60話:今年はサンタさんがクリスマスプレゼント届けてくれるからなー
高度な交渉術により北神くんからお古のパソコンを貰えることになった。
ばんじゃーいばんじゃーいと喜びながら夕食時にそのことを話したら、食事中のパパンは静かに箸を置いた。眼鏡に中指を当てて上げ直し、キリリとわちを見つめた。
「パパもおニューのパソコン欲しい」
何言ってんだこいつ。
ちなみにパパはわちがロリ化したら「その姿でトーチャンと呼ぶのは似合わない。これからはパパと呼びなさい」と言ってきた病人(嘘)だ。
のじゃロリ吸血鬼チャンネルの動画も全てチェックしているらしい。
「ダメよ。ダンジョンで景気悪いんだからぁ。全く困ったものねぇ。みんなダンジョンダンジョンってこんなわけわからないものに夢中になっちゃって」
ダンジョンで経済が回るということはなかった。ダンジョンで儲かっているのはせいぜい登山用品メーカーや、保険屋くらいだろう。ワーキングマンみたいな工具などを取り扱ってる店も好調だが。
「タカシもダンジョンで遊んでばかりいないで、将来大きくなった時のこと考えなさい」
「ぐぬぬ……」
そもそも大きくなるのじゃろうかこの身体。設定上では幾千の時を生きる吸血鬼……つまり1000歳を超えるちんちくりんなのじゃが。
そして金髪ショタフォームでは精霊姫じゃ。精霊は歳を取らぬ。
わち、大きくなれぬかもしれん……。
「ヒメも、スマホでビデオ撮って遊んでばかりいちゃダメだからね!」
「へーい」
カーチャンはTOUYUBEの動画撮影の事がわかっていない。きっとその事だろう。
食事が終わり、パパンはリビングのソファに座った。そしてわちを呼んだ。
「タカシ。食べ終わったならこちらへ来なさい」
「あいっ」
わちはパパンの膝の上に座った。
パパンはわちがこの姿になってから、やたら甘えさせたがる。そしてカーチャンにも釘を刺された。
「んもー。またそうやって甘やかせてー」
「いいじゃないか。ヒメはもう抱っこさせてくれないんだし」
女子高生の娘を膝に乗せるパパンはいないじゃろ。いるかもしれんが。
しかし幼女化した男子高校生を膝に乗せてニコニコするパパンもいないと思う。
どういう心境なんじゃろう。
「今年はサンタさんがクリスマスプレゼント届けてくれるからなー」
「わぁーい」
ううむ。完全に幼女として見ておるな……。
そして今度は妹が、パパンの膝の上からわちを奪い取った。
「あたしの抱き枕を加齢臭にすんな」
抱き枕じゃないが。
「むぅ。パパも抱っこして寝たいぞ」
パパンと寝るのはもっと嫌じゃが。
そして翌日の日曜日。
北神家の黒服紳士たちによって我が家にパソコンが搬入された。
だが、妹が勝手に、わちの部屋ではなく妹の部屋へ指示していた。
「わちのぱしょこん……」
「だが待って欲しい。北神くんはあたしのものだろ?」
「いや、北神くんは妹のものじゃないが」
「ということは、北神くんのパソコンはあたしのものだろ?」
「いや、わちが貰ったものじゃが」
「ということは、あたしの部屋に置いてもおかしくない」
「話し聞いとる?」
黒服のみなさん。こっちこっち。こっちの手前の部屋じゃ。
「だってだってー。ティルちーはゲームにしか使わないじゃん!」
「これで自由にパソコンゲームできるのじゃ。ふふん」
「あたしは動画編集にも使うしー!」
「わちの部屋ですればよかろう?」
「あ、そっか」
しまった!
それはそれで部屋に入り浸られてパソコンを乗っ取られる!
苦笑いで黙っていた北神くんの背中から、ひょっこり風花ちゃんが顔を出した。
「ゲームプレイ配信するです?」
なんかこの子も結構マイペースだな。
急に話題を振られたので、「うむ? うむ」と適当な相槌を返した。
「それなら配信環境セットするです」
なんじゃと? わちもゲーム生配信デビュー!?
「お兄の下手なゲームプレイなんて観る人いるの?」
「なぬおー!? そこそこ上手いわ!」
「ゲーム配信は下手なのと上手な人が需要あるです。半端な人が一番地味で見られないです」
「わち、だめじゃん」
地味じゃん。
「でも顔出しすればいいじゃん!」
「ゲームプレイに顔いるのかのう……」
「プレイがつまらなくても、ティルちーの顔で釣れるし」
つまらない言うな。釣る言うな。
パソコンの設置は終わり、黒服たちは帰っていく。ばいばい。
風花ちゃんはまだOSのセットアップや配信ソフトの設定をするまでいるようだ。
途中でカーチャンがお茶菓子を持って階段を上ってきたが追い返した。搬入で部屋が埃っぽいからと言って納得させた。
「北神さんちの子たちに迷惑かけちゃダメだからね!」
「あーい」
カーチャンすまねえ。とっくに迷惑はかけまくりだ。特に妹が。
「やほー。あれー? 風花ちゃんだー。何してるのー?」
しばらくして星野さんがやってきて、わちを抱きかかえてクッションに座った。
みんなわちをぬいぐるみか何かだと思ってない?
