12話
「というか! スキルの発動条件酷過ぎないかしら! そもそも適性武器が特大剣じゃないとクィーンデッドを使えないじゃない!」
マリィが両手を振り回しながら地団駄を踏む。彼女の意見は実にもっともだ。UR武器が本当にエヴァンシェリン神の手によって造られたのなら手抜きなんてレベルではない。メンテ必須のバグである。デバッグがちゃんとできていないぞ、エヴァ神。
「ともかく、クィーンデッドの武器として特性は理解した。これで心置きなくこいつを君にも使えるようにできる」
と言いながら、内心では気乗りしなかった。マリィの今後を考えると、少なくとも赤銅に昇級するまでは手斧を装備して冒険者のイロハを学ぶべきだろう。
何も無色の彼女がUR武器を携える事が妬ましい訳ではない。どこの誰がどんな武器を使おうが興味は無かった。
マリィが語る冒険者のロマンは分からなくはない。無辜の民の生命と財産を脅かす魔物を討伐し、狡猾な犯罪者を捕縛し、危険な迷宮探査に潜ってその最深部を踏破するのは、冒険者にとって誉れだ。そこは否定しない。だが、それらは冒険者の仕事の一つに過ぎないのだ。
貴族や商隊から寄せられる護衛依頼や警備業務、街の住民達から寄せられる小さな仕事──家事代行や育児補助、家庭教師──が山のようにある。特にヘムズガルドは冒険者の登竜門的街として世間からも認識されているので、持ち込まれる依頼は多種多様を極めている。
そうした『小さな』依頼をこなしてゆくと、ふとした瞬間に見えるのだ。冒険者に必要なのは力ではなく、信頼であると。
同時に悟るのだ。冒険者に求められるのは等級以上に経験と人柄であると。
ただ強い武器を担ぎ、人々の脅威と相対する事だけを求めて冒険者になるのはもったいない。少なくとも俺はそう思っているが──。
(有象無象の赤銅級冒険者に過ぎない俺がそんな事を言ったところで、弱者の遠吠え。説得力なんてない)
自嘲の笑みで口辺が歪む。その事に気づいたのか、マリィが小首を傾げた。
俺は何でもないと首を横に振って告げる。
そもそも、だ──。
「これから『最終限凸』を行う。UR武器に施すのははじめてだから何が起こるか分からない。マリィは下がってくれ」
知識でしか知らなかったUR武器が眼の前にあるのだ。好奇心を抑えられそうにない。
この『最終限凸』というユニークスキルの影響もあるが、俺は希少価値の高い武器や武器スキルに眼が無いのだ。
「うん、お願いしまーす! ところでさ」
「なんだ? 集中するから後にして欲しいんだが」
「限凸ってなに?」
そこも説明しないといけないのか。希少価値も知らなかったのだから無理も無いか。
「俺達冒険者はレベルを上げたりジョブランクを上げたりして強くなる。対して武器は『限界突破』という強化を施せば強くなる」
「強さの限界を超えるから限界突破って事?」
「そうだ。限界突破はR以上の武器から可能で、限界突破を行うには素材が必要になる」
「強化する以上は当然ね。でも素材かー。鋼鉄の剣なら鋼鉄でいいの?」
「残念ながら、そこまで単純ではない。限界突破をするには、『同じ武器』が必要になる。正確には、『同じ武器の宝玉』だ」
つまり、鋼鉄の剣を限界突破したいなら、同じ鋼鉄の剣がもう一本必要になる訳だ。希少価値の呼称も含めて実にソーシャルゲームチックである。
エヴァンシェリン神は何を考えてこんなシステムにしたのだろう。ソーシャルゲームの廃課金ユーザーか何かなのか。創造神として嫌すぎるぞ……。




