エピローグ:おっぱいで目覚めましたー!
2020年1月6日。
俺がうっかり白い部屋で小麦畑を思い浮かべてしまったせいで作られてしまったダンジョン。ファミプリ(ファーミングプリンセス)ダンジョンのクリア記念を祝して、改めて北神家に集合することになった。
北神家の送迎車が来る前にカーチャンに呼び止められた。
「タカシー! 北神さんの家に失礼のないようにするんだよ!」
「わぁってるよカーチャン!」
「ティルちゃん。ちゃんとお兄ちゃんを見て上げるんだよ」
「うむ。わかったのじゃ」
「おかしくね? のじゃロリに頼むのおかしくね?」
そもそも俺はこのちんちくりん銀髪のじゃロリ吸血鬼サキュバスと同一存在なのだが?
カーチャンに説明したが、理解できるはずがなかった。カーチャンの中では「出来の悪い息子が帰ってきて、かわいい娘が増えた」としかきっと思っていない。違うのじゃ……。
「パパも挨拶に行った方がいいかなぁ?」
「いらんのじゃ」
「あんたはまたそうやってぇ! 子供の集まりに干渉するんじゃないよ!」
「でもなぁ。あの北神家だろう? もし迷惑を掛けたら、この町で暮らしていけなくなるよ」
すまんが、すでに迷惑は掛けまくっている。ダース単位で掛けている。パパンが卒倒するくらい掛けてる。
すでに我が家で溺愛されているティルミリシアは、また新しい服を着ていた。白くてふわふわなワンピースとコートだ。対して俺は全身真っ黒コーデである。ダーク俺。
「だっさいのう俺」
「やめろ。俺のことを客観的に観るんじゃあない!」
これでも俺は、謎の銀色の金具の付いたコートはそっとクローゼットの中に封印したんだ。
「うわっ。お兄ダッフルコート? だっさ」
「やめろぉ! 高1ファッションセンスをストレートにえぐるのはやめろぉ!」
「ごめん」
謝られるのはもっと辛い。カーチャンに「かわいくていいじゃない」と言われるのはもっと辛い。
「んぷぷーっ」
とティルミリシアが笑ってきたので、追いかけてとっ捕まえた。
「うぎゃあ! わちが俺になるぅ!」
「入れ替わり完了じゃ」
改めて見ると、俺だっさいのう。
毛糸の帽子でハゲ隠ししてるのが哀愁漂うのじゃ。
油断していたら俺に捕まって、また俺はだっさい俺になった。ださくねーし!
北神家の送迎車に乗って北神家に向かう。
もはや乗り慣れた車だ。
新年の挨拶もそこそこに、俺は宴会場へ向かった。
クリスマスの時と違って、今日はちゃんとニッシーもいる。
「どうよ俺かわいい?」
「ああ、かわいいかわいい」
自撮りピースしているメイド服を着ている赤髪巨乳の美少女。これがニッシーである。そう、スカーレットニッシーである。
ダンジョン内で妹マッチョに殺されたはずのニッシーだったが、生還した扱いになったようだ。ゲーム的に言うとクリアフラグがすでに立っていたようだ。
それゆえ、ラスボス戦でサイコガンだったニッシーはTSして戻ったため女になった。
ちなみに、メイド服は文化祭の時の女装メイド服である。やっぱり気に入ってる?
「能力に気をつけろよニッシー」
「ああ、わかってるわかってる。俺だって焼身自殺したくないからな」
「別にニッシーは死んでもいいけど、北神家は燃やすなよ」
「おおい!?」
ニッシーは俺の胸ぐらを掴んだ。あ、スカニシの赤いまつげ長い。
「これこれスカニシ。喧嘩は止めるのじゃ」
「お、おう」
ニッシーは戸惑いながら座布団に正座した。
俺とニッシーのやり取りならこのくらい普通なのだが、こののじゃロリと来たら。まあこののじゃロリも俺なのだが。
今はティルミリシアはいつものように星野さんに抱きかかえられているので、俺と接続していない。接続って変な意味じゃないぞ。精神共有な。
「お兄。祝勝会記念生配信するんだが」
「うむ」
「お兄邪魔」
「なんじゃと!?」
わ、わちのダンジョンクリアのおめでた会じゃぞ!? ぷんすこ!
