6話:ポーションがあれば俺だって
「妹よ」
「なんだ兄よ」
俺と妹は着替え直して部屋で反省会だ。
「マッチョいいなぁああああっ!!」
圧倒的筋肉。そしてパワー。妹のマッチョメンは俺に足りないものを全て持っていた。
「お兄ちゃんだってめっちゃかわいいじゃん」
「かわいいだけじゃん」
俺は役立たずな事を認めた。ダンジョン内ではのじゃロリのプライドがそれを許さなかったが、改めて思うと筋肉の前では完全に役立たずだった。
「いいなー。かわいいのいいなー。妹ほしいなー」
「おいやめろ。その目で見るな」
妹が猫を見つめるような目で、今の俺の事を見てくる。
気色悪いので妹を部屋から追い出した。
さて、あの巨大スライムをどうやって攻略しようか。
ロークライクダンジョンが一階だけだなんてそんな甘い話しはなかった。ただのダンジョンなら浅いダンジョンもあるだろう。そもそも普通に出入り口へ帰れば良い。
このダンジョンは踏破しないと帰れないタイプだ。辛い。つらたん。
俺たちの目的はダンジョン内の魔法のアイテムだ。それを持ち帰れないとなると、ダンジョン探索の意味を失ってしまう。
いやだが、こんなゲーム的なダンジョンだ。もしかしたら帰還のアイテムだってあるかもしれない。そうだ、絶対あるはずだ。
そう思わないとやってられなかった。
翌日。火曜日にも学校はある。
いつものようにニッシーが俺の前に現れた。こいつ倒したら経験値入らねえかな。
「なあ、昨日はあれからどうなったんだよ」
「ああ。割と色っぽいブラを買ってたな」
「はぁ? 殺す!」
ニッシーに首を絞められて、危うく俺が経験値になりかけた。
「げほっ。ごほっ」
「どんなのだ!? 白状しろ!」
「黒のレースが付いた半分透けてるやつ」
「まじか!」
ニッシーは星野さんを凝視した。
ちなみに買ったのはそっちではなく、俺の妹の方だ。
「はぁはぁ……。見えた。完全に透けて見えたわ……」
「すげえな。透視能力じゃん」
すでに衣替えが来て、冬服だ。白シャツの夏服ならともかく透けて見えるわけがない。
「ところでアズマさー。お前も来るか? ダンジョン」
「あん?」
ダンジョンなら目下のじゃロリになって攻略中だが。
「ダンジョン行きたがってたじゃんよぉ。今週末もさ、従兄弟に聞いたら友人までなら連れて来て良いってよ。人手が多いほど負担が減るからな。荷物運びの雑用だけになっちまうかもしれんが」
「報酬は?」
「一人一日一万円」
「でけえな……」
日当一万か。だが冷静に考えると、危険のある肉体労働と思えば労災もないし安すぎる方かもしれん。
「ポーションが手に入るなら考えるが」
「あー無理無理。滅多に出ねえし、ネットオークションでも10万からだろ。そもそもアイテムは全部従兄弟のゴリさんに渡さなきゃだし」
「じゃあいいや」
ポーションが手に入るなら、それを餌に妹をダンジョンに呼び続けられると考えたのだが、無理なら行く意味はない。
「なんだよお前がポーション欲しがるって。女にでもプレゼントするのかよ」
「まあな」
女には違いない。ダンジョン内ではマッチョメンに変化するが。
「アズマお前やっぱり……星野さんを狙ってんなぁ!?」
「声でかい」
聞こえてるし。驚いてこっち振り返ってるし。
「先に俺を倒してからにしろや」
「いやなんでだよ」
「喧嘩はよしなよ」
俺たちの間に割って入ったのは、中性的なイケメンの北神くんだ。女装させたい裏ランキングのトップである。俺も一票入れた。
「おう。なんだよおう!」
「オットセイかよ」
イケメンに気圧されたニッシーにそんなツッコミを入れたら、奥で星野さんが口を抑えて笑ってるのが見えた。
ふっ。またポイント稼いじまったぜ。
「ところでアズマくん。ポーションの話しをしていたよね? ポーションが欲しいのかい?」
「まあ欲しいっちゃ欲しいけど」
「あげようか?」
北神くんのその一言で、ガタガタガタとクラス内の女子が一斉に椅子を鳴らした。
星野さんも立ち上がっている。あれだけかわいいのにポーション欲しいのか。そうなると妹よりも星野さんにプレゼントしたくなってくるな……。
「いいのか? そんな高いものを」
「女性にプレゼントするんでしょ? 僕は応援するよ」
ふわさと流れるような男にしては少し長めの髪から、良い香りが漂ってくる。
なんて良い奴なんだ。惚れちまうぜ。
「いや、やっぱいいや。そういうものは自力で手に入れるべきだろう?」
「ははっ! そうだよね! かっこいいねアズマくんは! どうだい? 週末は空いてるかい?」
ふふ。こんな幼さを少し顔に残したかわいい男子からお誘いを貰っちまったぜ。照れる。
北神くんはダンジョンカースト上位の人だ。つまりそれはダンジョン持ちを意味する。つまり俺はそこへお呼ばれされちまったということだ。
そこへ待ったをかけたのが星野さんだった。
「ねえちょっといい? 女の子はプレゼントが北神くんのものか、自分で手に入れたものかなんてこだわりを持ってないと思うの」
どういうことだ?
いや待て、星野さんは、俺がポーションを星野さんにプレゼントすると勘違いしている。
つまり星野さんは、いいから遠慮せずにポーションを貰って私に寄越せと言っている?
結構良い性格してるなこの子……。
「そうかなぁ。まあ妹はそんなことにこだわりなさそうだが」
「妹!?」
「待てよ、俺が渡すより北神くんが直接渡した方が喜ぶんじゃないか? そうだ、それがいい」
「いや、それはちょっと話しが違うんじゃないかなぁ?」
北神くんはぽりぽりと頭を搔いた。
そして星野さんは顔を赤くして所在なさげにしている。
いやでもこの状況は俺のせいじゃない。勘違いさせたニッシーが全て悪い。
「週末の話しは後で連絡するわ……ってスマホ壊れたんだった。妹のLIME登録してくんね? 隣のクラスのピンク髪だからさ」
「おっけー。ちょっと聞いてくるよ」
くっくっく。妹はいきなりイケメンからLIMEの交換を迫られて焦るに違いない。後をつけてちょっとその様子を覗いてくるか……。
と、その前に。
「ああそうだ。もしポーション手に入ったら妹に分けるように言っておくわ」
「あ、うん。うん!」
星野さんもそれで納得してくれた。良かった良かった。
そしてニッシーは必死になってスマホを弄っていた。あ、こいつポーション買って告白する気か?
まあニッシーなんてどうでもいい。俺は星野さんを手招きして、隣のクラスの様子を一緒に覗きにいった。
ちっ、顔を出した瞬間に見つかってしまった。
しかもドッキリにしても妹は満更でもない顔をしていて、完全に失敗だ。
「面白くないな……」
「そうだね……」
俺と星野さんは同調した。
くそ、俺だって、俺だって、ダンジョンからアイテムが持ち帰れるようになったらポーションじゃぶじゃぶ使ってイケメンになってモテモテになってやるんだから!
「星野さん。俺がんばるよ。ポーション沢山手に入れるから」
「え、うん、頑張ってっ」
ああ、俺のこんな決意表明に、天使のような笑顔で答えてくれる星野さんはやっぱり良い人だ。
いつかポーション一本くらいお裾分けしてあげようと俺は心に決め、ダンジョン挑戦のやる気を高めたのであった。
妹は年子で同学年。