58話:誰じゃこのダンジョン創ったのはー!
12月18日金曜日。念願の週末である。
今週は平日の探索は見送ることにしていた。死ぬと変身したまま戻るというのが思ったよりも厄介だったからだ。
ダンジョンに行くのをむずむずしながら我慢して、ゲームの方のファーミングプリンセスを進めた。
おっと、ニッシーからLIMEが。
ニッシー『ARCやろうぜ!』
恐竜サバイバルゲーム。知ってることは知っている。VTOUYUBERにも流行ってたみたいだからな。おすすめ関連動画に出てきたのでちょっと覗いて観た。興味はちょっとある。だが。
ティルちー『PCスペック足りなす』
ニッシー『(´・ω・`)』
ARCは居間にあるパパンのパソコンでは動きそうになかった。
パソコン欲しいなー。北神くんに言ったらくれないかなー。すっかりわちは貢がれ姫じゃ。
まあ、ニッシーは置いといて、ダンジョンである。
そして久々のフルメンバーである。
もう授業は午前中だけしかないので、お昼の後に集まった。
「やっほーティル様ー!」
それに、竹林さんも追加だ。彼女のトレジャーサーチ(本人命名)能力は大変有能である。
南さんはいつもどおり部屋にお留守番で、5人で突入だ。
轟さんは誘っていない。回復魔法を使うことを恐れていたからだ。呼んだらツンツンしながら手伝ってくれそうな気はするが。
「れっつごーじゃ!」
麦畑のトロールとの戦闘はさっくり避けて、館へ目指す。
ついでに通り道の麦を収穫しておいた。ぴかぴか。なんか意味あるのかなこれ。
そして館の中のゲートから、自然洞窟風のダンジョンへ。
初見の北神エルフもこの景色に感動していた。ふふーん。わちが創った。多分。
「宝箱! ポーション!」
「またかの」
なんだか今回はやたらポーションが出る。すでにポーションが3個出た。なんだろうこの偏り。
半魚人は見掛け倒しのよわよわなので、妹マッチョと星野猫人がさっくり処理していく。
「あっ! スライム! 気をつけて!」
前の通路がスライムで塞がれていた。慌てて戻ろうとしたけど、後ろもすでにスライム封鎖だ。
またこのパターンか!
「うう……ごめん。水の音と混じってスライムの気配わかりにくいの……」
「星野さんは悪くないのじゃ。しかしこのスライム対策は困ったものじゃのう」
最終手段として南さん投入もあるが、一度姿を戻さないといけないから気が引ける。それに雷の魔導書を持ち込んで死んでロストしたらもったいない。南さんは攻略の切り札なのである。スライムトラップだけに投入するようなお方ではないのじゃ。
対策が思いつかないまま、スライムがじりじりと迫ってくる。いっそ殺るならさっさと殺ってくれぇー!
おろおろしていたら竹林さんが肩をバンバンと叩いてきた。
「あ! ティル様! あれだよ! ピカピカ!」
「なぬ?」
スライムを収穫?
「言ってたよね! 魔を払うとか!」
「むぅ」
言ってたけど、あれ外れじゃったのだよなぁ。
まあやるだけやってみるか。ぴかーっ!
ぐわん。
しゅたっ。
「はっ!? ここは!?」
館の精霊姫の部屋へ移動した。
そしてポシェットにはポーションが3つ……。
え? ゲームと同じように普通に戻れた……?
「うおおおお! 大収穫じゃん!」
「すごぉい! ティルちゃんさいこう!」
「ティル様は偉大です!」
まじか。まじで? 夢じゃない?
わちのピカピカは本当に帰還魔法だった?
なにそれ。いいの? 本当に?
なにこのぬるさ。確かに今まで散々バランスが悪いって言ってたけど、本当にいいの? トラップだったりしない?