おっと、またのじゃ口調が出ちまった。いっけね。
「女の子がキャッキャウフフするチャンネルに男が混じったら荒れるじゃろがい!」
「いや待て、のじゃロリチャンネルには男も出てただろ! いまさらだろ!」
妹は「ん?」と首を傾げた。
北神くんは、男状態でも美人だから置いといて、えーとほら、お前だよお前! 妹マッチョだよ!
「いや、あたしはティルちーのプロデューサーだし?」
「リングスウェットを破壊してただろ」
「いや、筋肉は別腹だし?」
「初めて聞くワードだな?」
わがまま言っても仕方ないな。だって、俺のチャンネルでもあるわけだし。カメラに映らない席に移るか。よいしょと。
おっと隣は南さんか。おいすー。
「あ、アズマくん……。えへへっ」
「はぁ。南さんかわいい」
俺がそう呟くと、南さんは自分の体を手で抑え、びくっと身を引いた。
いや、ちが、俺はそんなつもりじゃ……。
「いや、すまん。こう、いつもの癖で。ほら、ね?」
「べ、べつに、びっくりしただけで、アズマくんなら、その、いいけど……」
なんだと!? ついに俺にモテ期が来た!
「し、親友、だしっ」
「しんゆう」
にこー。にちゃあ。
くそ。今の俺、気持ち悪い顔してるのを自覚している!
「お兄、ちょっと待て」
「なんだよ。まだなにか?」
「そこカメラに近いから、めっちゃマイクに声入る」
「くそぁ!」
お、俺の居場所がどこにもない!
「良い事考えた。お兄ちょっとこっち来て。あと北神も」
「あ、はい」
北神家を借りたパーティーで、北神家長男を顎で命令する妹。ぷるぷる……。おま、そのうち後ろから刺されるぞ。
さて、廊下に出たわけだが。
妹は良い笑顔で親指を立てた。
「二人とも女装しようぜ!」
「なんでだよ!」
なぜそうなる?
「色物枠と思われれば問題ないだろ? ね、北神くん」
「はぁ。別に良いけど」
「いいのかよ!」
ぺしーん! 俺のツッコミが北神くんの胸に決まった。
うん? なんか顔赤らめてない? 別に変なとこ触ってねえぞ!
「んじゃ、メイド服でも着てきてねー。よろしくー」
スカニシとおそろいになっちまうじゃろがい!
「えっと、着替えに行こうか?」
「うん。ああ。え?」
意外と乗り気だな北神くん。
俺はふと察した。そういえば北神くんは、姉二人に妹が一人。そして北神エルフの時は、姉に服をコーディネイトしてもらったと言っていた気がする。きっと普段から姉におもちゃにされているんだ。きっとそうに違いない。
「つかぬことを聞くが、もし癇に障ったら謝る」
「なんだい?」
「もしかして、女装しなれてる?」
なぜ顔を赤らめる?
「いや、わかった。その、ごめん」
「そんなことないから! ないからなアズマくん!?」
「わかってるわかってる」
さて。北神家のようなでっけー家には、クローゼットというものが部屋一室になるらしい。金持ちはそういうものと聞いていたが、マジだったんだなぁ。
女性ものの服がずらりと並ぶ部屋に俺たちは入った。これ、俺が入っていいやつ?
「ここで待っていてもいいよ」
「え、あ、はい」
下手にうっかりクシャミでもして、ドレスに鼻水でも付けたら、俺の初めてを捧げても謝り切れない気がする。
北神くんは「そんなに高いものじゃないよ」と言っていたけど絶対に嘘だ。庶民の感覚と二桁は違っているはずだ。
俺の中での高い服って、5000円以上からなんだぜ?
「はいこれ。順番に更衣室を使おうか」
「え? 一緒でいいだろ?」
男同士なんだし。
なぜ顔を赤らめる?
「そうだね。ははっ」
「なんか変だぞ北神くん。熱でもある?」
俺はおでこをぺとって触った。うむ、熱い。
「やっぱ熱いぞ。大丈夫か?」
「大丈夫! 大丈夫だから!」
俺は背筋がゾワッとした。俺は思わず後ろを振り返る。いない。何だ今の悪寒は。
ああ、わかった。今の北神くんの台詞が、星野さんの台詞を思い出させたからだ。大丈夫と言いながら殺されたんだっけか。
今となっては良い思い出……ではないな。悪寒感じてるんだし。
「まあ、しょうがねえ。着替えるか」
男二人。背中合わせでメイド服に着替える。なんでメイド服があるんだ?
