1話
「お前は追放だ、エイジ」
いつものように無事に依頼を終え、拠点のヘムズガルドの街に戻り、冒険者ギルドセンターで依頼達成の報告を行った後。パーティーのリーダーであるラファエロが、突然そう切り出した。
「追放……? どういう事だ?」
「どういう事も何もない。お前を俺のパーティーから追放すると言ったんだ。聞こえなかったのか? それとも理解できないのか?」
心底忌々しそうにラファエロが吐き捨てた。筋骨隆々の大男で、ジョブは『剣闘士』。剣を得物とする一流の冒険者だ。
「平たく言えばクビだよ、クビ」
優男のグレッグが肩を竦めて冷やかしてくる。彼のジョブは『銃操士』で、二挺の拳銃を自在に操る前衛職である。
「今回だって役に立たなかったじゃない、根暗錬金術師。もうあんたのケツ持ちはウンザリなの」
そう言って口を尖らせたのはミリアーノだ。『魔術師』としては俺達を後方から支えている。
この三人が、俺──エイジ・サノが一年間パーティーを組んだ仲間達──のはずだった。
「俺がお前達の足を引っ張っていたと、そう言いたいのか?」
自分でも驚くほど、その声音は冷静だった。
すると、ラファエロが盛大に溜息をつく。
「ミリアーノが言っただろうが。お前は本当に人の話を聞かない男だな。まったく、頭が痛い」
「冒険者のパーティーは四人までとギルドの規則で定められている。もちろん状況によってはその限りではないけれどね」
「意味分かんない慣例よねぇ? けれど、それが規則。ルールは守らないといけないわ」
「そうなると、攻撃スキルを一切持ってない『錬金術師』のお前を抱えてる俺達は、どうしたって火力不足になるって訳だ」
魔術師のミリアーノは、攻撃魔術で味方を直接援護する。その火力は折り紙付きだ。後方職と呼ばれるジョブの花形に収まっている。
そんな魔術師を同じ後方職である『錬金術師』である俺は、錬成した道具で仲間達を支援する。仲間の能力値を上げながら、敵の能力値を下げる事が主な仕事だ。
いわゆる『バッファー』と『デバッファー』を兼任しているジョブだ。しかし、後方職の『呪術師』が、錬金術師と同じ仕事ができる。
役割が重複しているだけならまだいいのだが、呪術師はジョブスキルを駆使してバフやデバフを行う。道具を使わないのでコストパフォーマンスに優れているのだ。さらにバフデバフの効果倍率も持続時間も長いときている。
これだけでも肩身が狭いのだが、前衛職には、敵を弱体化させる事に特化した『隠術士』というジョブが存在していた。
世間一般的には、錬金術師は、彼らの下位互換と認識されている。
「色々と察したって顔だな。そういう事だ、お前の代わりはいくらでもいる」
ラファエロが肩を震わせて笑った。
「前線は張れない、道具を用意するには経費がかかる、肝心のバフもデバフも他のジョブに負ける」
「ねぇ、知ってる? 錬金術師なんて世間じゃお荷物、産廃ジョブって言われてるのよ?」
「そんなジョブをパーティーに入れ続けるメリットってなんだ?」
彼らの批判を聞きながら、なるほど、と納得する。
身体は鍛えているが、そんな努力でどうにかなるほど、この世界は簡単ではないし優しくもない。
彼らの言う通り、錬金術師は日陰者、不遇のジョブなのだ。パーティーメンバー募集の張り紙にも、『錬金術師はお断り』と書かれている始末だ。
だからラファエロ達に拾われた時は嬉しかった。自分を必要としてくれる人がいた事に感激して、その恩に報いようと努力した。雑務を率先して行い、寝食を惜しんで雑魚魔獣相手にコツコツとレベリングをして、錬金術のジョブスキルを覚え、役に立てるよう尽力していたのだが──……。
「まぁ、てめぇがユニークスキルで『最終限凸』した武器は役に立ったが、それだけだ」
「さぁ、僕達の前から消えてくれないか? あ、武器と防具は置いていってくれよ? それ、僕達が命懸けで稼いだ金で買ったんだから」
「早く消えて、寄生虫」
「言いたい事はそれだけか?」
三人は、俺の言葉が理解できなかった様子で、揃って眼を瞬かせた。
読んでいただき、ありがとうございます。