61話:ハイエースでハイエース
USBカメラを起動したパソコンの前で、妹が左側、わちが右側からフレームインする。
「どもーアズマヒメでっす!」
「ティルミリシアじゃ」
「二人合わせて、アズマッチョでっす!」
うん? そのコンビ名、わち入ってなくね?
そもそも妹は今は女子高生スタイルなのでマッチョ要素もない。
「ショートコント、誘拐」
「まて、漫才じゃなかったかの?」
「コントと漫才の違いってなに?」
「知らぬ」
ググったら、コントは寸劇で、漫才はセリフの掛け合いの笑いと出てきた。
「今からティルちーが面白いこと言います!」
「急に無茶振りするのう……」
「はやくぅー。あっ、そろそろ家でないと!」
「なんで登校前にこんなことしとるんじゃ」
パソコンをスリープして、わちは慌てて妹の後を追った。
はふはふと白い息を吐きながら駆けて妹と手を繋ぐ。
慌ててスカートのポケットに突っ込んだスマホがぶるるんと震え、通知を見てみたらウルファング中原からLIMEが来ていた。
「ぬ?」
「どしたティルちー。面白いネタできた?」
漫才のネタなんて考えてないが。
「珍しい人から連絡が来たのじゃ」
面倒ことじゃなければよいが。メッセージ内容は『かくまらせてほしいす』とだけ書いてあった。
100%面倒ごとの予感しかしないのじゃが!?
「どゆことじゃろ?」
「どれどれ? ふーむ……北神くんに投げよう」
「妹よ。北神くんを便利アイテムか何かだと思ってないかの」
「本当にやばい案件だったら北神家のセキュリティの方がいいっしょ」
「あ、意外とちゃんと考えとる」
妹はピンク髪だけどこう見えて頭は悪いわけではなかった。
しかしよくその髪色が校則で叱られないな……。うるさくなったらわちの銀髪も言われそうじゃが。
そもそも幼女の時点で場違いだった。
今日も学校はおおむね平和であった。
北神くんが北神エルフになっていたので、ツーショット写真をねだられたくらいだ。
そして「金髪モードだったら姉妹風だったのに……!」と悔しそうに言われたけど知らんがな。
放課後。わちはせっかくだからと北神エルフのテニスを観に、テニスコートへ向かうことにした。
テニスコートは一度校庭を出た先の、道路を渡った先にある。
帰り支度の格好で校門から出て、テニスコートへ向かおうとしたら、真横で黒いバンが停まった。
わちは「なんじゃろ?」と振り返ったら、バンから男たちが降りてきて、わちを掴んで車の中へ放り込んだ。
「ぬう!? んぬううう!!」
は、ハイエースでハイエースされるぅ!
「痛い目に遭いたくなかったら静かにしろ」
「ふぐぅうう!!」
幼女を誘拐するなんて、静かにしてても痛い目見させる気満々なんじゃろ!
わち知っとるんじゃから!
「おい! 早く放り込め!」
「へーい」
わちは座席の下のスペースに転がされた。
ぐわん。
ぼてんっ。
「いじゃー!」
カーペットの上でお尻を打って悶絶してると、男たちも座席の下のスペースにやってきて、わちの前に立った。
というか、座席の下のスペースが広いわけないじゃろ。
そしてさっきの一瞬のめまいはもしかして。
「ダンジョンじゃと!?」
「ようこそ。俺ら、冒険者パーティー九蓮宝燈のアジトへ」
あ、なんかよくわからんけどすごくやばい気がする。
ダンジョンってことはスマホのGPSも効かないじゃん。
「おいお前ら! 歓迎してやれ!」
「へーいリーダー」
わちは両側から抱え起こされ、「んにゅう!」と抵抗するも幼女の力ではどうにもできなかった。
しかもわちを掴んでいる手がただの人の手ではなく、熊のような獣人の手であった。
そこでわちはピンと来た。
「ウルファング中原を追ってたのもおぬしらか!」
「ふっ。君のような勘のいいガキは好きだよ」
好きなのかよ。それはそれできしょい!
