72話:ダンジョンから出たら俺がいたのじゃが
さて。目の前で星野さんに抱きかかえられてるのじゃロリサキュバスが可愛すぎるのだが。
星野さんがティルミリシアをゆらゆらと揺らした。
「よくわからないけど元に戻れて良かったねー。アズマくん」
「う、うむ。だけどなんじゃろう。凄く惜しい気分がしておる」
「若干のじゃが抜けてないぞ俺よ。元に戻ったのじゃろう?」
のじゃを付けて喋るのが癖になってるんだ俺。
のじゃ付けてるぞとのじゃロリに指摘されるのがなんか悔しいのじゃが?
「お兄、あたし混乱してきた」
「大丈夫だ。俺もだ妹よ。だって、さっきまで俺もアレだったんだぜ?」
「アレ言うな俺よ。わちなんか戻れなかった方のわちじゃぞ? 俺は戻れた側なのじゃから良いじゃないか」
ううん。確かに俺は元に戻りたいと思っていた。
そして元に戻った。
その結果、なんで俺の精神が2つになって、俺とのじゃロリになっておるのじゃ?
しかも俺はのじゃロリに未練を感じていて、のじゃロリの方は元に戻れなかった事を悔しがっている。
くそう。もう一回入れ替わればいいんじゃね!?
「あれはアホなこと考えてる顔じゃのう」
「のじゃロリの癖に生意気な!」
俺はのじゃロリぷにぷにほっぺをつまんで引っ張った。うにょーん。
その時、俺とのじゃロリの精神が繋がった。
俺はティルミリシアの赤い瞳を見ているのに、俺の黒い平凡な顔を見ている。
俺はティルミリシアの頬を掴んでいる感触があるのに、俺も頬がつねられて痛みを感じる。
「おわぁ!」
「ぬわぁ!」
なんじゃなんじゃ!?
驚いてわちの頬をつねってた俺が後ろにひっくり返った。
んもう。ほっぺが痛いのじゃ。
ん?
「のじゃロリになってるのじゃあ!?」
「俺になってるのじゃあ!?」
妹が目の前で俺の頭をスリッパでひっぱたいた。
「なにしとん、お兄」
「いや落ち着け妹よ」
「落ち着くのじゃ妹よ」
「二人で話しかけてくんなー!」
わちは俺とアイコンタクトした。
どうぞどうぞ。
どうぞどうぞ。
「黙るなー!」
「しょうがないだろ」
「しょうがないじゃろ」
「二人同時に話すなー!」
ど、どっちもわちなんだから思考が被るのじゃ……。
良い事考えた。わちは俺に手を伸ばす。
察した俺がわちの手を掴んだ。
わちと俺は精神を同居した。
「「ふぅ。これで良いのじゃな」」
「二人でハモんなー!」
ぺちんぺちんと俺とわちの頭を叩かれた。感覚が共有されてるから二重に叩かれてるのじゃが。
「「このまま聞いて欲しいのじゃ」」
わちと俺はハモりながらみんなに説明した。
どうやらわちと俺は2つの精神ではないようだ。
接触していると、2つが交わって、同じ感覚を共有できる。
そして離れると、それぞれがどちらかに分かれる。
「「つまり、同時存在TSなのじゃ」」
「わけわからんわー!」
ぺしんぺしん。またダブルでスリッパを叩かれた。
「まああれだろ? いつでも入れ替われていいんじゃねえか?」
「「じゃよな!」」
「ハモるなー!」
俺はティルミリシアと引き剥がされた。んもー。
ほっぺた膨らませてるのじゃロリかわいい。いや、あれの中身は俺だ。俺かわいい。いや違う。待て、混乱してきた。
「とりあえず戦いは終わった。終わったのだ」
「そうじゃな。またダンジョンが開くといいのう。わくわく」
「やばい、ティルちーかわいい」
「ふふん。かわいいじゃろ俺よ」
妹が頭を抱えて呻いた。すまん。俺にはどうにもできない。
「とりあえずさー。北神くんちに行って、ポーション風呂入ろっか!」
「そうじゃな」
「そうだな」
妹が俺の頭をスリッパで叩いた。
「お兄は別!」
「ええー!?」
だって、今までは一緒だったじゃん!