なんだよ、服だけじゃなくて、女性用下着まで用意されてるのか。しょうがねえな。トランクスを脱いで全裸になるか。
女性用下着って、付いてる事を想定されてないからキツイんだよな。あと鼠径部のところがゴムで締められて痒くなるし。小さいんだよこれ。
「んんんん!? なぁんでパンティーまで用意されてんのかぁ!?」
「アズマくん。ショーツっていうんだよ」
わかってるわかってるて。エロイナの癖で、下着はパンティーって認識があるねんて。
そこはどうでもいいって!
「メイド服のスカートからトランクスが覗いたら恥ずかしいだろう?」
「なるほど。そうだな。そうかなぁ!?」
おかしいだろ。そもそもなんでパンツが見える前提なんだよ。
うん。丈が短えな! ミニスカメイドだなぁ!
「聞いてくれアズマくん。僕はあるフェチズムを持っているんだ」
「なんだよ急なカミングアウト。雑な入りだな」
男同士じゃないと話せない内容ってことかい? 女性下着を付けてメイド服に着替えてるとこだがな。
「僕はね、長い靴下が好きなんだ」
「ああ、わかる」
太ももまである靴下な。
「あれ、見た目はいいけど、動くとずれ落ちていくんだよなぁ」
「うん。わかるわかる。紐で縛るタイプだと膝を曲げる時にくってなるよね」
「なるなるー」
わかるー。
ティルミリシアの姿でやたら長い靴下を穿かされたが、歩きにくいんだ。
「後ね。僕はサテンロンググローブが好きなんだ」
「ぱーどぅん?」
「サテンロンググローブが好きなんだ」
日本語かな?
北神くんが手に持っていたのは、つるりとした光沢のある長い手袋だった。ふむ。なるほど。
「エルフとか付けてそうなやつな」
「うんうん。それで僕も興味持ってね」
持つなよ。男をしっかり保て北神。
「アズマくんにも付けてほしいなって」
「わかった。乗ってやろう」
いやもう、ここまで来たら手袋付けたくらいで何も変わらんしね。
ふむなるほど。これは、ほうほう。
「どうだい、アズマくん」
「わかる」
「でしょー!」
こう、きゅってきてにゅんってする。そして右手と左手を擦った感じがこう、にゅるんとしてやばい。ずっと自分の腕を擦っていたくなる。
「でもこれ、給仕とかできないな。手先の感覚がない。メイド服には絶対に合わない」
「あははー。たしかに」
「でも見た目は合う」
俺は北神くんの趣味を全面的に認めた。
「ちょっと、触ってもいいかい?」
「お、おう」
北神くんのシルクサテングローブの手が、俺のシルクサテングローブの手をすっと撫でる。
おおう、なんだかぞくぞくくる。
仕返しだー!
「あぅっ」
すまん北神くん。これ以上君の趣味には付き合えない。深みに嵌って戻って来られない可能性がある。
俺は更衣室から逃げ出した。
そして廊下で妹と鉢合わせた。
「おーいいねー。似合うよーお兄」
「おっ。そんな事言われると自信持っちゃうぞ俺」
「ごめん」
「謝るなよ」
大丈夫だ。俺は色物でいいんだ。完璧な女装メイドは後からやってくるからな。
「いやでもほんと。お兄って顔が薄いじゃん」
「モブ顔ってこと?」
「実は女装はな、北神くんみたいな美形より、お兄みたいな薄顔の方が似合う」
「まじか」
なんて嬉しくない情報なんだ!
「あとお兄。自覚がないかもしれないが、前より美顔になってる」
「え、うそ。ほんと?」
あらやだうふふ。そういえば以前よりお肌がつるつるになった気がしますわ!
ポーションも使ってないけどなぁ。原因は思いつかな……あ。
使ってたわポーション。プリンセス俺が。
「ってことで、化粧もしようぜ!」
「後戻りできなくなるぅ!」
さて、俺はかわいくなったようだ。
どうせパンダみたいな化粧してギャグ要員になるんだろハハッと思っていたのだが、妹はガチで化粧しやがった。
北神くんも北神姉に捕まって、隣で化粧されていた。
もう何この状況。
「お待たせしましたー……」
と恐る恐るそろそろと部屋に戻ると、「おお~」という感嘆と、「ぶほっ」とジュースを噴き出した者がいた。
噴き出したのは轟さんとのじゃロリだった。
「ごほっごほっ。あーいやすまんアズマ?」
「なんで疑問形なんですか?」
「そっちこそなんで敬語……ああ、メイドだからか」
いや、轟さんのヤンキースタイルに気圧されるんですよ。オタク男ってやつはさ!
