二話 森と死霊術
私は考えていた、本当に異世界に来てしまったのか、だとしたら私はもう死んでしまっているのか?
「うゥ、わからない……でも、これが現実だとしたらこれからどうすれば」
学校とかもどうすれば……いや、でもこれで行かなくてもよくなったのでは? いいや、行けなくなったのだから仕方ない、うん、仕方ない。
将来のためとはいえ、行きたくもない場所に行かなくてもいいのは、少し嬉しい。いや、物凄く嬉しい。
んん、でもこの場合ここで暮らさなくてはいけなくなった……。
「え、どうしよう……私、見知らぬ異世界でサバイバルなんて出来ないんだけど……」
いやでも、もう死んでるから生き残るとかは無いのか。
だとしたら、今の私は何なんだ……? そういえばさっき、霊体化がどうのとか言っていたけど……幽霊になっちゃったのかな?
………あッ! そういえば異世界に来たならやっぱり、ステータス画面とか開けるのかな……? 体が無いから腕も動かせないし、視界の端に何かあるわけないし……音声認証か!
私はなんと言おうか考え、咄嗟に思いついた事を言った。
「「ステータスオープン!」」
な、何も起きない……恥ずかしくなってきな。
というか、体が無いんだから喋っているのかどうかもわからないな。
ふゥ、落ち着け……こ、これは情報収集だ! 見知らぬ場所に来たならまずやるべき事は情報収集だからね!
「ふ、普通異世界って言ったならステータス画面だと思うんだけどなァ」
というか、取り敢えずやる事は決まったな。
情報収集して、もっとこの世界のことを知ろう。
そう思っていると、辺りが騒がしくなっている事に気づいた。
声のする方へ行ってみると、数人の人だかりができていた。
「ここです神官様、ここから声が聴こえるんです」
えッ、神官様って……まさか私、成仏させられようとしてる! なんて事だ! まだ私にはやりのしたことが! 金銀財宝に囲まれて暮らすという夢がッ! あと、ポテチを食べること。
「ふむ、いつ頃から声が?」
「三日前です、三日前からたまに声が聞こえるんです」
「えッ! 三日!」
「ん、確かに聞こえますね、声が……」
しまった、つい驚いて。
それにしても三日前って、私そんなに悩んでたのか……。
「わかりました、任せてください」
「お願いします……」
そう言うと神官は、両手を天に掲げて何かぶつぶつ言い出した。
もしかしてこれって……あ!
これはまずい、一旦離れよう。
「ー光の神ラーミナよ、その偉大なる慈悲にて、かのものに安らぎを、聖なる光ー」
私は危機一髪のところで、光から逃げ出した。
ふゥ、危なかった。
あの光めっちゃ痛いからなぁ………それにしても、あれが魔法か……私も使えるのかな?
「……どうですか?」
「ここにいた魂は、安らかに逝きました……」
えッ私、安らかに逝っちゃったの!
……て、いやいやまだ成仏してないから…………私の事が見えないのかな?
「所詮この程度か、やはり三流であったな………ふゥ、死んでなくてよかった……てッ、私もう死んでた! ナハハハ」
だけれど、ここにいるのは危ないよね。
そうだ! 私幽霊だし空飛べるよね! 上空に行って全体を見渡そう。
私は真上に向かって全力で飛んでいったが、その光景を見て驚いた。
意外と速かった事もそうだが、上空を飛んでいた鳥がゆっくりと羽ばたいていた事に。
「なッ、なにこれ! 動きが遅い!」
そう言ったと同時に私は空中で停止した、するとその鳥は何も無かったかの様に、通常通り動き始めたのだ。
もッ、もしかして……時間を減速させる能力が使えるとか………! てッ、どうせなら止まってくれても良かったのに。
それにしても、幽霊って意外と速いんだなァ。
「ほッ、よっと、ほい」
難しいな、速度調整には慣れが必要かも……まァ、そのうち上手くなるか。
それよりもこの国、綺麗だなァ……思ったよりも大きいし。
おっといけない、見蕩れてた。
それよりも先ずは何処か落ち着ける場所を…………。
「んッ! あれは森、かな?」
城壁の奥へ目をやると、薄らと木が生い茂ってるように見えた。
あそこなら、人も居なさそうだ、よしッ! あの場所に行こう!
