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TS(タイムスリップ)ダンジョンへようこそ

活動報告に載せたボツネタを、ふざけすぎた部分を修正して、ちょうど良い日なので投稿

 土と灰と黒煙がオレと敵の視界を遮る。

 オレはその先にいる姿の見えない鉄くずのロボットどもへ、左腕のビーム砲をがむしゃらに放った。効果の程は定かではない。地面をえぐり足止めができれば十分だ。もはやこの仮拠点は放棄して撤退するしかなかった。

 隣にいる水色髪の小さな先輩が、オレの身体を押し倒し、その頭上に銃弾が髪を掠る。黒髪の一部がひらりと散った。


「ここは私が食い止めるから、君は先に逃げて」


 先輩はそう言ってオレに微笑みかけた。

 その小さな身体に、なぜそんな強い心を先輩は持っているのか。


「いやだ。先輩を見殺しなんかにできない!」


 先輩の手がオレの頬を撫でた。ぬるりとした感触のその小さな手は赤い血で濡れていた。

 先輩が怪我をしている。いつだ。今、オレを庇った時か。


「いいの。私はもう十分に生きたから。みんなに守られてきたの。だから今度は私は君を守る番」


 先輩は左手にボロボロになった魔導書を抱え、右手から強力な電撃の魔法を放った。耳をつんざき目を瞑ってても網膜を真っ赤にするほどの電撃だ。

 ロボットどもが感電し、動きを止めた。正面に立っていた奴らは頭から煙を上げて爆発を起こしている。


「それに、私はまだ死ぬつもりはないからね」

「先輩……」


 オレは覚悟を決めて立ち上がった。


「生きてまた会えたら一発ヤらしてください」


 オレの軽口に対してシャチ先輩はなぜか、いつものようにオレの事を叱りつけずに、ただ懐かしそうに目を細めて微笑んだ。


「考えておいてあげる」


 それがオレにはとても悲しかった。


「じゃあまた」

「またねニシくん」


 オレは先輩を置いて駆け出した。

 きっと、もう会う機会はない。




 ここ、日本と言う名の島国は、大朝鮮によるロボット兵によって滅びに瀕していた。ダンジョンが海を超えて繋がり、奴らは襲いかかってきたのだ。

 国外に逃げようにも、世界もダンジョンにより変異した人間や動物によって文明は破壊されていた。

 日本の隣の中国も三つの国に分かれて三国志時代に戻り、渡航できる状態ではなかった。

 頼りの米国では、メキシコとの国境にダンジョンができてからずっと自国のことに精一杯になっていた。


 逆に日本が今まで安定していた理由の一つとして挙げられる人物が、逃げ延びた先のオレの前に立っていた。

 尻まで伸びる長い銀髪を揺らし、無い胸を反らして仁王立ちをしているぷにぷに幼女の名前はティルなんとかかんとか。オレ達の冒険者クラン、ゴッドノースのリーダーである。

 日本がダンジョンによる人体の変異の混乱が少なかったのは、彼女の動画投稿が理由の一つと言われている。他の国の暴力的、ヒーロー的な変異ではなく、ろりぷにかわいいの風潮が広まり、日本では美少女化ブームが起こったからだ。

 中国や米国は巨乳派が最大派閥であったため、ろりぷに派との連携が取れなくなっていった。


 それはさておき、その我らがリーダーのぷにぷに幼女がぽてぽてとやってきて、オレの前でむんと背伸びをした。

 日本の最後の希望と言われてきた幼女だ。


「ニッシーよ。このままでは日本は不死身のわち以外は全滅するじゃろう」


 オレは衝撃を受けた。まさか敗北宣言をされるとは。信じたくはなかった。だが、日本は大朝鮮による核攻撃で、すでに放射能耐性持ち以外は生物が住める環境では無くなっていた。わかっていたがオレはただ認めたくなかっただけだ。

