一話 異世界召喚される。もう死んでいた。
「はァ、今日も学校か……」
早朝、玄関の前で秋山ユウカはそう呟いた。
高校二年生の秋、一段と肌寒くなってきたこの日、私は憂鬱な気分だった。
「ユウカ、忘れ物はない?」
そう聞いてきたのは、私の母親だ。
整った顔立ちでスタイルも良く、そして胸も大きい。
目がキリッとしていたり、何を考えているのかわからない為、私はあまり好きじゃない。
友達からは、私と違ってかっこいいと言われている。
そう、私と違って。
「うん、大丈夫」
「そ、いってらっしゃい」
私は父親に似ておっとりした性格で、友達からは親しみやすい顔だと呼ばれる。
身長は平均的なくらいだ。
そして、なによりもお母さんは私に胸を恵んでくれなかった。
「はァァ、この世に神はいないのか……」
「どうしたの急に?」
「いや……なんでも」
だが、私の落ち込んでいる理由はそれでは無い。
私は学校が嫌いなのだ。
勉強は嫌いではないが、好きでもない。友達はいるが、それほど親しいというわけでもない。
ただ、あの雰囲気が嫌いなのだ。
自分でも、明確に何を嫌っているのかわからないが、好き好んで行きたいと思える場所ではない。
まあ、それでも将来のために行かなくてはいけない。将来の夢は無いが。
「今日もがんばろ」
そんな事を考えながら、玄関のドアを開けて外に出る。
今日も今日とてこの街は平和だ。
あくびをしながらふと足元に目をやると、そこだけうっすらと赤く光っていた。
私がその場所よく見ると、その光には模様があった。
「なにこれ? 魔法陣みたい、子供の悪戯かな………はッ、まさか真の力に目覚める時がきたのか! なんてね……ん? なんかさっきよりも眩しく……うわッ!」
地面の光はまるで、私を待っていたかのように突然輝きを増した。
急に起こった出来事に、私はただ立ちすくむ事しかできなかった。
みるみるうちに光は私を取り囲む。
「ユウカ、どうし……な、なに……これ」
「お、お母さ」
「ユ、ユウカ! ユウヵ………」
なに……これ、全然声が出ないし体も動かない、一体どうなってるの……?
「やっと……やっときた……これは」
なに、誰の声!? お母さんの声じゃない、誰か知らない女の人の声が頭の中で響いてくる。
「いつか、私に会いに来て……」
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一体今どうなっているのだろう、さっきの声は聞こえなくなったけど、まだ体は動かないし声も出ない。
しばらく悶々と悩んでいると、なにやら声が聴こえてきた。
良かった、耳が聞こえる。
私は必死に助けを求めようとしたが、まだ声が出ない。
しょうがないので効き耳を立ててよく聞くことにした。
「おォ! 出来た、召喚出来たぞ!」
「おォ、よくやってくれた司教、これで我が国は救われる」
なにこれ、聞いた事ない言葉なのに意味はわかる……変な感じ、それに召喚とか救われるとか、まるで漫画みたいな事を言ってる。
もしかして、今のこの状況は夢で、目が覚めると寝坊してて学校に遅刻するとかそんな事にはならないよね……? え、ならないよね?
「これでやっと我が国も……ん? これは……」
「どうした、司教」
「へ、陛下……大変申し上げにくいのですが……」
「どうした、申せ」
な、なんだろう急に、さっきまでとは雰囲気が……。
「その、この者は……この者の特徴は予言とくい違うのです」
予言って、なにを言ってるんだこの人。
私のなにが違うんだ、神々しいオーラを放っていないからか? それとも邪悪なオーラかな。
「司教、なにが違う」
この人さっきからものすごく偉そうだ、陛下とか呼ばれていたっけ……。
「この者は、男ではないのです…………で、ですが、上手くいけばこの国にッ」
「そうか……」
その男がそういうと、辺りからヒソヒソ声と共に大きなため息が聞こえた。
な、なにこの状況……えっ私のこと男だって思ってたってこと? ちょっとまって、いくら私が絶壁だからって。
「お前たち、この者を処分しろ」
「しッ少々お待ちを陛下」
「くどいぞ司教! 召喚は……失敗したのだ」
「も、申し訳ありません、おうせのままに」
え、処分ってどゆこと……失敗って何? 私今からどうなるの?
