指差す。デザインは俺が付けているものと同じだが、色が違う。

 俺のは赤銅等級を示す赤色。対してマリィは無色。彼女は冒険者免許を交付されたばかりの新米だ。


「そ、それはっ……!」

「まずは手斧を使い込み、赤銅級まで昇級した方がいい。新人である以上、冒険者としての社会的信用度を獲得する事が先決だ」

「うぐっ……!」

「依頼が失敗で終われば、依頼主に迷惑がかかってしまう。それを許容してはならない」

「うぐあっ!!!」


 マリィが苦しげに胸を押さえ、その場に膝をついた。


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