 他の長寿メンバーと違ってオレはたかが15年生きただけのガキだ。生まれた時から空は灰色で、右も左も逃げ惑う美少女だらけであったが、昔は全く違う世界だったようだ。

 リーダーはその昔の日本の様子をのんびりとオレに語ってくれた。

 古き良き時代の、くそったれなダンジョンができ始めた頃の世界を。

 そして失った仲間を、クランの初期メンバーから一人ずつ語っていく。オレが知らない名前も多い。

 リーダーは背中を向けて数歩歩き、振り返った。


「そういう訳で、ニッシーには日本の、いや世界の運命が変わり始めた2020年に行ってもらう」

「なに? 映画の世界の話? ついにボケたのかロリババア」

「ボケとらんわ!」


 ボケババアはぷんすこしながら、カプセル容器に入った黒髪の男へ向かっていった。


「誰こいつ」

「わしの半身。ダンジョントラベラータカシじゃ」

「まさか!? 実在してたのか!?」


 彼の存在は半ば、冒険者の間で伝説となっていた。彼は予言をした。世界は42のダンジョンになると。それは外したからどうでもいいとして、世界のダンジョンは巨大化につれて数は減っていき、最終的に彼の実家のダンジョンが日本の最後のダンジョンして残ったのであった。

 それがここ。ゴッドノースの本拠地である。


「いや、日本にはダンジョンは2つあるのじゃ。それがこのタカシじゃ」

「ついにボケたのかのじゃロリ吸血鬼」

「ボケとらんわ!」


 ボケヴァンパイアはカプセルをぺちぺちと叩いた。


「まあ、信じられん話じゃと思うがの。こやつ、タカシの肉体はダンジョンで構成され、ダンジョンを内封しておるのじゃよ」

「やっぱついに……」


 最後の希望がこれでは、もう日本はだめかもしれない。


「わちは言ったじゃろ。おぬしを2020年に送ると。タカシはそれができる。できるはずじゃ。なんせタイムスリップ、タイムトラベル、時間遡行なんて創作にはありふれとるじゃろう?」


 ついに現実と創作と交錯し始めたよ。

 これならオレも先輩と共に戦って死ねばよかった。


「良いか聞け西川よ。使命を与えるのじゃ。2020年に跳びタカシと接触し友達になるのじゃ。そしてわちのイラストを見せてきたら『吸血鬼よりサキュバスの方が好き』と言うのじゃ」

「な、なぜオレの性癖を知っている!?」


 オレの夢はサキュバスとのイチャラブ生活であった。だがオレはサキュバスに出会えなかった。クソみてえな人生だ。


「いや待て、ということはティルちーは2020年にオレに会ってるのか!?」

「ふふん。ニッシーは昔からやたら勘の良い男じゃったのう」


 やばい。ちょっとこのノリが楽しくなってきた。

 日本滅亡を目前にオレも気が狂ってきたのかもしれない。いや、狂ってるのは生まれながらか。


「それでオレはどうすればいい。どうすればこのクソッタレな世界を変えられる?」


 オレを救ってくれたノースも、シャチも、聖女も、もうこの世にはいない。こんな世界を変えられるなら、オレはボケたのじゃロリにだって魂を売る……。いや、いいのか? 本当に?

 ぷにぷに幼女はツリ目な赤い瞳を光らせた。


「おぬしにわちの記憶の一部をやるのじゃ」

「そんなことができるのか!?」

「わからん」


 わからんのかい!

 苛立つオレをしゃがませて、のじゃロリ吸血鬼はオレの首にかぷりと噛み付いてきた。


「何しやがる!?」

「まじないじゃよ。さあゆけニッシーよ。タカシの頭に触れダンジョンに入るのじゃ」

「あ、はい」


 もう何でもいいや。とりあえずボケババアの言うことを聞いておこう。

 話を合わせて、開いたカプセルの黒髪の男の頭、なぜか頭頂部だけ金髪のそこに触れると、オレの視界はぐらりと揺れた。

 な!? ダンジョン転移の目眩だと!?


 薄れゆく意識の中で、のじゃロリの色違いの金髪碧眼が白い部屋の中で立っていた。

 そして色違いは振り返って言った。


TS(タイムスリップ)ダンジョンへようこそ」


 彼が白い壁に手を触れると、白い四角い部屋は弾けるように消し飛んだ。

 そして、オレの知らない青い空が広がっていた。

 のどかな澄んだ空気。金属のきしむ音も、獣の遠吠えも、銃声も爆発音もない、平和を謳歌する日本があった。


「これが……2020の日本……?」

『そうじゃよ〜』

「うわあ! 頭にのじゃロリが響いてくる!」

『わちじゃよ〜』


 気が狂いそうだ。誰か助けてくれ! 頭の中からのじゃロリを出してくれ!