覇気に当てられるとデバフを食らう。それが俺。悲しい習性ね。
俺はしゃなりしゃなりと轟さんの隣に座った。恐れてるわけじゃないんだ。油断するとひらひらスカートから膨らんだ女性用下着が見えちゃうんだ。
「轟さんには助けられました。身体を元に戻して頂いて……」
「ああいや、ぶふっ」
俺が頭を下げると、フリルカチューシャがぽとりと落ちて、頭頂部のきのこハゲを見られてしまった。
「ああ、すまっ、ごふっ、げふっ」
「何か?」
「やめろ! その頭を見せるなぁ!」
別に責めてませんけど?
無理やり頭のきのこを引き抜かれたせいでできたハゲなんて気にしていませんけど?
「いや、しかし、あれだな。かわいくなったなアズマ」
「まじすか。俺自信持っていいすか」
「おれよりかわいいじゃねえか」
「いやそれはないっすよ。轟さんもクールビューティーじゃないすか。かわいいっすよ。へへっ」
知らんけど。
クールビューティーというか、メンチきられたら背筋がクールになるタイプだけど。
「ちょっ、何言ッ……! 死ね!」
そんなクールビューティー轟は急に顔を赤くして、顔を手で隠しながら慌てて部屋から出ていってしまった。
やばい? 怒らせた? 俺殺されるの?
おろおろしていたら、竹林さんが隣にやってきて、俺の肩に手を置いた。
ははーん。さては竹林さんは俺に惚れてるな?
女子は嫌いな男には触れないからな。つまり、スキンシップを取るということは惚れてるって合図なのさ。俺には分かる。
「アズマくんて鈍感系主人公?」
「むしろ敏感系モブだと思うけど?」
ふっ。モテる男は辛いぜ。
竹林さんの事は地味だけど調子に乗りやすいタイプだと思ってる。あらやだ親近感。
さらに好意を感じたならば、俺も意識しちゃいます。
男はね、自分から触れてきた女子を集めてハレムを作れると思ってるんだ。むしろ作っちゃう。夢の中でね。
「女装メイドアズマくんってかわいいのに表情は気持ち悪いね」
「それ褒めてるの? けなしてるの?」
けなし成分の方が多くない?
もしかして竹林さんは俺に惚れてない?
いや、もしかしたら表情筋が固くなりすぎてるのかもしれない。うん。
「女装メイドに似合う笑顔ができるように努力するよ」
「うん。頑張って。そしたら北神くんのメイドとツーショット撮らせてね」
なぜそうなる? わからん。
俺は女子の心が読める男だ。
ということは竹林さんは女子ではない。そうモンスター。モンスターなのである。
「私にも撮らせてねー! アズマくん!」
「ぬああっ」
のじゃロリを引きずりながら現れた星野さんも同じくモンスターなのである。
俺は視線を下に向けながら、「あ、はい」としか答えられなかった。
だって、星野さんの顔はかわいいんだもん!
以前、星野さんの事を「北神エルフと比べたらその辺のグループアイドルレベルだわ」とか失礼な事思ったけど、いやこれもグループアイドルに失礼? まあいいや。思ったけど。
ポーションやら上級ポーションを使い続けた星野さんは、美しさに磨きがかかっていた。
そんな黒髪ぱっつん美人の星野さんは、新年の集まりだからといってわざわざ振袖を着てきたのだ! 俺のために!
女子が特別な格好をしてきたら、自分のためだと思いこんじゃう。それが男なんだ。すまんな。
視界の端で、妹がトナカイの着ぐるみを着て南さんに絡んでるのが視界の端に映り、思わずむせた。
「げふっ、ごほっ……」
「アズマくん!? 大丈夫?」
そういって星野さんは俺の背中を撫でてくれた。
俺は星野さんに惚れた。
男はね、ちょろいんだ。
そんな俺を、馬鹿な男だと思う人もいるかもしれない。
だけど、黒髪ロングを目の前でさらさらされて、振袖美女に背中を撫でられて心配されて、大きいおっぱいが上からチラ見して胸元のほくろが見えちゃったりする状況で、惚れない人類おりゅ? いやおりゃん!
