六話 遺跡の攻略
--グランフェルト王国-王城--
「ロレンス、召喚の贄はどうなっている?」
その男は年老いた声で語りかける。
座っているのは王の椅子。
頭で煌びやかに光っているのは王冠。
そう、彼はこの国の王である。
「は、はい、もう半分ほど……」
そして王の問いに答えたこの男はロレンスという宮廷魔術師だ。
黒く綺麗なローブに身を包み、右手に持つのは青い石が取り付けられた杖だ。
「急げよロレンス、帝国によって我が国は危機に瀕しているのだ」
おどおどと、まるで震える子鹿のように語りかけてきたのは、神聖サレウス皇国に本部がある教会の信徒であり、グランフェルト王国の教会を統括するフォーン司教だ。
「……はい」
「どうかしたか? ロレンス」
「……その、もう儀式に使える奴隷が……」
「な、何ッ! いないのか!?」
「案ずるな司教、既に手はうっている」
「お、おお!」
「だが急がねばならぬ、帝国が攻めてくる前に勇者を召喚するのだ……ふッ」
--遺跡拠点--
「遺跡って……この遺跡?」
「はい」
「私に?」
「はい」
「できるかな……?」
「できます」
ええ、自信満々に言われても………そんなことゲームでしかやったことないんだけど。
どうしよう……あのスケルトン、ちゃんと役に立つかな?
「わ、わかった。できるかわからないけどやってみる」
「ユウカならできます。ユウカが召喚したスケルトンの強さは異常ですから」
やっぱりあのスケルトンって強いのか。
うん! なんかいける気がしてきた!
「よし! じゃあまず何をすればいい?」
「まずはスケルトン以外何を召喚できるか教えてください」
「……スケルトンだけだけど」
「……そんな事は無いと思います。あれだけの加護を受けておきながら」
いやでも本当にそれだけしかできないんだよ。
ノアちゃんと出会う前に森でいろいろ試したけど、何もできなかったんだよ。
私だってそんな事は無いって思いたいよ……思いたいよ!
「私もやり方がわからなくて………というか加護って何?」
「加護というのは神の愛とも呼ばれ、人が生まれた時、もしくは信仰によって与えられる力のことです」
なるほど! 神様から力をもらえるわけね……あれ? そういえばノアちゃんが私は邪神に愛されてるとか言っていたな。
「私の加護って邪神のこと?」
「はい。邪神カーラ、肉無し女神カーラです」
えッ、肉無しって……どんな神なんだよ!
肉が無いという事は霊体ということか…… いやスケルトンということもあり得るかも。
「邪神カーラの加護は魂、つまり死霊を操る事に特化しています。お母さんもカーラの加護でした」
「え! そうなの、それは奇遇だね」
「はい。死霊魔法はカーラに願う事で、彼女が所有する魂の偽物を操ることが出来ます」
「所有? 偽物? それってどういう……」
「カーラには魂を集めるという趣味があるのです。そしてその魂の複製を召喚することを死霊術といいます」
ふむふむ成る程、カーラが物凄く悪趣味だという事はわかった。
つまり、その女神の加護が強い私なら強い死霊魔法が使えるというわけか。
「でも、どうやればいいのか……」
「それでは私が呪文を詠唱するので、復唱してください」
「うん、わかった」
魔法か……本当にできるのかな? というか私がスケルトン召喚する時、呪文とか詠唱してないんだけど。
「それではいきます……ー愛の女神カーラよー」
「愛の女神カーラよ」
「ーその大いなる愛をもって、我に力を与えたまえー」
「その大いなる愛をもって、我に力を与えたまえ」
「ー出でよ骸骨弓手ー」
「「「出でよ骸骨弓手!」」」
「…………」
「……何も、起きませんね」
「そ、そうですね……」
うう、物凄く恥ずかしい。
最後の方は気分が良くなって叫んじゃったよ。
私はこれにより精神に多大な負傷をした。ノアちゃんは何故魔法が発動しないか全く検討がつかないと悩んでいたが、小声で話していたのでよく聞こえなかった。