 プアプアと騒音が背後から聞こえる。

 ああ、あれは(ハイエース)じゃないか。動いてるところ初めて見た。

 オレはハイエースに轢かれて死んだ。



――死んだはずのオレの意識に誰かが話かけてくる。

  それは神か。天使か。いや、のじゃロリだ。


『おおニッシーよ。死んでしまうとはなんとなさけないのじゃ』

「死んだのかオレは」


 何も役目を果たせずに死んでしまった。先輩、すまない……。


『ニッシーを轢いた車の主は冒険者のようじゃのう。懐かしい顔じゃ。ほれ、早く生き返るのじゃ』


 車から降りてきたのは大学生だろうか。オレのことを処分しようとしているようだ。

 ちょっと待ってくれと、オレは意識を取り戻し、頭を振って慌てて起き上がった。


「あれ?」


 オレを轢いたはずのハイエースが再び後ろからやってきた。

 オレは慌てて道の脇に避けた。


「時間が巻き戻っている……?」

『死んだらやり直しは常識じゃろう』

「何を言ってるんだ脳内ババア」


 こいつの言うことを聞いてると頭がおかしくなりそうだが、頼れるのは頭に住み着いたのじゃロリだけだ。

 オレはのじゃロリに導かれ、でかい屋敷に着いた。

 入り口で止められたが、偶然に居合わせた同じくらいの歳の、女みたいな顔の男にオレの境遇を話した。頭にのじゃロリを飼っていると言ったら、遠回しに頭がおかしい奴扱いされた。オレもそう思う。

 味わったことのない美味い飯を食いながら未来のことを話すと、彼は半信半疑のようだがある程度信じてくれたようだ。

 どうあれ身寄りのない頭のおかしいかわいそうな変な男であることは間違いはないので、優しい彼はオレにアパートの一室を用意してくれた。それに生活を支援してくれる偽装の家族もだ。

 オレがのんべんだらりと偽装の親からこの時代の常識を学んでいる間に、彼はオレの戸籍と学校への入学を用意してくれた。至り尽くせりのサービスだ。

 のじゃロリが「タカシはオタクだからオタクコンテンツにも触れておくのじゃ」とマンガアニメも平行して観せてきたので、オレはこの時代の常識と創作の常識が混じってしまった。

 まあやっつけだけどなんとかなるだろう。オレは入学式後にタカシとの接触を図る。


「よぉ! オレはニッシーだ! よろしくな!」

「はぁ……?」


 タカシは胡乱げな表情でオレを見た。オレはそいつの背中を叩いた。


「初見……だよね?」

「ああ初めてだな。頭の中ののじゃロリがお前と仲良くしろって言ってくるんだ。よろしくな!」


 完璧なファーストコンタクトだ。

 タカシはのじゃロリに興味を示したのか、どんな奴なのか聞いてきた。


「少し青い銀髪でやたら長くて、目が赤くて、偉そうなチビでな……名前はティルなんとか……」



 そしてミッション通りにタカシと交流を始めた。学校生活はよくわからんが、きっと大丈夫だろう。

 いつしかオレは頭の中ののじゃロリの声も聞こえなくなっていた。

 そんな頃、タカシはオレにのじゃロリのイラストを見せてきた。


「ああ、こんな感じだったな。でも、そうそう。オレは吸血鬼よりサキュバスの方が好きだ」


 ミッションはこなした。さてこの後はどうする? どうすればいいのじゃ?

 頭の中ののじゃロリの答えはない。

 ここから先はオレが考えて行動しろということか。消えちまったのかな、リーダー。


「あとそうだな……。オレは胸が大きいほうが好きだな」

「ロリ巨乳は邪道だろ……」


 提案は却下された。

 のじゃロリ巨乳化の改変は失敗か……。巨乳外交が成功すれば未来は明るいと思ったのだがな。

 ならばオレが巨乳アイドルになればいいのでは?


 未来は少しずつ変わりつつある。

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― 新着の感想 ―
[一言] すごすぎる
[良い点] 久々更新やったぜ [一言] まさかニッシーにそんな重い設定が…… ティルちーダンジョン外でも不死なのかよぉ。 恐ろしい世界だ。
[一言] これは……幻覚か? 幻術か……? それとも現実なのか……? うっ、頭が
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