「幽霊だから、ひとっ飛びだぜ! ビュゥゥゥン」
そういえば、私は昔から薄暗くて狭い場所が好きだったなァ、隅っこが落ち着くんだよ。
それにしても……何か忘れてる気がするような…………まァ、いいか。
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「ふゥ……やっと着いた」
国を出てから幽霊の移動に慣れるために練習をしていたら、思いのほか時間が掛かってしまった。
試行錯誤していて気付いたけど、速く動くかどうかに関わらず、集中すると時間が遅くなるみたいだ。
「おォォ! 遠くで見るより大きい!」
それにしてもこの森は結構不気味だ、夜中という状況もさらに恐怖を助長させてると思う。
だけどそこまで怖いとは思わない、それよりも嫌な感じがするというか。
でも普通なら入りたいと思わないようなこの森も、今はむしろこの先がどうなっているのかという好奇心が勝る。
元々怖いのは苦手な筈なのだが、この世界に来て嫌悪や恐怖に鈍感になったように思う。
これは幽霊になったからとか、そういうのが関係しているのか?
「そういえば、某ゲームでは夜になるとモンスターが出てきたけど………」
辺りを見渡すが誰もいないどころか何も無い、建物すら見当たらず、背の高い木々がうっそうと茂っているだけだ。
まァ、急に出てきてもらっても困るだけだが。
そう思っていた矢先、何処からか物音が聴こえ始めた。
「おッ! 何か聞こえる、敵かな……いやだとしたらまずい!」
私はとにかく、安全な場所は何処かと考え、葉が生い茂っている木の上部を目指した。
まァ、ここまで来れば平気だろう…………で、でも少し見てみたいなァ、やっぱり異世界に来たんだし、見ておいて損はないよね!
「こそっと行けば……………ウェェ、なんだこれ」
恐る恐る真下を覗いてみると、そこにいたのは大量のゾンビと骸骨だった。
こちらの居場所がわかるのか、木の周りを取り囲むように集まっている。
「き、気持ち悪い」
私の目を見て、唸り声をあげたり骨を鳴らしたりしている。
それはまさに、某ゾンビ映画で見るような光景だった。
「こ、こんな世界で生きていかなきゃいけないのか………」
どうにか対抗手段はないかと考えていると、ある事を思い出した。
そう言えば、お城にいた人が私の霊体はカーラがどうとか言っていたな……何か神様の加護的な力でどうにかできないかな?
そんなことを考えていると、何処からともなく声が聞こえてきた。
「シリョウ……死霊術……」
「な、何!? なにか聞こえる!」
死霊術、そう言ったのかな?
はッ! まさか神様……! てことはこの声はお告げか……え、だとすると死霊術って……漫画とかで出てくるものだと死体を操るとか?
「え、嘘でしょ、めっちゃ嫌なんだけど」
うゥ、できれば爆裂魔法の使い手になりたかったんだけど……私、爆裂魔法少女に……くゥ、ここにきて一番のショックだ。
まッ、まァでも、先ずは自分に何が出来るか確かめないと。
私は微かな希望を持って、呪文を唱えた。
「「「「エクスプロージョン!」」」」
何も起こらなかった………予想はしていたが、少し悲しかった。
次に、死霊術ぽいものは何か考え、取り敢えず骸骨を召喚出来るか試してみた。
骸骨を召喚とか言っても、どうすればいいのだろうか? まァ、適当にスケルトン召喚って言えばいいのかな?
「スケルトン! 君に決めた!」
ふざけて言ってみた。正直半信半疑だったが、ゾンビ達がいるすぐ横に違和感を感じ見てみると紫色の光のツブが宙に漂っていた。
「えッ!? あんなふざけた詠唱で召喚されるの?」
その紫の光は徐々に集まっていき、足、胴体、頭という順番で骸骨を完成させた。