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14話


「ふんぬぅぅぅうぅぅうああああああああああ────へ?」


 多少の抵抗はあったものの、クィーンデッドは軽やかに空へ掲げられた。想定していた重量が無かった事に、マリィは両眼を見開く。


「軽いだろう?」

「う、うん! 普通の棍棒くらいになってる! ほら、こんなに振り回される!」

「特大剣をナイフみたいに振り回さないでくれるか?」

「こ、これが『最終限凸』のスキル……! 凄い、凄いわエイジ! ありがとー!」

「分かった。分かったから特大剣をフルスイングするのはやめなさい。装備者の君が軽いと認識しているだけで、実際の重量は変わっていないんだから」

「ああぁごめんなさい! 嬉しくてつい……でも、どうしてこんなに軽くなるの?」

「原理は分からん。適正武器として認識されなくなる事で、棍棒等と同じN武器の分類になる──俺はそう推測している」


 特定のキャラしか装備できない武器を誰でも装備可能にするなんて明らかなバグ技である。

 または、ソーシャルゲームのパラメータをユーザー側が調整するチートと呼ぶべきか。

 どうあれ、俺の『最終限凸』というユニークスキルは、そうした類の恐るべき行為だ。エヴァンシェリン神が定めた世界の原理から完全に逸脱しているのは、この世界の常識には未だに疎い俺でも理解している。エヴァ教に知られれば異端者として処刑されるのは間違いない。だからラファエロ達も『最終限凸』についてはオーヴァルやギルスといった信頼できる者達にしか教えておらず、他に吹聴する真似は絶対にしなかった。

 もっとも、俺を追放した今ならエヴァ教に通報する可能性はあるが、一年近く最終限凸された武器を使っていた彼らは立派な『共犯者』だ。自分達に火の粉が降りかかる迂闊な行動はしないだろう。

 ユニークスキルはジョブスキルに連なるスキルだが、習得条件は不明らしい。二つとして同じスキルは存在しないそうで、ユニークスキルの詳細は冒険者ギルドでも把握していないようだ。


「重量以外は武器スキルを含めて据え置きだ。心配なく存分にUR武器を振るってくれて構わない。ただし」

「ただし?」

「適性武器ではない武器を使う事に変わりはない。また君の冒険者のレベルは2でジョブランクは最低のEだ。クィーンデッドを使いこなすにはレベリングが必須だろう」


 つまるところ、マリィは適正武器の補正無しで特大剣を扱わなければならない。相応以上の修行が必要になるはずだ。


「望むところよ! 武器に振り回される情けない冒険者だって後ろ指を指されたくないもの! これで心置きなく隠術士として戦えるわ! 改めてよろしくね、エイジ!」


 マリィが満面の笑顔で右手を差し出してくる。その握手に応じながら、俺は安堵を覚えた。

 クィーンデッドを使えるようになったから俺は用済み──という展開にはならなくても、俺とパーティーを組む契約を反故にしてくるかもしれない。俺は心の片隅で、そんな懸念を抱いていたのだ。

 どうやらラファエロ達との一件は、予想以上にストレスになっているらしい。


「ねね! 依頼の薬草採取ついでに試し斬りさせてもらっていい? それにこの武器スキルのビーム? ってのも試してみたいの!」

「ああ、是非そうしよう。UR武器の最終限凸なんて俺もはじめてだったから、どれくらいのモノか気になる」


 俺が過去に最終限凸したのはR武器だけだ。既製品の中でも極々平凡な『鋼鉄の剣』である。その時の武器スキルは『装備者の攻撃力と生命力を30パーセント上昇する』というもの。地味ながら永続バフとして馬鹿にできない武器スキルだった。


「よーし! では早速!」



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