というか、カーラって愛の女神なのか。
「あの、ユウカ……スケルトンだけでも十分強いですから」
「うん、ありがとうノアちゃん」
ま、まあそうだよね! スケルトンだけでも強いし、それに大量に出せるし……うん。
でもねノアちゃん、傷口に塩を塗らないでおくれ。
「それでは遺跡の攻略を」
「ふァァ、眠い……ん、何か言った?」
その日は何故か急に眠気が来て、ノアちゃんよりも先に休ませてもらった。
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「んんん……んあ?」
私が目覚めると、ベッドでノアちゃんと一緒に寝ていた。
あれ? 何があったんだっけ……そうだ、突然眠くなって……それで。
「おはようございます」
「んあ、おはよう」
そうか、私久しぶりに寝たんだ。
人形の体になった事と関係あるのかな? まあ、そんなことより今日は遺跡の攻略をしなくちゃいけない……本当に私にできるかな? でも好奇心はある。
「どうかしましたか? ユウカ」
「いやァ、少し恐くて」
「大丈夫ですよ、私がついています」
「ありがとう! ノアちゃん!」
うう、ノアちゃんはなんて頼もしいんだ。
まあ、何かあったら全力で逃げればいいよね!
「それで、もう遺跡に行けますか?」
「え、あ、もう行くの?」
「ユウカがいいのであれば」
起きて早々出発するのか……今更だけど、遺跡ってどのくらい危険なんだろう? まあ、死にはしないだろうけど、もう死んでるからね。
「わかった、行こう……! それで私は何をすればいいの?」
「準備は私がします。ユウカはしばらく待っていてください」
「あ、うん」
ノアは隅に置いてあったバッグを背負うと、その中にしまってあった鍵を取り出して部屋の奥にあった扉を開けた。
「準備できました。それでは行きましょうユウカ」
「この扉の先なの?」
「はい」
「へえ、凄いな」
私はノアの後に続き、扉をくぐった。
扉の奥には、ゴツゴツした洞窟が途切れるように石造りの通路があった。
「これが、遺跡……」
「はい、ここから先がお母さんの見つけた遺跡です」
四人ほどが並んで入れる通路の奥は何も見えず、どこまで続くかわからない闇だった。
「これ、何も見えなくない?」
「ランタンを持ってきました」
おお! さすがノアちゃん!
私は何をしようか……ん? 奥に何か見えるな……てッあれゾンビじゃん!
「ノアちゃん、あっちにゾンビが!」
「ゾンビ……? ああ、アンデッドですね。スケルトンでどうにかなりませんか?」
「え、うん、やってみる」
私は自分の目の前にスケルトンを召喚した。
召喚されたスケルトンはこちらにむかって歩いてきた二体のゾンビの元へ走っていき、それぞれ三発ずつ殴って倒した。
「やはり強いですね」
「うん、意外といけそう!」
「ですがこのスケルトンの骨格……大きくないですか?」
「骨格?」
でも確かに、森にいたスケルトンとは身長とか違うかもしれない。
というかそんなことより、この遺跡の奥からゾンビ出てきたよね……太陽の光から逃げてきたとかかな? いやいや、入口は塞がれてるし。
「どうかしましたか?」
「いや、こいつら何処から来てるのかなって」
「この遺跡にはアンデッドを発生させる場所があるのです」
「へえ………もしかして森にいる大量のアンデッドって」
「はい、その場所が原因です、ここの遺跡ではありませんが」
成る程、だからあんなに大量にいたのか。
じゃあいくら倒しても無尽蔵に出てくるのか……でもこの通路の狭さなら。
「これって、スケルトンを大量に出して先に行かせれば、安全なのでは?」
「………できるんですか?」
「やってみる」
私は大量のスケルトンを正面に召喚した。
通路の中は屈強なスケルトンでギチギチだった。
「おお、結構上手くできた!」
「はい、それにしてもこんな量のスケルトンを一瞬で……」
「よし、それじゃあ行こう!」
「……はい、そうですね」