「ずるいぞわちよ!」
「ふふん。俺よ。残念じゃったな」
「みんなー! こいつの中身も俺だぞ俺ー!」
妹が俺の頭をスリッパで叩いた。
「ティルちーはティルちーなの! お兄はお兄!」
「いやだから……」
「ふふーん」
この生意気なのじゃロリめ!
俺はティルミリシアに掴みかかった。
あ、幼女やわらかい。
「す、すまん」
「いや、大丈夫じゃ」
ふう、全く。急に掴みかかってきおって。
あれ? 今度はこっちになってるー!?
「わちになったぁー!?」
「俺になったぁー!?」
妹が俺の頭をスリッパで叩いた。
すまん。もう一人の俺よ。俺の分体よ……。
さてはて。みんなの脳みそをぐりんぐりんにかき回しただけで、わちとしては意外とすぐに慣れてきた。
面白い現象としては、接触して意識が合わさった時に、別々に体験したことが記憶も共有化された事だ。
つまり、お風呂でポーションむふふ体験をしなかった方の俺も、した記憶となり、また、男風呂でもわわ体験した方のわちも、その記憶が蘇った。
わちには男風呂と女風呂に入った記憶が残る結果となった。
「少し混乱はしたが、すぐに慣れるじゃろ」
「だな」
さてと。
俺はティルミリシアをベッドの中で抱きしめた。
「待つのじゃ俺よ。わちも俺だから男の欲求と生理的なあれはわかるのじゃが、いかんだろう」
「だけどわちも期待してるだろ? 触れてればお互いの意識が繋がるんだから誤魔化さなくても」
「ええい! 乙女心のわからん俺じゃな!」
「俺もお前なんだから分かってるって」
俺が顔を近づけると、わちはきゅっと白いまつげの吊り目の瞳を閉じた。
お互いが同じ精神の上に繋がっているのだから、これから何をしようとしているのか解る。
唇と唇が触れかけた瞬間、部屋の扉が開け放たれた。
「邪魔するぜお兄!」
「げえ! 妹!」
「ん? 何してんの二人とも」
俺とわちはぱっと身体を離して口笛を吹いた。ひゅひー。
「まあいいや。ティルちー借りてくよ」
「んな!」
ティルミリシアは妹に捕まり部屋にお持ち帰りされてしまった。
俺は一人部屋に取り残されるがホッとする。
「あぶねえとこだった……」
もう少し遅かったら変態ロリコン扱いが免れなかった。いや事実なんだけど。少し言い訳させてもらうと向こうのわちが求めてきた訳で、俺が発情した訳じゃないんだからね! 勘違いしないでよね!
俺が一人ツンデレをしていると、ベッドの下が光り輝き出した。
「何じゃあ!?」
ベッドの下って何かあったっけ……エロ本……はない。
ああそうだ! ミノタウロスの斧だ!
「なんで斧が光ってんの」
ベッドの下を覗いてみたら、そこにはダンジョンゲートが出来ていた。
「ダンジョンだあ!?」
ダンジョンがそこにあったら突入するだろう?
もう我慢できねえ!
「いってきやぁーす!」
ぐわりといつものように視界が揺れる。
俺は地面に横たわっていた。
青い空。波の音。潮の香り。ここは、砂浜か。
「うっ……」
左腕が痒い。何か宝石のようなものが埋め込まれていた。これは、また変身型ダンジョンか?
さらに開放型、しかも巨大サイズのようだ。海の向こうははるか水平線で、海岸の先もずっと続いている。
背後には森が広がっていた。そしてそこには、馬くらいのサイズの恐竜が牙を剥いて俺を狙っていた。
「げえ! ユタラプトル!?」
飛びかかられてマウントを取られ、頸動脈を牙で噛みつかれて俺は死んだ。
そう。これはとあるサバイバルゲームの世界に酷似していた。
世界中にファンを持つその大名作ゲームの名はARC。いかに慎重に準備を重ねようと何百回と死ねる、めちゃくちゃハードでヘビーな世界である。
ご愛読ありがとうごじゃ!
本編はこれで完結なのじゃ。おまけエピローグをまた後日(1月6日)アップ予定じゃと。またの!