わちは男の手によってベッドに変形するタイプのソファに座らされた。
このままじゃわち、汚されてしまうー!
「ははははっ! このままじゃ汚れちまうだろ!」
後ろからわちの長い銀髪を持ち上げられ、首に手を回された。そして紙エプロンを首のうしろできゅっと結ばれた。
そして目の前のテーブルの上には、コーヒーカップとショートケーキが皿に乗っていた。
「おいガキ! コーヒーは飲めるか!?」
「ふんっ。ミルクと砂糖はたっぷりじゃ」
カプチーノの牛乳が注がれてカフェオレにされ、角砂糖を3つ浮かばされた。
「わちをこんな目に合わせてどういうつもりじゃ?」
「大方検討は付いているんだろう? ティルミリシア=フィレンツォーネ」
こ、こいつ、さらりとわちのフルネームを!?
妹だって間違いなく覚えてないのに!
「なるほど。わちのダンジョンが目的か」
「御名答」
わちはパチパチパチと拍手された。わーい当たったー。ケーキもぐもぐ。
「ほえはあ、ほふうひはらひはへへはんぐいいじゃろ?」
「なんて?」
「それなら、普通に話しかければいいじゃろ? なぜこんな誘拐まがいなことをしたんじゃ」
そう言うと、わちを囲んでいた3人の男が笑い出した。
左後ろの男は、手が熊だ。顔も毛深いというより、熊の剛毛がびっちり生えていた。
右の男は、よく見ると脚が蹄だ。
そして正面のリーダーは特に変なところはないが、頭に巻いていたバンダナをしゅるりと外すと、頭に角が生えており、おでこに目が付いていた。
「どうだ?」
「うむ。話しかけられても逃げる」
「だろうな」
正面の男はバンダナを巻き直した。
「俺たちだって事を荒立てたかったわけじゃねえんだ。ウルファング中原と連絡が付かなくなったから仕方なく、な」
「奴はわちが匿ったのじゃ」
「別に過去のことでケジメつけようとしてるわけじゃねえんだ。あいつは勝手に逃げ出した」
「どうだかのう」
わちはカフェオレをずずっと飲んだ。甘い。
「はっきり言おう。俺たちの目的は……アイドルになりてえんだ」
「ぶふぉっ」
カフェオレが正面の男に降り掛かった。
ダンジョンから出ると、通知が凄いことになっていた。
ハイエースでハイエースされるところを見られていて、北神くんが全力を出して捜索していたようだ。
わちは慌てて、北神くんに連絡を取った。
「わちは大丈夫じゃ。犯人の目的はわちのダンジョンじゃった」
「そ、それは大丈夫ではないじゃないですか!」
「いやそうではなくてな。TSが目的のようじゃ」
「……は?」
「アイドルになりたいそうじゃ」
「頭おかしいんですか?」
わちは頷いた。
そしてリーダーの方を向いた。
「頭おかしいのかと聞かれたのじゃ」
「角は生えてる」
「そうじゃなくて」
ひとまず北神家で合流することとなった。
そして冒険者を名乗る男たち4人(運転手含む)は、過去に因縁があったらしいウルファング中原(美女)と再会。ウルファング中原は逃げ出すも、男たちに捕まった。
「ずるいぞ!」
「羨ましい! お前だけ!」
「俺たち仲間だよなぁ? なあ!」
「金儲けさせろやぁ!」
ウルファング中原は観念した。
そしてアイドル冒険者グループ九蓮宝燈がTOUYUBEで衝撃デビューした。
美女たちが非合法ダンジョンを攻略していくという危険極まりない内容で、彼ら、いや彼女たちはレッドオーシャン化しつつあるダンユーバー界を駆け上がっていくのであった。
後に、九蓮宝燈×のじゃロリ吸血鬼の伝説となるダンジョンライヴが行われる事になるのだが、それはまた別の話。
ひはひほうひ!