星野さんは正室候補だな。にちゃり。
「メイド服いいなー。あっそうだ! ティルちゃーもメイド服着ようよ! ね! いこっ!」
「おわぁああぁぁ……」
星野さんはのじゃロリを抱えていった。竹林さんもそれに付いていった。
ふむ。正室はないかもしれん。俺は冷めた。
俺は女子の感情に詳しい冷静な男だ。伊達に幼女をやっていないからな。
しばらくして、黒もやを出しながらのじゃロリメイドが帰ってきた。
うつろな目をしておる……。一体何があったのだ。
俺はティルミリシアに触れた。触れれば意識と記憶が共有されるのだ。
しかし今回に限ってそれが起こらなかった! 一体なぜ!?
あ、手袋してたわ。てへぺろ。
手袋を外して、ティルちーに触れる。すると、モンスター二人に襲われるわちの姿が……!
「お、恐ろしい体験じゃった……」
「ぶるぶる……」
わちじゃった俺が目の前で震えておる。
女装メイドの姿で休めわち……!
「北神くんとの更衣室体験! 美味しい思いしおって!」
と、俺が言う。
いや、おかしいじゃろ。
「それを言うなら、女子二人にきゃっきゃうふふと着せ替えられるわちこそいい思いじゃ!」
と、わちが言う。
お互い苦しみを分かち合うはずが、嫉妬し合ってもうた。
わちたちは同じ者同士のはず。認め合おうお互いに。
がしっ。
「うわー。お兄がロリコンに見える」
「「ロリコンじゃ!」」
ハモりながらロリコンと認めてしまった。
認め合うってそういうことじゃない。
「みんな集まったねー!? それじゃあ始めようかティルちーゲーム!」
地獄のゲームが始まった。
俺とのじゃロリは抱き合いながらぷるぷる震えた。ぷるぷる……。
若干記憶を飛ばすとするのじゃ。
ふぅ。なんとか乗り切ったのじゃ。
「えーと、北神くんはー、アズマくんにー告白するー!」
「俺関係なくない!?」
乗り切ったと思ったらまだ続いておった。
というか、竹林さんがわけわからん命令をしておった。
北神くんは短いメイドスカートを抑えながら、恥ずかしそうに立ち上がった。
「やはり、気づかれていましたか」
なにがじゃー!?
何を満更でもなさそうな顔をしておる俺!
危険じゃ! 入れ替われ!
ふぅ。
ふむ……。北神メイドのハレム入り……ありだな……。
「ああ、これ生放送されているんだっけ? ミュートにできるかな?」
ヒュウヒュウと周りが囃し立てる中、北神くんの一言でシーンとなった。「冗談ではなくマジかこいつ」という空気になった。
「アズマさん?」
「あたし!? なんざんしょ!?」
「ミュートにした?」
「はいい!」
ガチ空気に妹もビビってる。「実はミュートにしてませんでしたー」とかいうサプライズは許されなそうな雰囲気だ。
「なんでミュートにしてもらったかと言うと、能力に関することだからなんだけど」
あー、そういうことかーとある種ほっとした空気が流れた。
「僕、アズマくんに魅了を受けてるみたいなんだ」
「ええー!?」
「なんじゃとお!?」
知らないんだけど!?
俺なにもしてないんだけど!?
なんかみんな変な目で俺を見てるけど!?
「ティルミリシアちゃんは、本当はサキュバスかもしれないって言ってたよね?」
「うむ」
「唇での接触が能力発動の条件じゃないかって思うんだ」
「ふむ。ふむ?」
ニッシーの首にはかぷっとしたことはあるけど、北神くんに何かあったっけ?
北神エルフとのポッキーゲームかぁ!
「告白とは違うけど、ちょうどいい機会だから言っておこうと思ってね。だからその、違うんだ、アズマくん。わかったね?」
うん? つまりどゆこと?
俺は女子の心の機微が読める男。おっと北神メイドは女子じゃなかった。まあいいや女子扱いで。
「つまり、北神くんは俺に惚れてるってこと?」
なんてこった! 正室候補が決まっちまったぜ!
「だから違うってば!」
慌てる北神くん。ふっ。短いスカートから白いパンティーが見えてるぜ。
「ちょおっと待ったぁ!」
ここで立ち上がる赤髪の女。
ニッシー!? スカニシ!? お前まさか!?
「俺もアズマのこと、好きだぜ」
三角関係が出来たぁー!? なんだこの関係図はぁ!? 破り捨てろこんなもの!
いや、落ち着け。ニッシーは本気じゃない。
あいつ、ノリで混ざってきただけだ。面白いこと言ってやったぜっていう表情が見える。危ない。騙されるところだった。
「わ、私もアズマくんのことしゅきれす!」
南さん!?
なんだ南さんか……。南さん!?
