13話
そんな詮無き事を考えていると、マリィが泣きそうな顔になっていた。
「そ、そんなぁ~! じゃあクィーンデッドは限界突破できないじゃない! UR武器なのよ、この子!」
「そうだな。普通ならクィーンデッドがもう一本ないといけない。しかもそれだけじゃ最大まで強化できない」
「へぁ!?」
「限界突破は三回まで可能だ。その上、三回しないと武器スキルは最大強化されない。RやSR武器は大量生産品だから金を積めば何とでもなるが、古代文明が神創武装を模倣して造り上げたSSR武器や、神創武装であるUR武器の限界突破は絶望的だ」
ソーシャルゲームのガチャで、ピックアップされていない最高レアリティの特定のキャラを一点狙いする時点で現実的ではないのに、その上で同じキャラを合計四回引かなければならない。
UR武器の最終限凸は夢物語。SSR武器なら七曜の冒険者が最終限凸させた事があると噂で聞いたが……。
「三回限界突破しないと武器スキルは最大強化されない……という事は、もしかしてだけど……最大強化したSR武器の方が、無強化のSSR武器よりも強い、とか?」
「いや、それはない。攻撃力だけなら最大強化したSR武器の方が強力だが、武器スキルではSSR武器の方が確実に優れている」
俺は地面に屹立しているクイーンデッドに跪き、再びその刃に触れる。スキル『物質調査』で得られたクイーンデッドの情報を頭の片隅に留めて、意識を掌に集中させた。
「武器スキルには様々な効果があるが、最もポピュラーなのは、特定のジョブが装備すると攻撃力が何パーセント向上するというものだ。SR武器にこの武器スキルが備わっている場合、最大強化したところで50パーセントが限界だ。しかし、SSRは無強化で100パーセントがザラなんだ」
「そ、そんなに差があるの!?」
「藍鉄と天金の冒険者の最大の違いは、単純なレベルやジョブランクによる力量差や経験、ギルドからの信頼度じゃない。SSR武器を所持しているか否かだ」
「……一流を超えた超一流の冒険者になるには、運を味方につけないといけないって訳ね。SSR武器でも簡単に手に入るものじゃないでしょ?」
「その通りだが、どれだけ凄い武器でも所詮は道具だ。SSR武器だって使い手が無色の冒険者なら、レベル50の天金の冒険者が使う最大強化したR武器に負ける。武器の希少価値がすべてを決定するなんて思ってはいけない」
俺の掌に仄かな光が灯る。
「ふふ、そうよねそうよね♪ やっぱり弱い方が強い方に知恵を絞って戦ってギリギリで勝つって展開の方が燃えるもんね♪」
「UR武器を無理矢理使おうとしている君がそれを言うと違和感があるぞ」
「クィーンデッドがUR武器だなんて思わなかったんだもん! ところで、何してるの?」
「だから、『最終限凸』だと言っただろう? 俺のこのユニークスキルは、素材無しであらゆる武器を限界突破させて最大強化できる」
「……は?」
「最終限凸された武器は、適正武器として認識されなくなる。要するに棍棒等のN武器と同じ『仕様』になる訳だ」
「だ、だから誰でも装備できるようになるって訳!?」
「そういう事だ。マリィ、そろそろ眼を閉じろ」
掌の光が煌びやかな変化を帯び始める。
赤、橙、黄、緑、青、藍、紫の七色の光彩が水面に広がる波紋のように広がったそれは、クィーンデッドを飲み込んでゆく。
最後の仕上げを施すべく、五感を遮断。触れている刃に最大限の集中を傾ける。閉じた瞼越しにも、光過敏性発作を起こしそうな凄まじい光量を感じた。
やがて光が小さくなってゆく。そうして瞼を開くと、先ほどまでと変わりないクィーンデッドの刃があった。肩越しに振り返ると、両手で眼を覆ったマリィが棒立ちしている。
「もう大丈夫だぞ」
「……ホント? 爆発しない?」
指の隙間から覗かせた瞳は、俺とクィーンデッドの間で彷徨っている。
「爆発するなら光った瞬間にここは火の海だ」
「こ、これで本当に私でも使えるようになった、の……?」
「すぐに分かる。構えてみてくれ」
マリィの手を取って、クィーンデッドの柄を握らせる。
柄と俺の顔の間で視線を往復させたマリィは、ゴクリと唾を飲み込むと、その身を緊張させた。肩幅に足を広げ、腰を落とし、圧倒的質量を受け入れる準備を整える。
そして軽い深呼吸の後、排泄するゴリラの表情でクィーンデッドを引っこ抜き──。
「ふんぬぅぅぅうぅぅうああああああああああ────へ?」




