三話 裸の骸骨
「こ、これは!」
紫の光が集まっていく様は、とても神秘的で力強くかんじた。
そして、光が集まって出来た骸骨が、服も、武器も持っていなかった事に私は動揺した。
「えッ! 何で裸なの!?」
な、なんで? どうして? 装備も着てない、武器も持ってない!?
私が動揺していると、召喚されたスケルトンは近くにいたゾンビを攻撃し始めた。
勿論パンチをひたすら続けるだけの攻撃だったが、三発殴ったところでゾンビが急に倒れて動かなくなった。
「た、倒したの? や、やった……あッ!」
喜びも束の間、周りの敵がスケルトンを一斉に取り囲み攻撃し始めた。
ゾンビとスケルトンが入り乱れる中、召喚したスケルトンは何も着ていなかったのですぐにわかった。
「どうしよう、何かできることは」
劣勢かに思われたが、スケルトンは二体のゾンビを倒し、スケルトンを一発殴って倒したところで力尽きた。
「た、倒されちゃった……けど、思ったよりも強かった」
正直、スケルトンなんて雑魚中の雑魚だと思っていたけれど、結構倒してたな………これ、大量に出せば最強なのでは……? あれ、死霊術、もしかすると強いのかも。
「よゥし! いでよッ、スケルトン軍団!」
そう言って、私は敵の周りを取り囲むようにスケルトンを召喚した。
召喚している途中、詠唱しなくても召喚されることに気づいた。
「くらえッ、くらえッ、ゾンビ共ッ!」
無詠唱で私は只ひたすらにスケルトンを召喚した。
無尽蔵に召喚されていく全裸のスケルトン達、敵のスケルトンとゾンビは防具や剣を装備していたが、明らかにこちらが押していた。
「す、すごい! やっぱり数は力だ! ふんッ、雑魚共め!」
私が召喚しているスケルトン達の攻撃は圧倒的だった。
私は無我夢中で召喚し続けた。
ふと、全体を見渡してみると、あまりの出来事に絶句した。
「ふ、増えてる」
あれ程大量のスケルトンを召喚したにも関わらず、敵の数は減るどころか増えていた。
それも最初の何倍、何十倍の数が木々の間を埋め尽くしている。
「な!? こ、これどうすれば」
私を中心に広がった大量の敵はさらに勢いを増し、雪崩の様に襲いかかってきた。
それを見た私は堪らず上空に逃げた。
「あ、あれ……これ、本当にもう終わったんじゃ……」
どうしよう…………でも、あそこにいるのは危険だししばらくここにいよう。
き、きっと見つからない位置にいればいつの間にかいなくなってるよね……。
私は、取り敢えず安全な木の上で待つ事にした。
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しばらく待っていると、地平線の空が明るくなっているのに気付いた。
「あ、あれって……朝日、かな……?」
その光をじっと見つめているとある事を思い出した。
あ! あいつら太陽の光で燃えるんじゃないか? だとしたら……グフフ。
まったく手こずらせおって、だがこれで終わりだァ!
「おォォォォ!」
下に降りて様子を見てみると、ゾンビ達の体が次々に白い灰になって宙に舞っていた。
やったッ! あんなに大量にいたのにもう結構な数減っている!
燃えてはいないが体がボロボロ崩れて灰になっていく……ふゥ、なんか凄く長く感じたけどもうこれで終わったんだ。ウゥ、涙が……あ、身体なかった。
「幽霊だけど、なんか疲れたな………少し休もう」
私は辺りを見渡して、影になっている木の根元近くで一息ついた。
ふゥゥ、よく頑張ったよね私。
それにしても、一日中寝てないけど全然眠たくない……ん! そういえば三日間考え事してたんだった。
この世界に来てから随分経ったなァ……あッ! そういえばあの国で情報収集するんだった! 忘れてたよ……まあァいっか、戻るのもめんどくさいし。
やっぱり、この森を進むのは危険かな………? でも、先が気になるし。
まあ、朝になれば燃え尽きるし……いや待てよ、今回は森の端だったから良かったけど、森の中に光は届くかな……? まあ、大丈夫かな!
