15話
喜色満面のマリィが針葉樹に向かってクィーンデッドを構えてしまったので、慌てて止めた。
「待て。せめて魔物を相手にした方がいい。木を叩き折ったところで経験値にはならないぞ?」
「あ、それもそっか。スキルを使うついでにレベルアップもした方がいいものね!」
「そういう事だ。それに武器スキルの使い方も知らないだろう?」
「……えへへ~♪」
子供か。
「武器スキルには常時発動のパッシブスキルと任意発動のアクティブスキルの二種類ある。クィーンデッドの武器スキルはアクティブスキルだから、君に発動の意思が無ければ使えない」
「なるほど? でも、発動の意思ってどうやればいいの? 武器スキル出ろーとか考えればいいの?」
「武器に意識を集中させ、頭の中でビームを想像すればいい。それで発動するはずだ」
「ビームが?」
「ビームが」
「そのビームが何なのか分からないんだけど」
「魔術師の光属性の攻性魔術は分かるか? 掌から光の奔流を放射して敵対者を攻撃するアレだ。アレをクィーンデッドの刀身から出すイメージだ」
「魔術師の光属性の攻性魔術……あぁ、アレね! そっか、あれがビームかぁ! よしよし、分かったわ!」
マリィは口辺を不敵に歪めると、上唇をひと舐めし、クィーンデッドを正眼に構えた。
「意識を──剣に集中」
瞬間、クィーンデッドの刀身に洗い光が宿った。それは明滅を繰り返す度に光量を増してゆく。その光に誘われるようにして、どこからか現れた淡い光がマリィの身体を包み込むように漂い始めた。
俺の知る武器スキル発動とは全く違う光景だった。アクティブスキルを使用する時に武器の発光現象は起こるが、それは瞬間的なものだ。こうして持続的、かつ光が強くなった事は過去に一度も無い。
「これがUR武器なのか……?」
「エイジー! これものすっごいよー! 夜に本を読む時に使えるわ!」
「君は朴訥すぎるぞ……」
「木刀? どうしてそこで私の故郷の名産品が出てくるの!?」
「この世界でも木刀はお土産なのか……」
「ねね! これってちゃんとスキルが発動してる!?」
「すまない、俺が知るスキル発動の瞬間と随分違うから判然としない。だが、発動待機状態には入っている。恐らく、その光を解き放つイメージで剣を振るえば発動する──はずだ」
「よーし! どっかに魔物いないかな、魔物!」
「そんな都合よくいない。一旦待機状態を解除して──」
周囲に視線を巡らせていた俺は、森の中からこちらの様子を窺う三つの人影に気付いた。
ゴブリンだ。十歳前後の子供ほどの体躯の亜人型の魔物。三匹一組を活動の最小単位とし、軍隊的な集団行動を行う社会性を持っている。少数ならば無色の冒険者でも簡単に倒せるが、大挙して押し寄せられると藍鉄の冒険者でも危険な相手である。
「マリィ、あそこにゴブリン達がいるのが分かるか?」
「ええ、もちろん! あれにスキルを使うのね!」
「ああ、害獣駆除と行こう。命中すれば倒せるだろう」
なにせUR武器の武器スキルだ。しかもビームである。いや、発動してみなければ分からないが、ビームなら確実に攻撃スキルだろう。
仮に違ったとしても、その時は俺が出張れば済む話だ。いくら支援職の錬金術師であろうとも、ゴブリンの三匹くらいなら余裕で対処できる。
「よーし! エイジ、下がってて!」
マリィの警告と同時に、ゴブリン達が雄叫びを上げて飛び出してきた。
数は三匹。装備は粗悪な棍棒と木盾という定番。他に気配は無いので、恐らくは斥候だろう。増援を呼ばれる前に片付けてしまうべきだ。
「さぁ~行っくぞぉ~~~!!!」
マリィが動く。腰を落とし、右手で構えたクィーンデッドの刃を水平にして、尖端をゴブリン達へ向ける。空いた左手を刃に添え、その巨大な刃を支えた。
スキルの発動待機状態を示す刀身の明滅が止まる。光は凝縮に凝縮を重ね、もはやクィーンデッドは本来の形を失っていた。極大の剣ではなく、光そのものだ。
「マリィ・ビィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイムゥ!!!!!」
瞬間、世界が輝いた。
次で一旦区切りをつけます