「パソコンのセットアップ中なのじゃ」
「へー。風花ちゃんすごいねー」
「すごくないです。ふつうですっ」
わちにはわからぬので全部おまかせじゃ。あどみにすとれーたーってなんじゃ?
そしてダンジョン突入メンバーが揃ったので今日の攻略。
ナイフを6本ほど持ち込んで、星野さんの投擲チャレンジしてみることにした。
まずはゲートを通ってみると、そこには一面の小麦畑が!
「小麦が復活しとるのじゃが!?」
「あれ? これまた回収した方がいいの?」
妹がめんどくさって顔してるけど、小麦粉はまだ残ってるはずじゃ……。残っておるよな?
「うん。小麦粉あるよ」
館の貯蔵庫へ行って確認すると、小麦粉はちゃんと残っていた。
「なんで小麦生えてるんだろう」
「バグっとるんじゃないかの?」
そもそも育てる工程なしで最初から生えてたしのう。わちが白い壁に手を付けてむむむとイメージしてる時に小麦畑を想像してしまったから、生えてる状態がデフォルト化してるのかもしれん。
「そうなるとファーミングゲームじゃないのう……」
「育ててないもんね」
耕して、土作りをして、種もみを蒔いて……という工程がない。そもそも季節があるのだろうか。
何もかもが半端に再現されてるのう。
そういえば、前の2つのダンジョンも半端であった。
最初のダンジョンは、ローグライクゲームとして半端だった。
2つ目のダンジョンは、ローグライクゲームのパロディとして半端だった。
今回も全体的にふわっふわの再現度だ。
「ティルちんがふわっふわなせいじゃない? 精霊だけに」
「やかましいのじゃ」
何も上手くも面白くもないボケやめろなのじゃ!
とりあえずダンジョンに入ってさっくりと進み、ダンジョン2階の地底湖に着いた。
「星野さん、任せたのじゃ」
「任された!」
ざばあんと水しぶきの音へ向かって、星野さんは素早くナイフを投げつけた。
暗闇の中で『ぐぎゃ!』と声が響く。
むぅ。何も見えん。
「斃せたのかの?」
「ううん。水の中に引っ込んだみたい」
とりあえずナイフを毎回持ち込めば先へ進めそう?
壁際をぐるりと回り、壁の穴から次のフロアへ移動すると、今度は下り坂が続いていた。
そして坂を下っていくと開けたフロアに出て、天井から太陽光が差し込む明るい部屋となった。
下り坂はぐるりと壁沿いに螺旋状になっている。
そして眼下にあるのはやはり地底湖だ。
「明るいだけましかのう」
「ぎゃあ! 虫だー!」
羽の生えた人間サイズほどの巨大な虫がブンブンと飛び交っていた!
虫嫌いの妹だけじゃなく、これはわちもきつい!
みんなパニックである!
「妹よ! 松明じゃ! ほら!」
「やだーっ! ティルちんもう帰ろう!」
妹が松明をぶんぶんと振ると、羽虫は2匹3匹と燃えて湖に落ちていく。だが羽虫はまだ無数にぶんぶんと飛び交っていた。
さらに眼下の湖から水竜が顔を覗かせ、落ちた羽虫にがぶりと食らいついた。さらにびよんと跳びはねて、わちらに向かって口から水を噴射してきた!
「危ないアズマさん!」
「ぎゃー!」
北神エルフが水噴射からわちらを庇って直撃を受けた。北神エルフは水圧で押し出され、上方の壁に激突し、落下し消えていった。
「撤退撤退じゃー!」
ぴかぴかー!
わちらは光に包まれ、館の部屋へ帰還した。
「北神くん、あたしを助けたせいで……」
「尊い犠牲じゃった……」
「やっぱりあたしのこと好きなのでは?」
「そのマッチョ姿で言う?」
助ける必要ないじゃろ。
それはさておき、プリンセス俺にポーションと、そしてパンを焼いて作って持っていく。
プリンセス俺に少し変化が起こっていた。前髪の一部が白くなっていたのだ。
「お兄にメッシュ付いてる……あいたたた……」
「わちが染めたわけじゃないのじゃ!」
パンを食べさせたところ、「35点です」と評価された。やっぱなんか腹立つな俺。
ゲートから部屋に戻るとそこには北神くんが……、普通に北神エルフとして座っていた。良かった。
「北神くん! あたしを助けてくれてありがとう! 好き!」
「うん。助けたのは判断ミスだったかな。アズマさんなら死ななそうだし」
「ひどい!」
北神くんもそう思うか。わちもそう思う。
「うるさいです! パスワード決めるからティルちーこっちに来るです!」
風花ちゃんに叱られた……。しょんぼり。
そしてだらりとみんなで配信テストしたり、買い物をしたり、ゲームしたりして日曜日を過ごした。
昼からはなんとなく付けたテレビで漫才大会をしていたので、だらっと観て過ごした。
みんなが帰った後もリビングで漫才を観続け、番組が終わった後に妹は立ち上がりわちに手を差し出した。
「よしティルちー! あたしらも漫才やろう!」
「やかましいのじゃ」
「マッチョ化したあたしがツッコミね」
「ツッコミ受けたらわちは死ぬのじゃが」
ただでさえ内容が混沌としているわちのチャンネルが、さらに迷走してまうわ!