あれ、なんだろう……意識が、遠のいていく……。
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うゥ、何だったんだろう、急に眠くなって、それから、えっと……はッ!
「そうだ学校にッ! あれ、ここ何処?」
何……ここ、見たこともない部屋だ。
それになにか変だ、今私はどんな体勢なんだ、座っているのか? 立っているのか?
どちらにしても、目の位置が高すぎる、まだ夢なのか……。
「いや、これはまさか異世界召喚!」
まァ、そんなことは無いのだろうが、夢ならもうちょっと堪能しよう。
さて、この部屋から出るには……あの扉から出られるかな?
「さてと、失礼しました……」
そう言って扉を開けようとすると、体がスルッと扉をすり抜けた。
なにこれ、扉をすり抜けた………! 便利な夢だな。
さて、外はどんな感じかな?
おぉ、凄い! これはお城だ! しかも窓からの眺めが凄くいい。
いつだったか、何かで見た中世ヨーロッパ風の街並みだ。
「綺麗だなァ……この夢、もうちょっと続かないかなァ」
「ねェ、今何か聴こえなかった?」
「いや、何にも聴こえなっかたけど」
ん? あれはメイドさんかな……美少女じゃないのかァ、現実は非情である。
「まッ、夢だけどね」
「ほら、また聞こえた」
あれ? 私が見えてないのか……? 少しイタズラしても許されるよねグフフ。
「おぅぃ」
「ほら、今聞こえ」
「たぁべちゃうぞぉ」
「「「「キャァァァァ」」」」
全力で逃げていっちゃった……そ、そんなに怖かったのかな? ちょっと反省しよう。
……エへへ。
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しばらく探索してたけど、夢が全然覚めない。
もう、起きたいんだけどなァ……ん、ここは何だろう……? 玉座か! 忘れてた、お城で一番大切な場所だった。
あれは、王様かな? 他にも何人かいる。
「しかし、どうなさるおつもりですか?」
「馬鹿をいえ、召喚に失敗したのだ、どうしようもない」
なんだろう、みんな暗い顔して……そういえば召喚とか言っていたっけ、まぁ夢なんだけど。
「やはり、あの者は生かしておいた方が……」
えッ、あの者って私だよね? 生かしておいた方がって事は……ま、まァ夢だから関係ない……。
「皆落ち着け、どちらにせよ生かしておけばこの国は終わる」
「し、しかし」
「手はまだある」
「陛下……ですが、それは……」
なんか私、すごく危険視されてない? うゥん、でもこの険悪な感じ……壊したくなってくるッ! よし。
「フハハハハ、貴様達は本当に私を殺せたと思っているのか?」
決まったぜ、フハハ。
「何だ今の声は!」
「ま、まさか死んでいないのか!」
「そんな、俺たち殺されるのか」
「「「「ギャァァァ死にたくないィ」」」」
ええ、なにこれめっちゃ驚いてるんですけど、私の方がビックリした。
「何だ! 司教、どういう事だ!」
「わッわかりません」
「ロレンス!」
「か、確証はありませんがあの者はカーラの加護で、すでに霊体化しているのでは」
えッ、霊体化ってどういう。
「なにッ! まさか生きていたのか、どうすればよい!」
「肉体が無いのなら光属性魔法で」
「わ、わたくしにお任せください、ー聖なる領域!ー」
え、この司教って人もしかして厨二……てなんか急に光って。
「「「「うわッ、痛ッ」」」」
なにこれめっちゃ痛い、と、とにかく逃げなきゃ!
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「ふゥ、ここまで来れば……」
にしてもさっきのアレ、何だったんだろう……私の事殺したとか言っていたけど、いやいやこれは夢。
でもさっきの光、すごく痛かった……ていう事は私本当に異世界に……ん? そうなると……。
「私、もう死んでるの?」
最後まで読んでくださりありがとうございます。
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