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2話


「確かに俺はお前達の要望には応えられていない。だが、俺は『隠術士』と『聖導師』、さらに『呪術師』の仕事を引き受けている。言わば一人三役だ。無論、専門家には劣るが、俺がいなければこのパーティーは三日で崩壊すると断言しよう」


 しばしの沈黙の後、三人は大爆笑した。周りにいた他の冒険者やギルド職員が迷惑そうに顔をしかめる。

 そういうところだぞ、お前達。


「器用貧乏な後方職がいなくなっても問題ねーよ、バァーカ! 回復なんざポーションでなんとでもなるだろ!?」

「ラファエロ。お前が最後にポーションを飲んだのはいつだ?」

「あぁ、そんなの──」


 言葉が途切れる。五秒待ってもラファエロは無言だった。視線は宙を彷徨い、眼前に立つ俺を見ようとしない。


「殺られる前に殺っている、という訳じゃないのはお前が一番良く理解しているはずだ。お前が負傷した時は、俺が錬金術で強化した『治癒粉塵』を使って治療している」


 複数の人間の傷を同時に治癒できるのは聖導師だけだ。

 しかし、錬金術師は錬成した道具で同じ事ができる。もちろん治癒力は劣るが、道具なのでスキルのような詠唱も不要である。

 錬金術師が下位互換と誹りを受ける不遇職なのは認める。だが、錬金術師が錬金する道具は他のジョブのジョブスキルに決して劣らない。


「俺がいなかったら、お前はこの一年間で三十回は死んでいる。毒や麻痺や呪いといった状態異常も含めれば、五十回は硬い」

「び、敏捷が一番高い銃操士の僕がサポートに回ればいい。ミリアーノもいる」


 グレッグが代案を提示するが、俺は首を横に振った。


「治癒粉塵は錬成した錬金術師が使わなければ効果を発揮しない」

「だったら、あんたの代わりに聖導師を入れればいいじゃない!」

「聖職師は俺以上に攻撃能力を持たないジョブだ。お前達、俺を何の為に追放するんだ?」


 ラファエロ達は脳筋が過ぎる。この一年間で何度も指摘したのに改善される兆候も無い。力押しで何とかできるほど、冒険者の世界が甘くない事は分かっているはずなのに。


「僕達には『最終限凸』された武器がある! 君程度いなくなったところで僕達の強さは揺るがない!」

「そうよ! 道具をいじる事しか能が無い錬金術師なんてジョブランクすら上げられないじゃない!」

「俺のジョブランクはA+だ」

「は?」


 瞠目するミリアーノに、俺はギルドカードを裏返して突きつけた。

 ギルドカードは冒険者の身分を証明する公文書だ。冒険者のあらゆる個人情報が記録されていて、裏面には冒険者としてのレベルや現在就役しているジョブの詳細が刻印されている。


「……ホントに……A+……!」


 ミリアーノが震える指で俺のギルドカードを示す。


「ど、どうしてお前なんかがそんなに高ランクになってるんだよ!? 俺達の中で一番ジョブランクが高いグレッグですらDなのに!」

「あれだけ大量の治癒粉塵を用意できていたのはそういう事だったのか……! で、でもいつの間にこんなっ……!」

「こんなの何かの間違いわよ! 冒険者レベルなんて10じゃない! 私達は15なのよ!?」


 やはり俺のジョブランクが上がっている事に気づいていなかったか。


「まさか……『最終限凸』──あんたの、錬金術師としてのユニークスキルがっ……!?」

「お前達が何度も武器も破壊して、その都度、俺に新しい武器を『最終限凸』させたからな。俺があのユニークスキルの使い過ぎで何度失神したと思ってる?」


 ラファエロ達は揃って苦々しい表情で唇を噛み、俺を睨みつけてくる。

 先のグレッグの発言から察するに、彼らを助長させてしまったのは俺のユニークスキルが原因のようだ。

 逡巡するような沈黙の後、ラファエロが絞り出したような声音で叫んだ。


「お、お前がジョブランクA+の錬金術師だからってなんだってんだ! 火力不足なのは間違いねーだろ!」

「そ、そうよ! ねぇラファエロ、グレッグ! 隠術士よ! 隠術士のバフとデバフで、最高の火力と鉄壁の防御力を出せばいいの!」

「ナイスアイディアだミリアーノ! それで決ま──」

「新人冒険者の登竜門と言われるこのヘムズガルドならば通用するだろうが、上を目指すならお薦めしない。殺られる前に殺るが通用するのは、相手が自分達より弱い時だけだ」


 勇み足になっていたラファエロ達が一斉に息を呑む。

 俺だってこんな物言いは望むところじゃない。だが、このままではこいつらは確実に死ぬ。

 俺を役立たずと追放するのは別に構わない──いや、正直構うのだが、一年一緒にやってそういう結論に至ったのなら、その意向を尊重したい。

 彼らの中には、俺の居場所は無い。それはもう充分に理解した。

 だが、確実に死ぬと分かっている者達を見過ごす事はできない。

 どう思われていようと、彼らがいなければ、俺はここにはいない。


「っ……ふざけないでよ、錬金術師風情が!」

「君にもう用は無いんだ! 僕達には最終限凸された武器がある! これで僕達は成り上がるんだ!」


 グレッグの発言で確信する。やはり俺のせいだ。


「お前達の武器は確かに最終限凸されている。だが、所詮は『R武器』──そこらで売っている安物だ。『SR武器』ならまだしも、『SSR武器』には絶対に勝てない」


 ──つまり。


「別名『初級者の街』なんて言われてるこのヘムズガルドでは無双できたとしても、他では全く通用しない」


 再び短い沈黙が訪れて。


「くそがあああああああああああああ!!!」


 ラファエロが背中の大剣を抜刀して襲いかかってきた。



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