「何か罠の可能性はありませんか?」
北神エルフも同じこと考えてた。やっぱ優しすぎる仕様だと反って疑っちゃうよね。
「ううむ。じゃがゲームの通りじゃしのう。それに洞窟へのゲートも消えてるのじゃ」
言って戻ってを延々と繰り返すことはできないようだ。
そして館の外の景色は夕方になっていた。日が暮れるほど長い時間を潜っていたわけじゃない。10分も経っていないだろう。帰還魔法を使ったから、時間が変化したに過ぎない――。
「あ! そうじゃ!」
「どしたのティルちん?」
そうだ。ダンジョンに入って戻ると時間が経つ。
時間が経つということはつまり。
「姫の症状が悪化するのじゃ……」
「アズマ姫のこと?」
「モコモコ、その呼び方止めてってばぁ」
「あ、ごめーん」
モコモコは竹林さんのことだ。それはともかく。
「ええと、説明していただけますか?」
そうだ。北神エルフ、そして星野さんも知らないもんね。
わちは館に人間の姫がいて、時間経過で症状が悪化し、薬でそれを抑える話をした。
そしてその人間の姫が、男子高校生の俺の姿であることも。
「それはつまり、ダンジョンに潜るたびにアズマくんの元の身体が変異していくということですか」
「うむ。怖いが、様子を確かめて見るしかないのう……」
がくがくぷるぷる。
わちらは姫の部屋へと向かった。
「お薬を持ってきてくれたの?」
天蓋のベッドのお姫様の俺がこちらを向く。うわー。頭にきのこ生えてる……。生えちゃってる……。
それにしても薬か。ポーションしかないのじゃが。うん?
「もしかして薬ってポーションかの?」
「いつもありがとう」
俺はそう言ってポーションを受け取った。
ああ! だから宝箱からポーションが大量に出てくるのか!
「ええ!? つまりポーション取ってきてもお兄に使われちゃうの!?」
「なぜ嫌そうに言うのじゃ!?」
わちの身体じゃぞ! 美容より大事じゃろ!
「でもこれでわかりましたね。今回のシステムが」
「うむ。簡単に戻れる代わりにポーションを献上するのじゃな」
「え? でもそれだけ? 1本だけならまあ許してやんよ」
なんか妹が偉そう! 姫だぞ俺!
妹も姫だけど。名前だけだけど。くっそややこし。
「1本で済むのは最初だけじゃ」
「うえー。なるほど……。あっ、じゃあパンは?」
「ご飯もないと死ぬじゃろ。あっ」
ゲームみたいに小麦の収穫と、パン作りも平行してやれってことかの!? めんどくさ!
「誰じゃこのダンジョン創ったのはー!」
「お兄だお兄」
わちじゃった。
もう姫には用はないので、館の外へ出た。
門のダンジョンゲートから戻る前に小麦の収穫をしようとしたけど、ピカピカができなくなっていた。ダンジョンに入った後では収穫できないようだ。
仕方ないので、素直にゲートから戻る。
ひゅん。
しゅた。
「お、おかえり……。遅かった、ね?」
「うむ。色々あっての」
遅かったと言っても、麦畑みたいに外が夕方になっていたりはしない。30分くらい経っていただけだ。
「ど、どうなの? 今回のダンジョン……」
「めっちゃしんどいのじゃ」
へにょへにょん。
座り込んだわちの隣で妹はVサインをした。
「でも今日はポーション2つの収穫だよ! いえーい!」
「ポーション風呂ー!」
星野さんもはしゃぎ、竹林さんもはしゃぐ。そして南さんを巻き込んだ。
「待て待て。全員でうちの風呂は入れんじゃろ」
「ってことで、北神風呂を貸せぃ!」
「ええ……いいけど」
いいんだ。
もうわちも女子とのお風呂には慣れたものじゃ。のじゃロリ状態なら恥ずかしくないもん。
北神くんは誘っても拒否られたので、代わりに風花ちゃんが犠牲となった。
「ぐへへへ」
「触るなです!」
妹の手をするっとかわし、南さんの元へ避難した。
む! 南さんを取られたのじゃ!
「ティルちゃんはこっち」
「ティル様ー! ぬるぬるしよー!」
ぬぅ! 星野さんと竹林さんの手から逃れられない!
待て! 挟まれるのは聞いてないんじゃが! じゃが!
にゅあああ……。
「よし! みんなでお風呂上がり配信しよう!」
それどころじゃないんじゃがぁ。
妹は「クリスマス動画を撮ろう」とか言い出した。なぜじゃ。
突拍子もない提案で、わちはビキニサンタ姿になった。耐冷の指輪付きじゃ。そして雪山に放り出される。
「児童虐待じゃ……」
「ほらジングルベル歌ってー!」
てか、お風呂後に雪山ダンジョンとかおかしいじゃろ。湯冷めするじゃろ。みんな震えちょる。
そしてスマホから伴奏が流れる。歌詞わからんのだが。
「じんぐるべーじんぐるべーにゃにゃにゃーにゃにゃー♪」
ほとんど「にゃ」で乗り切った。
「おっけー! ダンジョンでジングルベル歌ってみた動画できた!」
「クリスマス関係ない歌なんじゃがいいのか?」
「まじか」
少なくとも雪山で歌うような歌じゃない、原曲は。へぷちっ。