ああ、いつもの友人として……という顔じゃない!? 本気!? モテ期きた!?
「あたしも……お兄のこと、好きだよ? ちゅっ」
混ざってくんな妹ぉ! 気持ち悪いわー!
「アズマぁ、モテモテだなぁオイ。ちっ」
轟さんは不機嫌そうだ。ある意味助かる。ここで続けて乗られても反応に困る。
「わたしはキタアズが良いと思う」
竹林さんはほっとくとして。
「私はアズキタが良いと思う」
星野さんもほっとくとして。
俺はティルミリシアを見た。
ティルミリシアも俺を見た。
俺はティルミシリアを抱きかかえた。
「トイレ行ってくるのじゃ!」
俺はその場から逃げ出した! ぴゅーん!
「のうのう。今気づいたのじゃがのう」
「なんだわちよ」
「俺のきのこハゲに髪の毛が生えてきておるぞ」
「まじか!?」
俺は洗面所の鏡に頭を映そうとした。ぐぬぬ。見えん!
「感覚共有してるんだから視界も共有できるんじゃないかのう?」
「よし! それだ! ぬぬぬ! 見えた!」
見えた! 俺のハゲ!
ほんとだ! 金髪で目立たないけど毛が生えてきてる!
ん? なんで金髪?
「金髪と言えば」
「じゃよなぁ」
そうそう。俺たちにはもう一人いた。金髪ショタ精霊姫のティルオくんだ。
よくよく考えるとティルオも変な存在だった。精霊姫なのにちんちん生えてたし。
ようするにあれ、俺がダンジョンで変身した姿なんだよな。ティルミリシアとは別に。
もう会えないと思っていたけど、こんなところに残っていたか。ふふっ。俺を変な髪型にしやがって。キノコよりはいいけど。
「もしかしてピカピカもできるんじゃないかのう?」
「よーし! ぴk」
どこここ。
能力でピカピカしようとしたら、ぐわんと視界が揺れて、真っ白な一室に降り立った。
うーん。いやわかってる。わかってるて。ダンジョンね。はいはい。
……どこここー!?
現実世界でピカピカしても今まで効果なかったじゃん!
出口ないんだけど?
ゲートがない。白いぶよんぶよんの壁で覆われてる。これあれか? またダンジョン創る流れ?
いや待て。落ち着け。前回は焦ってうっかり小麦畑が頭によぎって大変なダンジョンができてしまった。
うーむと考えて上を向いたら、ぽっかり穴が空いていた。なんぞ?
白い布がきゅっと皺になってるのが見える。
うーん。どう見てもパンティーだな。パンティーが見える。
そしてぐらりと穴の映像が変わって、星野さんを下から見た顔が見えた。
その後に振袖の胸元のおっぱいーんのほくろが!
うへへへへっ。
うむ。
とりあえずわかった。俺は感の鋭い男だ。
これ、俺の禿頭から見える光景だ。
すっごい頭のおかしい事言うけど、いま俺は、自分の頭の中にいるらしい。なんじゃそりゃ。
うーん。外のみんなが慌てているということは、おそらく俺は気絶してるのだろうか。
そりゃそうだよね。だって意識がここにあるんだもの。
じゃあそろそろ戻ろうか。
ダンジョンの脱出方法? そんなのほら。ピカピカーって。
ぴk。
「ただいまっちょ!」
「心配掛けといて、第一声それかお兄!」
妹に蹴られた。酷くね?
あ、南さんとかガチ泣きしてる。いや、ちょっと卒倒しただけでしょ? 多分。平気よ平気。
「やっぱりほら! 私の胸で蘇ったよ! だってアズマくんいつも私の胸をいやらしい目で見てたし!」
「星野さん!?」
見てない! そんな見てないよ!? でもさ、だってさ、たわわな実が成ってたら誰だって見るじゃん! 見るじゃん!
いや、そうじゃなくて。
もっかい気絶していい?
「やはり胸ですか……」
「いや、違、聞いて?」
北神くんがぽつりと呟き、みんながうわぁという目で俺を見てきた。
さて、どう言い訳しよう。
そもそもどうやって説明しろっていうんだよ。
今まで以上に頭おかしいって思われるだけじゃん!
「どうやら俺の身体はダンジョンらしい」
「お兄、頭の打ちどころが……」
やっぱそうなるよねー! はい! この話はもうおしまい! おっぱいおっぱい! おっぱいで目覚めましたー! それで良し! 終わり!
おつぱい!