「よし! そろそろ行くか!」
しばらく休んだあと、私は薄暗い森の中へ高い高度を維持しながら入っていった。
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しばらく進んでいたが景色は変わり映えしないし、何か珍しいものがあるわけでもなかった。
夜になると大量のゾンビ達と一緒に移動していた、その光景はさながら百鬼夜行だったが、朝になると少しの木漏れ日で大半が消えていった。
「はァ……思ったよりも暇だなァ」
見たことない敵が出てくるわけじゃないし、お宝がありそうな場所は無いし。
朝はずっと移動、夜は下にむかってスケルトンを落として………一体何日経ったのかな? 最近じゃ召喚したスケルトンが可愛く見えてきた。
「「「「ドォォォォン」」」」
そんな事を考えていると、森中に突然爆発音が響いた。
「な、何事!」
私が音の聞こえた方へ行くと、一つの塔が炎に包まれていた。
そしてよく見ると、燃えてる塔の近くに軽装鎧を着た人間が四、五人程の男がいた。
「なにこれ、どうなってるの!?」
私が塔の近くにいる人達のもとへ近づくと、一人の男が小さい女の子を抱えていた。
な、なに、これ………はッ! あの子を助けなきゃ!
私は咄嗟にスケルトンを召喚して、男を攻撃させた。
「ぐわッ!」
男の背後に召喚したスケルトンは、背中にパンチを一発くらわせた。
男は抱えていた女の子を地面に落として倒れ込み、うずくまった。
「うぐッ、ゲホッ、ゲホッ」
ちょ、ちょっとやり過ぎたかな……でも多分あの子に乱暴しようとしてたから、う、うん。
まァ、きっと大量のスケルトンを見せれば怖がって逃げていくよね。
「な、なんだこいつ」
「一体何処から現れた!」
「皆んな、かまえろ!」
私は召喚したスケルトンのさらに後ろに、三十体程のスケルトンを召喚した。
「な、なんだよこれ……」
「う、うろたえるな! たかがスケルトンだ!」
ちょっと少なかったかな? もうちょっと召喚するか。
もっと派手な演出で。
「皆んな……気おつけろ、ゲホッ、このスケルトンは普通じゃない……殴られただけで動けない、おそらく……骨が折れている」
えッ! うそ骨折っちゃったのか、スケルトンの素手攻撃意外と強いんだな。
「「「「お、俺は嫌だ! 死にたくない!」」」」
一人の男がそう叫んで逃げていくと一人、二人と続いて逃げ出していき、残るは倒れた男一人となった。
「おい何処へいく……! 待て俺を置いていくな」
あれ、逃げないな……? どうしよう、動けないのかな?
骨折れてるって言ってたし……どうしよう。
「ー光の神ラーミナよ、我にお恵みを、治癒ー」
男がそう言うと、何もなかったかのように立ち上がった。
え、何あれ? 回復呪文的な……? じゃあもう逃げれるよね。
私はさらに大量のスケルトンを男の周りに召喚し、一つだけ道を開けておいた。
「「「「なんだこれは、くッ、神の敵めッ!」」」」
男がそう叫ぶと、手に持った片手剣でスケルトンの中へ突撃した。
だが二体のスケルトンを倒したところで、周りにいたスケルトンの攻撃で地面に倒れた。
「うぐゥ……ここまでか……」
ど、どうしようこのままじゃ死んじゃう……! あッ! そうだ気絶させてしまえば解決なのでは!
私は近くにいたスケルトンに頭を小突くよう命令した。
だが、スケルトンの攻撃は男の頭に穴を開けた。
「「うぐあッ……」」
「え……」
私は一瞬何が起こったのかわからず、呆然としていた。
だが、正気に戻り男の近くに行って生死を確かめた。
「これって、もしかして死んで…………」
初めて人を殺した事に一瞬動揺したものの、なぜかそれ程罪悪感や嫌悪感はなかった。
それは体が無いからなのか、ここに来るまでいろいろあって気持ちが追いついていないからなのか、わからなかった。
すると突然、倒れていた女の子が起き上がりこちらを見て話しかけてきた。
「だれですか?」